01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28
2024 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2023 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2022 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2021 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2020 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2019 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2018 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2017 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2016 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2015 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2014 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2013 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2012 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2011 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2010 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2009 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
昨日の記事「#1402. 英語が千年間,母音を強化し子音を弱化してきた理由」 ([2013-02-27-1]) で取り上げた論文で,Ritt は歴史言語学上の重要な問題である drift (駆流)にまとわりつく謎めいたオーラを取り除こうとしている.drift の問題は「#685. なぜ言語変化には drift があるのか (1)」 ([2011-03-13-1]) と「#686. なぜ言語変化には drift があるのか (2)」 ([2011-03-14-1]) でも取り上げたが,次のように提示することができる.話者個人は自らの人生の期間を超えて言語変化を継続させようとする動機づけなどもっていないはずなのに,なぜ世代を超えて伝承されているとしか思えない言語変化があるのか.あたかも言語そのものが話者を超越したところで生命をもっているかのような振る舞いを見せるのはなぜか.この問題を Ritt (215) のことばで示すと,次のようになる.
[S]ince individual speakers are normally not aware of the long-term histories of their languages and have no reason to be interested in them at all, it is difficult to see why they should be motivated to adjust their behaviour in communication or language acquisition to make the development of their language conform to any long-term trend.
この謎に対し,Ritt (215) は言語と話者についての3つの前提を理解することで解決できると述べる.
First, . . . the case can be made that even though whole language systems do not represent historical objects, their constituents do, because they are transmitted faithfully enough among speakers and thereby establish populations and lineages of constituent types which persist in time. Secondly, when speakers make choices among different variants of a linguistic constituent, they are not completely free. Instead their choice is always limited (a) by universal constraints on human physiology and (b) by socio-historical contingencies such as the relative prestige of different constituent variants. Since it would be against the self-interests of individual speakers to resist them, their choices can be expected to reflect physiological and social constraints more or less automatically. Thirdly, a speaker never chooses among isolated pairs of constituent variants. Instead constituent choice always occurs in the context of actual discourse, where any constituent of a linguistic system is always used and expressed in combination with others.
そして驚くべきことに,話者は上記の前提に基づく言語行動において,生理的,社会的な機械として機能しているにすぎないという見解が示される (215--16) .
In such interactions between constituents the role of speakers will be restricted to responding --- unconsciously and more or less automatically --- to physiological and social constraints on their communicative behaviour. In other words, speakers will not figure as autonomous, active and whimsical agents of change, but merely provide the mechanics through which linguistic constituents interact with each other.
このモデルによれば,話者は,個々の言語項目が相互に組み立てているネットワークのなかを動き回る,生理的よび社会的な機能を付与された媒質ということになる.話者が言語変化の主体ではなく媒介であるという提言は,きわめて controversial だろう.
・ Ritt, Nikolaus. "How to Weaken one's Consonants, Strengthen one's Vowels and Remain English at the Same Time." Analysing Older English. Ed. David Denison, Ricardo Bermúdez-Otero, Chris McCully, and Emma Moore. Cambridge: CUP, 2012. 213--31.
「#1231. drift 言語変化観の引用を4点」 ([2012-09-09-1]) の記事で,Ritt の論文に触れた.この論文では標題に掲げた問題が考察されるが,筆者の態度はきわめて合理主義的で機能主義的である.
Ritt は,中英語以来の Homorganic Lengthening, Middle English Open Syllable Lengthening (MEOSL), Great Vowel Shift を始めとする長母音化や2重母音化,また連動して生じてきた母音の量の対立の明確化など,種々の母音にまつわる変化を「母音の強化」 (strengthening of vowels) と一括した.それに対して,子音の量の対立の解消,子音の母音化,子音の消失などの種々の子音にまつわる変化を「子音の弱化」 (weakening of consonants) と一括した.直近千年にわたる英語音韻史は母音の強化と子音の弱化に特徴づけられるとしながら,その背景にある原因を合理的に説明しようと試みた.このような歴史的な潮流はしばしば drift (駆流)として言及され,歴史言語学においてその原動力は最大の謎の1つとなっているが,Ritt は意外なところに解を見いだそうとする.それは,英語に長いあいだ根付いてきた "rhythmic isochrony" と "fixed lexical stress on major class lexical items" (224) である.
広く知られているように,英語には "rhythmic isochrony" がある.およそ強い音節と弱い音節とが交互に現われる韻脚 (foot stress) の各々が,およそ同じ長さをもって発音されるという性質だ.これにより,多くの音節が含まれる韻脚では各音節は素早く短く発音され,逆に音節数が少ない韻脚では各音節はゆっくり長く発音される.さらに,英語には "fixed lexical stress on major class lexical items" という強勢の置かれる位置に関する強い制限があり,強勢音節は自らの卓越を明確に主張する必要に迫られる.さて,この2つの原則により,強勢音節に置かれる同じ音素でも統語的な位置によって長さは変わることになり,長短の対立が常に機能するとは限らない状態となる.特に英語の子音音素では長短の対立の機能負担量 (functional load) はもともと大きくなかったので,その対立は初期中英語に消失した(子音の弱化).一方,母音音素では長短の対立は機能負担量が大きかったために消失することはなく,むしろ対立を保持し,拡大する方向へと進化した.短母音と長母音の差を明確にするために,前者を弛緩化,後者を緊張化させ,さらに後者から2重母音を発達させて,前者との峻別を図った.2つの原則と,それに端を発した「母音の強化」は,互いに支え合い,堅固なスパイラルとなっていった.これが,標記の問題に対する Ritt の機能主義的な解答である.
狐につままれたような感じがする.多くの疑問が浮かんでくる.そもそも英語ではなぜ rhythmic isochrony がそれほどまでに強固なのだろうか.他の言語における類似する,あるいは相異する drift と比較したときに,同じような理論が通用するのか.音素の機能負担量を理論的ではなく実証的に計る方法はあるのか.ラベルの貼られているような母音変化が,(別の時機ではなく)ある時機に,ある方言において生じるのはなぜか.
Ritt の議論はむしろ多くの問いを呼ぶように思えるが,その真の意義は,先に触れたように,drift を合理的に説明しようとするところにあるのだろうと思う.それはそれで大いに論争の的になるのだが,明日の記事で.
・ Ritt, Nikolaus. "How to Weaken one's Consonants, Strengthen one's Vowels and Remain English at the Same Time." Analysing Older English. Ed. David Denison, Ricardo Bermúdez-Otero, Chris McCully, and Emma Moore. Cambridge: CUP, 2012. 213--31.
これまで1400件の記事を書きためてきたが,よくアクセスされている記事を調べてみた.厳密にいえば記事ページのページビュー数でのランキングである.上位100位までの記事を取り出し,リンクを張った.カッコ内の数字は,ページビュー数.
上位には,言語学や英語学の一般的な話題を扱ったものが多く含まれている.具体的で特殊な話題も散見されるが,この分野での重要な概念や用語をタイトルに含む記事や日本語絡みの記事が多くアクセスされているようだ.
500位程度までの拡大版ランキングを見たい方は,こちらからどうぞ.
「#968. 中英語におけるフランス借用語の質的形容詞」 ([2011-12-21-1]) で,日本歴史言語学会第一回大会における輿石氏の研究発表に関連して記事を書いた.先日,同発表に基づいて輿石氏が『歴史言語学』第1号に寄稿した論文の抜き刷りをいただいた.(論文では,本ブログの[2011-12-21-1]の記事を参照いただきました.輿石さん,ありがとうございます.)
輿石氏はこの論文の中で,(1) 英語の語形成は歴史的に Native Agglutination (NA) と Latinate Fusion (LF) とへ二分される,(2) NA 対 LF の語形成上の対立は,RA (関係的・記述的な形容詞)対 QA (質的・評価的な形容詞)の意味上の対立と概ね一致する,(3) 通時的に RA が QA へと推移する傾向が見られる,の3点を主張している.この問題,とりわけ (3) の通時的な問題に関しては,輿石氏の先の研究発表に触発されて,本ブログでも Farsi の論文を参照しながら 「#1099. 記述の形容詞と評価の形容詞」 ([2012-04-30-1]),「#1100. Farsi の形容詞区分の通時的な意味合い」 ([2012-05-01-1]),「#1193. フランス語に脅かされた英語の言語項目」 ([2012-08-02-1]) で少しく議論した.
