中英語の方言を研究していると,LALME の Dot Map 風のイングランド地図を描けると便利だと思う機会がある.LALME の地図を用いるのであればコピーしたりスキャンしたりすればよいし,オンラインの LAEME であれば "Mapping" 機能から "Feature Maps" で特に注目すべき言語項目に関する地図はデジタル画像で得られる.後者では,"Create a Feature Map" なるユーザーによる地図作成機能もおいおい追加されるとのことで,中英語方言学のヴィジュアル化は今後も進展して行くと思われる.
しかし,それでも様々な困難や不便はある.例えば,LAEME でも,自分の関心のある言語項目が LAEME 自体で扱われていなければ地図作成機能は役に立たないし(例えば,私の中英語名詞複数の研究では名詞の歴史的な文法性が重要だが,LAEME text database では性がタグ付けされていないのでフルには活用できなかった),LALME についてはそもそも地図がデジタル化されていず応用しにくい(地図のデジタル化,少なくともテキスト情報や座標情報のデジタル化が一刻も早く望まれる).
それでも,手をこまねいて待っているわけには行かない.既存のツールと自分の関心は大概ずれているものであり,自ら研究環境を作る必要に迫られるのが常だからだ.中英語の方言地図に関する限り,LALME や LAEME からテキストの方言付与情報さえ得られれば,自ら集めた言語項目に関するデータを地図上にプロットすることは十分に可能である.(需要は少ないと思われるが)その作業を少しでも簡便化するために,HelMapperUK なる CGI を作成してみた.英国のベースマップ上にデータポイントをプロットするという単機能に特化しており,凡例をつけるなどの付加機能はないが,ヴィジュアル化して概観をつかむという用途には十分と思われる.
以下で使い方の説明をするが,その前に,まず
こちらのデータファイルの内容を上のテキストボックスに上書きコピペして出力結果の確認をどうぞ.これは,拙著の複数形研究で分析した初期中英語テキストの分布で,赤丸が手作業で分析したもの,青四角が
LAEME text database を援用して分析したもの,それぞれの形で小さいものはテキストの全体ではなく部分を分析したものを表わす.(実際,Hotta (55) の地図はおよそこのようにして描かれた.)
では,使い方の説明(基本的に作者個人仕様のものを公開しているだけなのでインターフェースは洗練されていません,あしからず).テキストボックスにあらかじめ入力されているとおり,入力データは設定部 (Configuration) で始まる.以下が設定可能な変数.
・ 「map」変数には "England" か "UK" が入る.これで,出力される地図の範囲を決定.
・ 「scale」変数は,X方向とY方向への拡大率を指定.拡大なし (scale=1 1) だと,出力画像は 386 * 313 Pixels (England) ,529 * 557 Pixels (UK) の大きさ.
・ 「pattern + 数字」変数は,プロットに用いる記号を定義する.イコールの後にはスペース区切りで (1) 形 ("box", "circle", "cross", "diamond", "invertedtriangle", "plus", or "triangle") ,(2) その形を塗りつぶすか否か (ex. "fill" or "stroke") ,(3) 色 (ex. "aqua", "black", "blue", "cyan", "green", "lime", "magenta", "red"; 他の大抵の色名にも対応しているはずだが出力される画像に反映されない色もある) ,(4) 大きさ(線の長さや円の直径に相当する Pixels)の4項目の値を与える.パターンは好きなだけユーザー定義可能.
その後にデータ部 (Data points) が続く.1行に1データポイントで,各行はタブ区切りで (1) X座標,(2) Y座標,(3) 上で定義されたパターン名のいずれか ("pattern1" など)の3項目の値を与える(実際にはパターン名は省略可能.その場合,自動的に "pattern1" が用いられる.).座標系については,
LALME や
LAEME で採用されている Ordinance Survey National Grid Reference の3桁ずつの座標系 (ex. "372 244") ,あるいは一般の経度・緯度 (ex. -2.408752393 52.09322081) のいずれも可能(自動で判定される).
空行,あるいは "#" で始まるコメント行はデータとして無視される.
出力結果は GIF 形式の画像として表われる.別途,EPS 形式のベクター画像としてもダウンロードできるようにした(こちらのファイルをいじれるのであれば,各種の設定を含めた細かいチューニングが可能).
英国ベースマップの作成には,
CIA World DataBank II や
DCW Map Interface for Europe のデータを参照した.
(後記 2011/08/31(Wed):
[2011-08-31-1]の記事「
LAEME text database のデータ点とテキスト規模」で,HelMapperUK で作製した地図の実例を示した.)
・ McIntosh, Angus, M. L. Samuels, and M. Benskin.
A Linguistic Atlas of Late Mediaeval English. 4 vols. Aberdeen: Aberdeen UP, 1986.
・ Laing, Margaret and Roger Lass, eds.
A Linguistic Atlas of Early Middle English, 1150--1325.
http://www.lel.ed.ac.uk/ihd/laeme1/laeme1.html . Online. Edinburgh: U of Edinburgh, 2007.
・ Hotta, Ryuichi.
The Development of the Nominal Plural Forms in Early Middle English. Hituzi Linguistics in English 10. Tokyo: Hituzi Syobo, 2009.
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