RA から QA への推移という問題について,輿石氏はこれを "a compensatory strategy for semantic strategy for semantic bleaching of QAs" (23) と位置づけ,"a general linguistic change from the marked to the unmarked" (23) ととらえている.結論部に近い次の1段落を引用する.
In my opinion, what underlies the diachronic shift and the synchronic mechanism is a familiar transition from the marked RA to the unmarked QA. The central member of the adjective is what I call the 'evaluative', which can be fundamentally expressed as a certain point in the 'good/bad' scale. Since adjectives on this scale typically undergo 'semantic bleaching' and their meanings easily get watered down, language has to find some way to compensate for the bleaching and ensure the diversity of evaluatives. In my view, the categorial shifts from RAs to QAs are best to be considered one of the compensatory strategies for this semantic bleaching. (34--35)
RA が評価を帯びて QA へと推移してゆく過程は,「#1100. Farsi の形容詞区分の通時的な意味合い」 ([2012-05-01-1]) で述べたように,自然な言語変化として受け入れられる.だが,その背景に,既存の QA の "semantic bleaching" があり,その間隙につけ込む形で本来の RA から派生した QA が割り込むと想定することに関して,私は異なった考えをもっている.意味的漂白につけ込んでの QA 化ということは,意味上の drag chain が生じているということにほかならないが,例えば「#660. 中英語のフランス借用語の形容詞比率」 ([2011-02-16-1]) で挙げたフランス借用語形容詞は,英語本来語形容詞の意味的漂白につけ込んだと考えることができるのだろうか.あるいは,「#1193. フランス語に脅かされた英語の言語項目」 ([2012-08-02-1]) で紹介した -ness と -ity の競合も,前者の漂白の隙を突いた drag chain として説明できるのかどうか.また,上の引用の直後で,日本語のイ形容詞とナ形容詞(形容動詞)の間の類似現象に触れられているが,日本語史では,漢語に基づくナ形容詞が大量に生産されたのは,和語のイ形容詞の不足を補完するためだったとされ(佐藤,p. 121--22),和語のイ形容詞が意味的に漂白した後の間隙を埋めるためだったという議論は聞かない.さらに付け加えれば,現存する本来語の QA は,多くは基本語であり,意味的に漂白しているというよりは,むしろロマンス系の類義語と比べて強い感情をこめて用いられる傾向がある(関連して三層構造の各記事を参照).
意味的漂白につけ込む drag chain を想定するのではなく,ロマンス系の外来勢力が本来語要素を積極的に押しのけたという考え方,つまり push chain の過程を想定することはできないだろうか.もちろん,drag chain と push chain は必ずしも相反するものではなく,両方がともに作用するということもあり得るだろうが.いずれにせよ,結果として様々な評価的な形容詞が累積して,"the diversity of evaluatives" (35) が得られていることは確かだろう.
輿石さん,この問題について(だけではなく),ぜひ一緒に議論しましょう!
・ Koshiishi, Tetsuya. "Two Types of Adjectives and the History of English Word Formation." 『歴史言語学』第1号,2012年,23--38頁.
・ Farsi, A. A. "Classification of Adjectives." Language Learning 18 (1968): 45--60.
・ 佐藤 武義 編著 『概説 日本語の歴史』 朝倉書店,1995年.
「#1389. between の語源」 ([2013-02-14-1]),「#1393. between の歴史的異形態の豊富さ」([2013-02-18-1]),「#1394. between の異形態の分布の通時的変化」 ([2013-02-19-1]) に続いて,今回は LAEME を用いて通時的変化および方言別分布を調査した結果を報告する.
Helsinki Corpus による通時的調査 ([2013-02-19-1]) の場合と同様に,多数の異形態をまとめるに当たって,語尾以外における母音の違いは無視し,第2音節以降の子音(と,もしあれば語尾の母音も)の種類と組み合わせに注目した.lexel に "between" を指定して取り出した例をもとに,241個のトークンを半世紀ごと,方言別に整理した(区分は[2012-10-10-1]の記事「#1262. The LAEME Corpus の代表性 (1)」で採用したものと同じ).原データはこちらを参照.以下,最初に年代別,次に方言別の集計結果を掲げる.
PERIOD | nn | n | ne | x | xe | xn | xte | hn | he | tn | tx | txn | txe | ths | s | e | yn | zn | Sum |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
C12b | 18 | 1 | 2 | 7 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 28 |
C13a | 23 | 4 | 19 | 6 | 4 | 4 | 0 | 9 | 14 | 0 | 1 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 85 |
C13b | 20 | 3 | 23 | 2 | 1 | 3 | 4 | 1 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 2 | 1 | 1 | 1 | 1 | 64 |
C14a | 5 | 13 | 28 | 9 | 2 | 2 | 0 | 0 | 0 | 3 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 64 |
Sum | 66 | 21 | 72 | 24 | 7 | 9 | 4 | 10 | 14 | 3 | 2 | 1 | 1 | 2 | 1 | 2 | 1 | 1 | 241 |
DIALECT | nn | n | ne | x | xe | xn | xte | hn | he | tn | tx | txn | txe | ths | s | e | yn | zn | Sum |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
N | 0 | 0 | 1 | 9 | 2 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 15 |
NEM | 14 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 14 |
NWM | 7 | 0 | 6 | 0 | 0 | 0 | 0 | 8 | 14 | 0 | 0 | 0 | 0 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 37 |
SEM | 14 | 20 | 9 | 5 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 3 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 52 |
SWM | 31 | 1 | 26 | 7 | 5 | 7 | 0 | 2 | 0 | 0 | 1 | 0 | 1 | 0 | 1 | 0 | 1 | 1 | 84 |
SW | 0 | 0 | 16 | 3 | 0 | 0 | 4 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 24 |
SE | 0 | 0 | 14 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 15 |
Sum | 66 | 21 | 72 | 24 | 7 | 9 | 4 | 10 | 14 | 3 | 2 | 1 | 1 | 2 | 1 | 2 | 1 | 1 | 241 |
今年はこの話題を持ち出すのを今まで忘れていた.例年,本ブログでも1月前半に取り上げるはずの話題である.1月4日に,American Dialect Society により 2012年の The Word of the Year が公表された.大賞は Twitter のシンボル hashtag である.「#263. 1990年から2009年までの英語流行語大賞」 ([2010-01-15-1]) で見たように,2009年の WOY が twitter そのものだったことを合わせて考えると,この新メディアの影響力の大きさが改めて実感される.この語は次のように定義される.
Hashtag refers to the practice used on Twitter for marking topics or making commentary by means of a hash symbol (#) followed by a word or phrase.
大賞のほかに様々な部門賞が設けられているが,MOST USEFUL 部門の受賞は接尾辞 -(po)calypse, -(ma)geddon (hyperbolic combining forms for various catastrophes) .MOST CREATIVE 部門からは,gate lice (airline passengers who crowd around a gate waiting to board) .MOST UNNECESSARY 部門と MOST OUTRAGEOUS 部門の2部門を制覇したのは,legitimate rape (type of rape that Missouri Senate candidate Todd Akin claimed rarely results in pregnancy) .MOST EUPHEMISTIC 部門では,self-deportation (policy of encouraging illegal immigrants to return voluntarily to their home) .MOST LIKELY TO SUCCEED 部門からは marriage equality (legal recognition of same-sex marriage) が,LEAST LIKELY TO SUCCEED 部門からは phablet (mid-sized electronic device between a smartphone and a tablet) 及び YOLO (acronym for "You Only Live Once," often used sarcastically or self-deprecatingly) が受賞した.大統領選挙の年の新部門として ELECTION WORDS 部門からは,binders (full of women) (term used by Romney in the second presidential debate to describe the resumes of female job candidates that he consulted as governor of Massachusetts) が選ばれた.
その他,個人的には MOST CREATIVE 部門のノミネートに挙がった alpacalypse (the Mayan apocalypse predicted for Dec. 21, 2012 (alpaca + -lypse)) がおもしろい.各部門のノミネート語句など,詳しくはプレスリリースをどうぞ.また,かつての流行語対象の受賞については,All of the Words of the Year, 1990 to Present 及び,本ブログ内の woy の記事を参照.
近隣言語のあいだにみられる関係を把握する方法には,伝統的に系統樹モデル (family_tree) と波状モデル (wave_theory) が提唱されている.前者が前提とするのは系統樹によって表わされる語族 (language_family) という考え方であり,後者が前提とするのは言語圏 (linguistic_area である.両者の対立については,##999,1118,1236,1302,1303,1313,1314 などの各記事で取り上げてきた.だが,実際には「#1236. 木と波」 ([2012-09-14-1]) で議論したように,両モデルは対立する関係というよりは,相互に補完すべき関係というほうが適切だろう.しかし,互いがどのような関係にあるのか,具体的にはあまり論じられていないのが現状である.
ディクソンは,両モデルを独特な形で融合させようと試みた.その結果として提案された仮説が,断続平衡モデル (punctuated equilibrium) である.
断続平衡モデルの説明は著書のあちらこちらに散らばっているが,最も重要と思われる箇所を,やや長いが,先に引用しよう.
本書で私はある仮説を立てた.一九七二年にエルドリッジとグールドがはじめて発表した生物学における断続平衡 (punctuated equilibrium) というモデル〔種の進化には変化のない長期の安定期と,それと比べて相対的に著しく急速な種分化と形態変化によって特徴づけられる中間期があるとする仮説〕に触発され,この考えを言語の発達と起源に当てはめてみたのである.人類の歴史の大部分の期間は平衡状態が保たれてきた.ある地域には,多くの,似たようなサイズや組織の政治集団があったと考えられる.そこではどの集団も他の集団の上にとりわけ大きな力を持つということはなく,それぞれが自分たちの言語または方言を話していただろう.これらの言語は,比較的平衡を保ちつつ長い期間にわたって言語圏を形づくっていく.しかし何事もまったく静止状態だったわけではない――潮の干満のようにゆったりした変化や推移はあっただろう――が,どちらかといえば小さなものだ.そして平衡が破られる時が訪れ,急激な変化が起きる.この中断は旱魃や洪水などの自然災害によるものかもしれないし,新しい道具や武器の発明,または農耕の発達,新しい土地への移動を可能にした船舶の改良,さらには帝国主義の発達や宗教的侵略によりひき起こされたものかもしれない.平衡状態を破るこのような中断は,往々にして言語の内部や言語間に根本的な変革をもたらす引き金となる.このため人々の集団や言語は拡張したり,分裂したりする.言語の系統樹モデルが適用できるのはこの,非常に長い平衡期の間に挟まっているごく短い中断期なのである.
私の推論では,平衡期の間に,同地域に存在する異なる言語間に種々の言語特徴が伝播する傾向があり,非常に長い時間をかけてではあるが,一つの共通の原型に収束する.そして拡張と分裂で特徴づけられる中断期には,一つの共通祖語から分岐して,一連の新しい言語が発達するのである.
この仮説は当然言語の起源の問題と結びつくが,それにはいくつかの可能性が考えられる.一つは,言語が大変にゆっくりと,つまり千年以上もかかってほんの数百の語や少しの文法項目を増やしていくといった具合に,未発達の言語から原始的な言語に,さらに少し進歩して前近代的言語,そして近代的言語にと進化して現代の姿になる,というものだ.しかし私の考える筋書はこれとは違う.初期の人間は比較的安定した状態のなかで生活し,認知,伝達能力を増やしていっただろうと思うが,言語は持たなかったのではないだろうか.そこに,なんらかの中断期が訪れて言語が発生したのだと考える.この過程はかなり急激に起き,二,三世紀あるいは多分二,三世代のうちには,原始的な言葉の断片というよりむしろ,現在話されている言語の複雑さに劣らないくらい十分発達した,まさに言語と呼べるものができあがったのではないかと思う.そして次にまた長い平衡期が始まる. (4--5)
著者は,この引用の後で,この2千年,特にこの数百年は格段の中断期であり,系統樹モデルでよりよく説明される諸言語の分岐が起こっているのだと主張する.また,系統樹モデルでいう祖語のとらえ方については,次のように述べている.
中断期の前後に横たわる長い言語的平衡期の間,地域の人々は比較的調和を保って生活する.たくさんの言語特徴を含んだ,多くの文化的特性が伝播波及する.同一地域の言語は互いに似通ったものとなっていく――これらの言語は一つの共通の原型に向かって収束するだろう.やがて,この収束によりもとの系統関係すなわち最後の中断期にあった系統樹の先端がぼやけていく. (129)
系統樹モデルで特徴づけられる言語の拡張と分裂という観念に基づいて,比較言語学者はしばしば祖語を,あたかも中断期に起きた急速な分裂の結果生まれたものであるかのようにみなす.だが多分そうではないだろう.中断期は長い平衡期の間に間欠的に挟まるもので,祖語を担う語族の始まりはすでに平衡期に潜在する.つまり,一つの言語圏内で言語間の収束が起き,そこから生まれた言語状態が語族の下地となったのだと思う.実際,一つの語族はたった一つの言語から生まれ出るわけではないのではないか. (138)
最後の点については,「#736. 英語の「起源」は複数ある」 ([2011-05-03-1]) でも少しく触れた問題である.
ディクソンは,オーストラリアを始めとする世界の諸言語のフィールドワークによって得た知見に基づき,断続平衡モデルをありそうな仮説であると提案したが,反証がほぼ不能という点では,彼の酷評する Nostratic 大語族 ([2012-05-16-1]) と異ならない.それでも,しばしば対立させられる系統樹モデルと波状モデルとを,大きな言語史のスパンなのなかで統合して理解しようとする姿勢には共感する.
系統樹モデルの抱える問題に関しては,第III章「系統樹モデルはどこまで有効か」が秀逸である.
・ ディクソン,R. M. W. 著,大角 翠 訳 『言語の興亡』 岩波書店,2001年.
第2言語として英語を学習する際に目標とする英語変種 (the target variety of English) は,ほとんどの場合,"Standard English" (標準英語)だろう.これはより正確には "the Standard variety of English" と表現でき,当然ながら存在するものと思い込んでいる.しかし,「#1373. variety とは何か」 ([2013-01-29-1]) で見たとおり,variety という概念が明確に定まらないのだから,the Standard variety の指すものも不明瞭とならざるをえないことは自明である.「#415. All linguistic varieties are fictions」 ([2010-06-16-1]) の議論からも予想される通り,標準英語なる変種もまた fiction である.
ただし,fiction であることを前提に,標準英語を仮に設定することには意味がある.というよりも,そのような変種の存在を信じているふりをしなければ,英語学習の標的も,英語研究の対象も定まらず,覚束ない.例えば,Quirk et al. が英語記述のターゲットとしているのは "the common core" と呼んでいるものであり,「標準英語」が漠然と指示しているものと大きく重なるだろう([2009-12-10-1]の記事「#227. 英語変種のモデル」を参照).また,近年,ELF (English as a Lingua Franca) という概念が確立し,英語のモデルに関する議論 (model_of_englishes) や WSSE (World Standard Spoken English) なる変種の登場という話題も盛り上がっているなかで,標準英語という前提は避けて通れない.
その指示対象が捉えがたく,存在すらも怪しいものであるから,標準英語を定義するというのは至難の業だが,Trudgill は次のような定義を与えた.
Standard English is that variety of English which is usually used in print, and which is normally taught in schools and to non-native speakers learning the language. It is also the variety which is normally spoken by educated people and used in news broadcasts and other similar situations. The difference between standard and nonstandard, it should be noted, has nothing in principle to do with differences between formal and colloquial language, or with concepts such as 'bad language'. Standard English has colloquial as well as formal variants, and Standard English speakers swear much as others. (5--6)
読めば読むほど捉えどころがないのだが,とりあえずはこの辺りで妥協して理解しておくほかない.世界の英語を巡る状況が刻一刻と変化している現代において,標準英語の定義はますます難しい.
・ Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik. A Grammar of Contemporary English. London: Longman, 1972.
・ Trudgill, Peter. Sociolinguistics: An Introduction to Language and Society. 4th ed. London: Penguin, 2000.
副詞あるいは前置詞の up は,ゲルマン祖語 *upp- (オランダ語 op, ドイツ語 auf, 古ノルド語 upp), さらには印欧祖語 *upo に遡る.原義は「下から上へ」であり,そこから英語の「上に」へつながるのだが,興味深いことに,関連するラテン語 sub やギリシア語 hupó は起点である「下」が焦点化されて「下に」の語義を取ることになった.sub- (下), super- (上), hyp(o)- (下), hyper- (上) など,上下の入り乱れた語義発達である(関連して,[2010-04-14-1]の記事「#352. ラテン語 /s/ とギリシャ語 /h/ の対応」及び[2010-04-12-1]の記事「#350. hypermarket と supermarket」を参照).なお,英語の over も同根に遡る.
一方,英語において up に対応する down は,語源がまったく別のところにある.古英語 of dūne (from the hill) が原型であり,adūne と縮まった後に,その語頭母音も消失して,古英語後期には dūne として現われている.つまり,副詞・前置詞 down は,同音異義語として辞書には別見出しとして挙げられている名詞 down (特にイングランド南部で牧羊に適する小高い草原地)と,語源的には関連していることになる.イングランド南部には North Downs や South Downs と呼ばれる丘陵地帯が広がっているが,その down である.丘とは高くて上にあるものだから,それが down というのは妙なものだ.
古英語 dūne (丘)の由来はおそらく大陸時代のケルト語の *dūnom (砦)にあり,ここから後に英語となる言語を含むヨーロッパ諸言語へと借用されたと考えられる.オランダ語へ取り入れられた形態がフランス語経由で dune として,18世紀末に再び英語に入ってきたが,このときの意味は「砂丘」だった.
なお,印欧祖語にまで遡れば,英語 town も down と同根(原義「砦」を参照)であり,語源的には downtown とは妙な組み合わせのように思えてくる.
上か下かよくわからなくなる話しでした.
「#1389. between の語源」 ([2013-02-14-1]) 及び昨日の記事「#1393. between の歴史的異形態の豊富さ」([2013-02-18-1]) に引き続いての話題.between の歴史的な異形態の分布を,Helsinki Corpus でざっと調査してみた.調査の結果,全コーパスより between の形態として 97 types, 793 tokens が確認された.以下はその97種類の異形態,異綴りである.
be-twen, be-twene, be-twix, be-twyen, be-twyn, be-twyx, be-twyxe, betuen, betuene, betuh, betuih, betuixt, betun, betux, betuyx, betwe, between, betweene, betwen, betwenan, betwene, betweoh, betweohn, betweon, betweonan, betweonen, betweonon, betweonum, betweox, betweoxan, betwex, betwi, betwih, betwihn, betwinan, betwinum, betwioh, betwion, betwix, betwixe, betwixt, betwixte, betwixts, betwne, betwoex, betwonen, betwuh, betwux, betwuxn, betwyh, betwyn, betwynan, betwyne, betwyx, betwyxe, betwyxen, betwyxte, bi-tuine, bi-twen, bi-twene, bi-twenen, bi-tweohnen, bi-tweone, bi-tweonen, bi-twexst, bi-twext, bi-twihan, bi-twixst, bituen, bituene, bituhe, bituhen, bituhhe, bituhhen, bituien, bituih, bituin, bituix, bitunon, bitweies, bitwen, bitwene, bitwenen, bitwenenn, bitweon, bitweone, bitweonen, bitweonon, bitweonum, bitwex, bitwexe, bitwien, bitwih, bitwix, bitwixe, bitwixen, bitwyxe
全793例の形態を一定の基準でまとめて集計するのは容易ではないが,今回は語尾以外における母音の違いは無視することにし,第2音節以降の子音(と,もしあれば語尾の母音も)の種類と組み合わせによって集計した.例えば,"nm", "nn", "x", "xt" というタイプは,それぞれ betweonum, betweonan, betwyx, betwixt などの形態を代表する.以下の表は,Helsinki Corpus における時代区分を参照し,例の挙がらなかった O1 (古英語第1期)の時期を除く10期における通時的変化を要約したものである.
nm | nn | n | ne | x | xe | xn | xt | xte | xst | xts | h | hn | hnn | he | s | e | i | Sum | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
O2 | 14 | 1 | 0 | 0 | 13 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 31 | 4 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 64 |
O3 | 5 | 22 | 16 | 0 | 56 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 48 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 147 |
O4 | 1 | 15 | 3 | 0 | 22 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 3 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 44 |
M1 | 0 | 28 | 4 | 8 | 13 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 4 | 1 | 9 | 0 | 0 | 0 | 68 |
M2 | 0 | 1 | 5 | 32 | 1 | 1 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 42 |
M3 | 0 | 0 | 4 | 31 | 24 | 18 | 0 | 1 | 0 | 4 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 83 |
M4 | 0 | 0 | 4 | 11 | 25 | 6 | 2 | 1 | 6 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 56 |
E1 | 0 | 0 | 12 | 66 | 2 | 0 | 0 | 25 | 3 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 108 |
E2 | 0 | 0 | 23 | 44 | 0 | 0 | 0 | 31 | 6 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 104 |
E3 | 0 | 0 | 54 | 8 | 0 | 0 | 0 | 14 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 77 |
Sum | 20 | 67 | 125 | 200 | 156 | 25 | 5 | 72 | 15 | 4 | 1 | 82 | 8 | 1 | 9 | 1 | 1 | 1 | 793 |
「#1389. between の語源」 ([2013-02-14-1]) の記事で,between の語源を見た.between に連なる諸形態のほか,betwixt に連なる諸形態を確認したが,古英語や中英語にはさらに異なる系列も見られた.
例えば,古英語の bitwih や中英語の bitwihe(n) のように h をもつものが確認される.これは,古英語以前の再建形で "two" を意味する後半要素の対格形が *twîhn のように h を含んでいたことに由来する.中英語形に見られる -e(n) 語尾は,bitwene(n) などの形態に基づく類推で加えられたものだろう.h を含む系列については,MED "bituhhe(n (prep.)" を参照.また,bitweies のような形態も中英語で文証される.これは,上記 bitwih などの形態に属格語尾が加えられたものと考えられる.MED "bitweien, bitweies (prep.)" を参照.
このように,特に中英語期には異形態がひしめいて分布していた,Mustanoja (369) によればそれぞれの間に意味の区別はなかったという.中英語における乱立状態について,Mustanoja からの引用をもって要約しよう.
BETWEEN(EN); BETWEIEN (BETWEIES); BETWIX(EN), BETWIXT, BETWUX); BETUH
Between(en), from OE betweonum, and betwix(en, betwixt, betwux, betwixen), from OE betweox (-ix, -ux), are both found throughout the ME period, as in betweien (betweies), which results from a contamination of between with the numeral tweien. Betuh, a continuation of OE betweoh (-uh, -ih), survives only in earliest ME. The -en forms occur mainly in the more southern parts of the country. There do not seem to be any noticeable differences in meaning between these words.
All the ME functions of these prepositions survive in present-day uses of between. In the sense 'among' between and betwix seem to occur somewhat more frequently in ME than today: --- þatt time þatt he come himm sellf Bitwenenn hemm to spellenn (Orm. 9422); --- the pitous joye . . . Bitwix hem thre (Ch. CT B ML 1115).
この乱立状態は近代以降に解消されてゆき,現代では古風な betwixt を除けば between へと完全に収束したといえるが,どのような経緯で収束したのだろうか.Helsinki Corpus で調べてみたい.
・ Mustanoja, T. F. A Middle English Syntax. Helsinki: Société Néophilologique, 1960.
現代英語において,再帰代名詞 (reflexive pronoun) という用語から想起されるのは,通常,kill oneself や turn oneself のような動詞句だろう.動詞の目的語の指示対象が主語のものと同じである場合に用いられる,特殊な人称代名詞の形態である.強意用法や by oneself などの成句を別とすれば,これが再帰代名詞のほぼ唯一の用法であると考えられている.しかし,behave oneself, pride oneself on, oversleep oneself のような例も同じように考えてよいだろうか.つまり,behave, pride, oversleep は他動詞であり,その目的語が主語と同じものを指示するがゆえに再帰代名詞が用いられているのだと考えてよいのだろうか.kill oneself とは性質が異なっているように感じられないだろうか.
実は,歴史的には,behave, pride, oversleep に後続する再帰代名詞は,対格(動詞の直接目的語)ではなく与格だった.つまり,"for oneself" や "to oneself" ほどの意味を表わし,動詞とはあくまで間接的に結びついていたにすぎない.言い換えれば,これらの動詞はあくまで自動詞として用いられていたということだ.中英語やその後の近代英語に至るまで,再帰代名詞は形態として -self を伴うものと,-self を伴わない単純形とが並存していたため,近代英語あたりでも,単純形を用いたこの種の用例は事欠かない.細江はこの与格の再帰代名詞の用法を反照目的 (reflexive object) と呼んでおり,その例文をいくつか示している (137--38) .
・ Hie thee hence! Fare thee well! / I fear me that thou hast overreached thyself at last. ---H. R. Haggard.
・ I followed me close.---Shakespeare.
・ They knelt them down.---Scott.
・ Then lies him down the lubber fiend.---Milton.
・ I sat me down and stared at the house of shaws.---Stevenson.
・ Would it not be better to absent himself from the concert and nurse his dream?---Edith Wharton.
・ Behave yourself!---Joyce.
・ I to the sport betook myself again.---Wordsworth.
・ In this perplexity, he bethought himself of applying for information to one of the warders.---Ainsworth.
・ Aunt Winifred prides herself on her coffee.---Galsworthy.
・ They entered the vestibule and sat themselves down before the wide hearth.---H. R. Haggard.
・ She's not very ill any more. Console yourself, dear Miss Briggs. She has only overlaten herself.---Thackeray.
・ He started up in bed, thinking he had overslept himself.---Hardy.
いずれも,感覚としてはなぜ再帰代名詞が用いられるのか分かりかねる例ばかりである.往来発着の自動詞と再帰代名詞が共起する例が多いが,これについては「#578. go him」 ([2010-11-26-1]) で触れた通りである.
・ 細江 逸記 『英文法汎論』3版 泰文堂,1926年.
英語とエスペラント語の共通点は何か.言語的には,分析的であるとか,ロマンス系言語の語根をもつ語彙が多いとか,個々の言語項目について指摘することができるだろうが,大づかみに共通点を1つ挙げるというのは難しい.社会言語学的にいえば,単純である.いずれの言語も lingua franca である,ということだ.英語とピジン語の共通点,スワヒリ語と俗ラテン語の共通点にしても同じ答えである.
[2012-04-17-1], [2012-04-18-1], [2012-04-19-1]の記事で lingua franca という用語について調べたが,社会言語学的な見地からこの用語と概念にもう一度迫りたい.Wardhaugh (55) によれば,UNESCO が lingua franca を "a language which is used habitually by people whose mother tongues are different in order to facilitate communication between them" と定義している.この定義では,その言語が通用する範囲の広さについては言及していないので,小さな共同体でのみ用いられているような言語も上の条件を満たせば lingua franca ということになる."used habitually" も程度問題だが,緩く解釈すれば,上の段落で挙げた言語は確かにいずれも lingua franca の名に値するだろう.
lingua franca はいくつかの種類に分けることができる (Wardhaugh 56) .
(1) 西アフリカのハウサ語や東アフリカのスワヒリ語のように交易目的で用いられる "trade language"
(2) 古代ギリシア世界における koiné (コイネー)や中世ヨーロッパにおける俗ラテン語のように諸方言が接触した結果としての "contact language"
(3) 英語のように国際的に用いられる "international language"
(4) Esperanto ([2011-12-15-1]) や Basic English ([2011-12-13-1]) のような補助言語(人工言語)たる "auxiliary language"
(5) カナダの小共同体で話されている,クリー語の文法とフランス語の語彙を融合させた,民族的アイデンティティを担った Michif のような "mixed language"
ほかにも上記の定義に当てはまる言語を挙げれば,地中海世界の交易共通語となった Sabir,世界の各地域で影響を誇る Arabic, Mandarin, Hindi の各言語,19世紀後半に北米 British Columbia から Alaska にかけて広く通用した Chinook Jargon などがある.
・ Wardhaugh, Ronald. An Introduction to Sociolinguistics. 6th ed. Malden: Blackwell, 2010.
昨日の記事「#1389. between の語源」 ([2013-02-14-1]) で取り上げたように,between と among の使い分けは,現代英語の語法問題として著名であり,多くの文法書や参考書で触れられている.一般に英文法において前置詞の使い分けは難しく,したがって主要な話題でもあるのだが,各前置詞の本質的な意味を理解することが肝心である.では,between と among のそれぞれを特徴づける意味とは何だろうか.
両前置詞の各種の用法と用例については OED が語義を分けて詳細に記述しているので,それをじっくり読むのがよいが,種々の参考書に当たると,between は個別性を重視し,among は集合性を重視するといった特徴が指摘されていることが多い.確かに between は2という数字と結びつきが強いが,より重要なのは2という数字と結びつけられる個別性,対応性,具体性である.一方,among は,2より大きな数と結びつきやすいのは確かだが,より重要なのは具体的な個々の構成員というよりは漠然とした集合体と関連づけられるということだ.
もし among が「3以上」を意味や用法の核としてもつのであれば,among the soldiers という集団に個人を付け加えて *among the soldiers and John と言えそうだが,実際には言えない.また,*the relations among a, b, c, d, and e などと個別に構成員を列挙することもできない.これらは集団性の原則に反するからだと考えられる.
逆に,between が「3以上」を目的語に取る場合を考えると,そこには個別性が感じられるし,あくまで2の延長線上にあるという意味での3以上であると理解される.the divisions and conflicts between the various parts of Christendom, the fullest collaboration between all nations, a white and shining road between the singing nightingales, with long pauses between the sentences などの例を解釈すると,なるほどいずれも目的語は3以上と理解できるが,あくまで2という単位を基調とした組み合わせや倍数が念頭に置かれていると読める.
between の目的語に来る構成員の数と,互いの間の関係について,論理的な観点から追究した(デンマーク人研究者とみられる)Bolbjerg の論文がある.これほど徹底的に論理に依存して between に迫った論文はない.議論は易しくはないが,実に整然としている.上に挙げたものを含む between の用例を吟味し,positive, negative, synthetic, analytic, midway, front, complex, reciprocity, interrelation などといった独自の用語と概念を駆使して,この前置詞の用法をきれいに分類したのである.ここで詳細を述べることはできないが,結論部 (Bolbjerg 132) に挙げられている wires between the houses と between the teeth を例にとって,6つの用法をまとめよう.
wires between the houses | between the teeth | |
---|---|---|
MIDWAY | "wires lying between the two houses" | "a fishbone between the teeth" (two) |
FRONT | "wires (being extended) from one house to another" | "the distance between the teeth" (two) |
RECIPROCITY | "wires connecting two houses" | "nip a cigar between the teeth" (one in lower, one in upper jaw) |
TWO-ROW SYSTEM | "(overhead) wires (for tramcars) between two rows of houses" | "with a handkerchief between the teeth" (lower and upper jaw) |
ONE-ROW SYSTEM | "wires between houses in a row (like railway carriages)" | "the interstices between the teeth" (lower or upper jaw) |
ABSTRACT CONNECTION | "(telephone) wires connecting all houses individually" | "the similarity between the teeth" (types of teeth) |
Thus between, inherently dual in character, has the function of a feeler, i.e. it establishes a relation from one element to another or others individually. It cannot grasp a heap-like area, but must seek units one by one. It is a linguistic organ of touch built as a line. The feeler may act as a medium, as 'something between', i.e. an intermediate element with relations to either side. Or it may create a distance, or 'nothing between'. Finally it may function synthetically: feeling its way along by touching left and right, thus establishing a path between two rows of objects, --- or analytically: touching each of a number of objects individually or severally for examination.
Bolbjerg の論文を読んだ上で私なりにまとめると,between は数と関係の前置詞,すなわち論理の前置詞であり,個別性,具体性,主体性を含意する一方,among は場所の前置詞であり,集合性,抽象性,客体性を含意する,ということになるだろうか.
デンマークには,「#1074. Hjelmslev の言理学」 ([2012-04-05-1]) のように論理学的な言語学の伝統があるが,Bolbjerg もその伝統をなにがしか受け継いでいるかのように思わせる論文だった.
なお,between の区別・選択・分配の用法については,「#1068. choose between war or peace」 ([2012-03-30-1]) の記事も参照.
・ Bolbjerg, A. "Between and Among: An Attempt at an Explanation." English Studies 30 (1949): 124--32.
規範文法では,between と among の使い分けについて,前者は「2つのものの間」,後者は「3つ以上のものの間」の意味に使うべし,とされている.この両者の区別の記述は,実際の使用に照らした記述的な観点からは多くの点で不十分だが,守るべき規則としてこだわる人は多い.この規則の拠って立つ基盤は,between の語源にある.語源が "by two" であるから,当然,目的語には2つのものしか来てはならないというわけである.
では,もう少し詳しく between の語源をみてみよう.古英語では,betwēonum の系列と betwēon の系列とがあった.前者の後半要素 -twēonum は数詞 twā (two) の複数与格形に対応し,後者の後半要素 -twēon は同語の中性複数対格形に対応する.前者の系列は,betwēonan などの異形態を発達させて中英語で bitwene(n) となり,後者の系列は北部方言に限られたが中英語で bitwen となった.語尾音の弱化と消失により,結局のところ15世紀には2系列が融合し,現代の between に連なる形態が確立した.つまり,between は,古英語に遡る2系列の形態が,中英語において融合した結果と要約することができる.古英語で between the seas などの構文は,be sǣm twēonum "by seas two" として現われることから,本来 "by" と "two" は別々の統語的機能を担っていたと考えられるが,"by two seas" のように接する位置に並んだときに,1つの複合前置詞と異分析 (metanalysis) されるに至ったのだろう.類例に,to us-ward → to-ward us の異分析がある.
さて,between には,古めかしい同義語がある.betwixt である.こちらは古英語 betwēox に由来するが,後半要素 -twēox を遡ると,ゲルマン祖語の *twa "two" + *-iskaz "-ish" にたどりつく.「2つほどのものの間」というような,やんわりとした原義だったのだろうか.古英語でも betwux, betyx などの異形態があったが,中英語では bitwix(e) などの形態が優勢となった.1300年頃に,「Dracula に現れる whilst」 ([2010-09-17-1]) や「#739. glide, prosthesis, epenthesis, paragoge」 ([2011-05-06-1]) で触れたように,語尾に -t が添加され,これが一般化した.なお,現代英語の口語に,betwixt and between (どっちつかず,はっきりしない)という成句がある.
中英語における異綴りなどは,MED "bitwēne (prep.)" および "bitwix(e) (prep.)" を参照.
なお,冒頭に述べた between と among の規範的な使い分けについて,OED "between, prep., adv., and n." は語義19において,記述的な観点から妥当な意見を述べている.
In all senses, between has been, from its earliest appearance, extended to more than two. . . . It is still the only word available to express the relation of a thing to many surrounding things severally and individually, among expressing a relation to them collectively and vaguely: we should not say 'the space lying among the three points,' or 'a treaty among three powers,' or 'the choice lies among the three candidates in the select list,' or 'to insert a needle among the closed petals of a flower'.
Fowler's (106) でも,規範的な区別の無効たることが示されている.小西 (176) では,「between を3つ以上のものに用いる用法は次第に容認される傾向があり,特に米国ではその傾向が著しい」とある.
・ Burchfield, Robert, ed. Fowler's Modern English Usage. Rev. 3rd ed. Oxford: OUP, 1998.
・ 小西 友七 編 『現代英語語法辞典』 三省堂,2006年.
現代英語の文法に,to 不定詞の意味上の主語を表わすために「for + (代)名詞」を前置させる構文がある.この for は主語を明示するという文法的な機能を担っているにすぎず,実質的な意味をもたないので,"inorganic for" と呼ばれることがある.for . . . to . . . 構文の起源と発達は英語史でも盛んに扱われている問題だが,現代英語のように同構文を広く自由に利用できる言語はゲルマン諸語を見渡してもない.自由奔放な使用例として "Hearne was no critic. A hasty and ill-natured judgment might conclude that it sufficed for a document to appear old for him to wish to print it." などを挙げながら,Zandvoort (265) は inorganic for を含む構文について次のように評している.
Both in familiar and in literary style this construction has branched out in so many directions that not only has it become one of the most distinctive features of modern English syntax, but on occasion, too, one of those that may be employed to give to an utterance a somewhat esoteric turn.
上で自由奔放と呼んできたのは,"It is absurd for us to quarrel." のような典型的な用法のみならず,様々な統語環境に現われうるからだ.例えば,"The rule was for women and men to sit apart." のような主格補語での用法,"For us to have refused the loan would have been a declaration of economic war." のような条件あるいは結果の用法,"She longed for him to say something." や "I always wanted so for things to be beautiful." のような動詞の後に置かれる用法,"I am not afraid for them to see it." のように形容詞の後に置かれる用法,"There were cries for the motion to be put." のように名詞と関わって目的を表わす用法など.Zandvoort (268) は,inorganic for のこれらの用法を体系的に記述した文法書が見当たらないなかで,Kruisinga の未刊の講義ノートに収められていた,簡潔にして的を射た記述を見つけ,絶賛した.
Prepositional Object and Stem with to.
Type: I shall be glad for you to help us. --- With regard to the facts of Living English it must be understood that the constr. is a supplementary one to the plain object & stem. the two are really parallel: a) the plain obj. & verbal stem are used with verbs; b) the preposit. object & stem is used with nouns & adjectives chiefly, and as a subject & nom. predicate, i.e. in practically all the other functions when a stem with to can be used at all. Finally the prep. obj. with stem is found with verbs, in a more or less clearly final meaning (see quot. in Shorter Acc.: pushing the glasses along the counter nodded for them to be filled).
"It is absurd for us to quarrel." などの構文の起源については,英語史では "It is absurd for us | to quarrel." → "It is absurd | for us to quarrel." という統語上の異分析 (metanalysis) によるものとされている.Zandvoort (269) は,この異分析が可能となるためには for us が absurd の後ろに現われることが必要であり,英語の語順ではこの条件を満たしているという点を重視する.ドイツ語やオランダ語では,問題の for us に相当する部分は形容詞の前に現われるのであり,異分析はあり得ない.同族言語との比較に基づき,この構文の起源の問題には "the fixity of English word-order" (269) という観点を含める必要があるとの主張は説得力がある.
・ Zandvoort, R. W. "A Note on Inorganic For." English Studies 30 (1949): 265--69.
16世紀後半から17世紀半ばにかけて,正音学者や教師による英語綴字改革の運動が起こった.この辺りの事情は「#441. Richard Mulcaster」 ([2010-07-12-1]) で略述したが,かいつまんでいえば John Cheke (1514--57),Thomas Smith (1513--77), John Hart (d. 1574), William Bullokar (1530?--1590?) などの理論家たちが表音主義の名のもとに急進的な改革を目指したのに対し,教育者 Richard Mulcaster (1530?--1611) は既存の綴字体系を最大限に利用する穏健な改革を目指した.
結果的に,その後の綴字標準化の路線は,Mulcaster のような穏健な改革に沿ったものとなったことが知られている.しかし,Mulcaster がどの程度直接的にその後の路線に影響を与えたのか,その歴史的評価は明確には下されていない.その後 Francis Bacon (1561--1626) や Dr Johnson (1709--84) によって継承されることになる穏健路線の雰囲気作りに貢献したということは言えるだろうが,現在私たちの用いている標準綴字との関係はどこまで直接的なのか.
この評価の問題について指摘しておくべきことは,Mulcaster は,ラテン語やギリシア語に基づく etymological respelling の文字挿入などを行なっていないことである.Brengelman (351--52) から引用する.
Mulcaster omits d in advance, advantage, adventure, the c in victual, indict, and verdict, the g in impregnable and sovereignty, the n in convent, b in doubt and debt, h in hemorrhoids, l in realm, h in rhyme; he does not use th, ph, and ch in Greek words such as authentic, blaspheme, and choleric. Base-final t becomes c before certain suffixes---impacient, practiocioner, substanciall---and in general Mulcaster's spelling reflects the current pronunciation of words of Latin origin and in part their French spelling.
引用最後にある同時代フランス語の慣習的綴字に準拠するという傾向は,約1世紀前の Caxton と比べても大きな違いはないことになる.Caxton から当時のフランス語的な綴字を数例挙げれば,actour; adjoust, adourer; adresse, emense; admiracion, commocyon, conionccion; publique, poloticque などがある (Brengelman 352) .
現代標準綴字にみられる etymological respelling に関していえば,それは主として Mulcaster の後の時代,17世紀の正書法学者の手によって確立されたと考えてよい.Brengelman (352) は,17世紀の etymological respelling 採用の様子を,Eberhard Buchmann の博士論文 (Der Einfluß des Schriftbildes auf die Aussprache im Neuenglischen. Univ. of Berlin diss., 1940) を参照して要約している.
From the list of words Eberhard Buchmann assembled to show the influence of the written language on modern spoken English we can see some of the general rules seventeenth-century scholars followed in restoring Latin spellings: c is restored in arctic, -dict (indict), -duct (conduct), -fect (perfect); a is replaced by ad- (administer, advance, adventure); h is restored in habit, harmony, heir, heresy, hymn, hermit); l is restored in alms, adultery. Other letters lost in French are restored: p (-rupt) (corpse), r (endorse), s (baptism), n (convent), g (cognizance). Greek spellings (following Latin conventions) are also restored: ph in diphthong, naphtha; ch in schedule, schism; th in amethyst, anthem, author, lethargy, Bartholomew, Thomas, Theobald, to cite a few. Buchmann's investigation shows that most of these changes had been generally adopted by the beginning of the eighteenth century; modern pronunciation has adjusted itself to the spelling, not the reverse.
・ Brengelman, F. H. "Orthoepists, Printers, and the Rationalization of English Spelling." JEGP 79 (1980): 332--54.
「#1332. 中英語と近代英語の綴字体系の本質的な差」 ([2012-12-19-1]) で略述したように,近代英語の綴字体系の大きな特徴は,より logographic だということだ.語や形態素を一定の綴字で表わすことを目指しており,その内部における表音性は多かれ少なかれ犠牲にしている.これは特徴というよりは緩やかな傾向と呼ぶべきものかもしれないが,的確な記述である.Brengelman (346) は,この特徴なり傾向なりを,さらに的確に表現している.
The specific characteristics of the theory of English spelling which finally emerged were the following: Each morpheme ought to have a consistent, preferably etymological spelling. Each morpheme ought to be spelled phonemically according to its most fully stressed and fully articulated pronunciation (thus n in autumn and damn, d in advance and adventure), and the etymology ought to be indicated in conventional ways (by ch, ps, ph, etc. in Greek words; by writing complexion---not complection---because the word comes from Latin complexus).
要するに,形態素レベルでは主として語源形を参照して一貫した表記を目指し,音素レベルでは (1) 明瞭な発音に対応させるという方針と,(2) 語源を明らかにするための慣習に従うという方針,に沿った表記を目指す,ということである.近現代の綴字体系の特徴をよくとらえた要約ではないだろうか.
興味深いことに,上の方針が最もよく反映されているのは,長くて堅苦しい借用語である.逆にいえば,初期近代英語期にラテン語やギリシア語からの借用語が増加したという背景があったからこそ,上の特徴が発生してきたということかもしれない.この点に関連して,Brengelman の2つの記述を読んでみよう.
Of all the improvements on English spelling made by the seventeenth-century orthographers, none was more important than their decision to spell the English words of Latin origin in a consistent way. Schoolmasters explained the process as showing the historical derivation of the words, but it did more than this: it showed their morphology. It is this development which makes possible a curious fact about English spelling: the longer and more bookish a word is, the easier it is to spell. No rules would lead a foreigner to spellings such as build or one, but he should easily spell verification or multiplicity. (350)
[E]nglish spelling began to be increasingly ideographic as early as the fourteenth century, and by the sixteenth, when the majority of readers and writers knew Latin, understanding was actually enhanced by Latinate spellings . . . . (351)
歴史的にラテン語は英語に多種多様な影響を与えてきたが,また1つ,初期近代英語期の綴字標準化の過程においても大きな影響を与えてきたということがわかるだろう.
・ Brengelman, F. H. "Orthoepists, Printers, and the Rationalization of English Spelling." JEGP 79 (1980): 332--54.
昨日の記事「#1384. 綴字の標準化に貢献したのは17世紀の理論言語学者と教師」 ([2013-02-09-1]) を含め ##297,871,1312,1384 の各記事で,印刷業者が綴字の標準化に貢献したとする従来の説への反論を見た.今回も同様に,イングランドにおける最初の印刷業者 William Caxton (c1422--91) が綴字標準化に貢献しなかったと考えるべき根拠を,Brengelman (337--39) に拠りつつ,挙げたい.
(1) Caxton は,主として依頼に応じて,かつ少数の貴族のみを対象として印刷したに過ぎない.100部数を超えて発行したことはないだろう.
(2) Caxton は自らが多くの翻訳や編集を手がけたことから考えても,印刷作業そのものを担当する機会はそれほど多くなかったはずである.
(3) Caxton の翻訳や作品の綴字は一貫しておらず,フランス語の綴字の強い影響を受けている.Malory の Morte d'Arthur でいえば,Caxton はむしろ自らの綴字よりも古風な綴字で印刷している.
(4) Caxton において初出の単語ですら,後の標準綴字とは異なる綴字で印刷されている.具体的には,Caxton に初出のロマンス系借用語1384語のうち約170語が現在にまで残っているが,Caxton 綴字と現在の標準綴字とが一致するのは,その約170語うち57語のみである.一致しない過半数の綴字についても,17世紀に規格化された綴字規則と比較して,連続性が見られない.
(5) Caxton と同時代,同方言の写本の綴字を比較してみると,両者のあいだで variation の分布に大きな違いが見られない.
これらの根拠を挙げながら,Brengelman (339) は,"[I]t can hardly be true that Caxton had a major direct role in standardizing (not to mention regularizing) English spelling" と結論している.
以下は付け加えだが,Brengelman (336, fn 9) では,近代高地ドイツ語においても印刷業者が書き言葉の発展に特に貢献したわけではないとする研究が紹介されている.印刷業者は,別の影響によって発達した新しい書き言葉習慣に則った教科書を流通させるという最終段階において貢献したにすぎず,その歴史的な役割はあくまで間接的なものであるとしている.
・ Brengelman, F. H. "Orthoepists, Printers, and the Rationalization of English Spelling." JEGP 79 (1980): 332--54.
初期近代英語の16--17世紀に綴字標準化の動きが活発化したが,従来,この潮流の背景には15世紀後半の印刷術の導入があったとされてきた.ところが,近年の研究によると,印刷術の導入は直接的には綴字の標準化に関与しなかったのではないかという可能性が持ち上がってきた.この議論に関しては,「#297. 印刷術の導入は英語の標準化を推進したか否か」 ([2010-02-18-1]) ,「#871. 印刷術の発明がすぐには綴字の固定化に結びつかなかった理由」 ([2011-09-15-1]) ,「#1312. 印刷術の発明がすぐには綴字の固定化に結びつかなかった理由 (2)」 ([2012-11-29-1]) で取り上げた.
Brengelman (333, 336) によると,印刷業者たちが綴字標準化に貢献したとする説は,おそらく20世紀初頭の George Philip Krapp に遡り,以降も多くの研究者に支持されてきた.しかし,Brengelman は,同説を積極的に支持する根拠は乏しく,むしろ17世紀の理論言語学者と教師の努力によるところが大きいとして,説得力のある議論を展開している.やや長いが,結論を引用しよう (Brengelman 354) .
It thus seems clear that the extensive rationalization of English spelling which took place during the seventeenth century was the result of efforts by theoretical linguists and schoolmasters. There is no evidence at all that during the years when English spelling was being standardized the printing industry made any significant contribution to the process. The actual contribution of the printers to the evolution of English spelling seems to have been the following:
1. The elimination of most ligatures, abbreviatory symbols, and complementarily distributed letters. These spelling variants were eliminated in order to reduce the number of different sorts [type characters] constituting a particular alphabet.
2. Making possible the very wide distribution of texts exemplifying a particular selection of spellings. The English Bibles and Book of Common Prayer as well as certain school books issued by a very few publishing houses (a privilege granted by the King or Queen) may possibly have had an impact on the ultimate preference for certain spellings.
3. The reinforcement of modernizing, standardizing tendencies through the practice of bringing reprints and new editions into line with current spelling practice.
Thus English printers are seen to have played only an indirect role in the process of spelling rationalization that took place during the seventeenth century. In contrast, practically all of the spelling reforms urged by orthoepists and schoolmasters early in the century were adopted by authors during the middle years of the century. It is their effort which resulted in the vastly more rational spelling system that had become standard by the end of the century.
綴字の標準化を牽引したのは,印刷業者のような実業家だったのだろうか,正音学者のような理論家だったのだろうか.あるいは,理論と実践を折衷した教師こそが最も強力に牽引した,ということなのかもしれない.
・ Brengelman, F. H. "Orthoepists, Printers, and the Rationalization of English Spelling." JEGP 79 (1980): 332--54.
[2013-01-05-1]の記事「#1349. procrastination の生成過程」で,ラテン単語が英語に取り込まれる際に適用される形態音韻規則について,Bloomfield に拠って議論した.この規則は,近代英語期までに至るラテン語との長い接触を通じて通時的に育まれ,共時的に定着したものである.規則というよりは半ば自然に発達してきた慣習と言い換えてもよいかもしれないが,これをあたかも意識的に制定した規則であるかのように解説した記述がある.Thomas Blount の Glossographia (1656) である(Glossographia を含む記事を参照).Brengelman (353) に,その Blount の記述がまとまっているので,それを再現する.
LATIN | ENGLISH | EXAMPLES |
---|---|---|
-io | -ion | inquisition, ablution, abortion |
-or | -or | agressor |
-tura | -ture | abbreviature |
-ista | -ist | agonist |
-isma, -ismus | -ist | agonism, aphorism |
Verb + o | -ate | abdicate, adumbrate |
Verb + o (generally with long vowel) | -# | abduce, adjure, allude |
Adj + is, us | -# | abject, abortive, angular, annual |
-abilis | -able | arable |
-ibilis | -ible | plausible |
-us, -osus | -ous | abstemious, pernicious |
Noun + a, um, us | -# | abysse, accent, alphabet |
(rum, ra, rus) | -er | amber, alabaster |
-ul- | -le | angle |
-i + us, um, a, as | -y | arbitrary, anatomy, adultery, acclivity |
-entia | -ency | adolescency |
-ans | -ant | adjutant |
-ens | -ent | adjacent |
(1) retain and Anglicize derivational endings; (2) delete purely inflectional endings; (3) leave prefixes and bases unchanged.
この規則に沿わない例があることは18世紀にも指摘されているが (ex. explain, proceed, labour) ,そのような語は,すでに辞書において固定化してしまっていたのだろう.
なお,Blount の規則は,原則的に現代英語の Neo-Latin 造語にも適用されている.Neo-Latin 造語については,「#392. antidisestablishmentarianism にみる英語のロマンス語化」 ([2010-05-24-1]) を参照.
・ Bloomfield, Leonard. Language. 1933. Chicago and London: U of Chicago P, 1984.
・ Brengelman, F. H. "Orthoepists, Printers, and the Rationalization of English Spelling." JEGP 79 (1980): 332--54.
言語変化をどのようにとらえるかという問題については,言語変化観の各記事で扱ってきた.著名な言語(英語)学者 David Crystal (2) の言語変化観をのぞいてみよう.
[L]anguage is changing around you in thousands of tiny different ways. Some sounds are slowly shifting; some words are changing their senses; some grammatical constructions are being used with greater or less frequency; new styles and varieties are constantly being formed and shaped. And everything is happening at different speeds and moving in different directions. The language is in a constant state of multidimensional flux. There is no predictable direction for the changes that are taking place. They are just that: changes. Not changes for the better; nor changes for the worse; just changes, sometimes going one way, sometimes another.
英語にせよ日本語にせよ,この瞬間にも,多くの言語項目が異なる速度で異なる方向へ変化している."multidimensional flux" とは言い得て妙である.また,言語変化に目的論的に定められた方向性 (teleology) はないという見解にも賛成する.一時的にはある方向をもっているに違いないが,恒久的に一定の方向を保ち続けることはないだろう(関連して unidirectionality の各記事を参照).ただし,一時的な方向とはいっても,drift として言及される印欧語族における屈折の衰退のように,数千年という長期にわたる「一時的な」方向もあるにはある.このように何らかの方向があるにせよ,それが良い方向であるとか悪い方向であるとか,価値観を含んだ方向ではないということは認めてよい.Crystal のいうように,"just changes" なのだろう.
「#432. 言語変化に対する三つの考え方」 ([2010-07-03-1]) および「#448. Vendryes 曰く「言語変化は進歩ではない」」 ([2010-07-19-1]) でも同じような議論をしたので,ご参照を.
・ Crystal, David. "Swimming with the Tide in a Sea of Language Change." IATEFL Issues 149 (1999): 2--4.
標題は,「介入主義」社会言語学とでも訳せるだろうか.Wardhaugh (15) の用いている用語で,近年,この分野での研究が増えているという.Wardhaugh 自身は,引用符でくくっていることから示唆されるように,この分野をやや否定的にとらえている.
Wardhaugh (15) によれば,「介入主義」社会言語学者は,言語研究を通じて社会の不平等や不正義が生み出されるメカニズムを明らかにし,よりよい社会を作るためにそれらの障害を取り除くことを目指している.その旗手として,Fairclough や van Dijk の名前を挙げている.彼らの報じる "critical discourse analysis" において重要視されているのは,"how language is used to exercise and preserve power and privilege in society, how it buttresses social institutions, and how even those who suffer as a consequence fail to realize how many things that appear to be 'natural' and 'normal,' i.e., unmarked, are not at all so" というような社会問題である (Wardhaugh 15) .
Fairclough (6) は,従来の社会言語学は社会と言語のあいだにある本質的な問題に踏み込んでいないと批判する.
Sociolinguistics is strong on "what?" questions (what are the facts of variation?) but weak on "why?" and "how?" questions (why are the facts as they are?; how --- in terms of the development of social relationships of power --- was the existing sociolinguistic order brought into being?; how is it sustained?; and how might it be changed to the advantage those who are dominated by it?). (cited in Wardhaugh, p. 15)
これは,多分にイデオロギーのこもった社会言語学といってよい.社会言語学が半分社会を対象にしている以上,社会言語学者は完全にイデオロギーから自由の身で研究を行なうことはできないだろう.例えば,広く読まれている Trudgill の社会言語学の概説書でも,10章などは相当な "interventionist" である.とはいえ,正義に訴えることにこだわりすぎると,科学的な探究が妨害されかねない点には注意を要する.
関連して,「解放の言語学」に言及した記事「#1251. 中英語=クレオール語説の背景」 ([2012-09-29-1]) や,言語(英語)帝国主義批判を扱った linguistic_imperialism の各記事も参照.
・ Wardhaugh, Ronald. An Introduction to Sociolinguistics. 6th ed. Malden: Blackwell, 2010.
・ Trudgill, Peter. Sociolinguistics: An Introduction to Language and Society. 4th ed. London: Penguin, 2000.
・ Fairclough, N. Language and Power 2nd ed. London: Longman, 2001.
昨日の記事「#1379. 2012年度に提出された卒論の題目」 ([2013-02-04-1]) で,社会言語学 (sociolinguistics) のなかに macro-sociolinguistics と呼ばれる下位分野があることを示唆した.対するのは micro-sociolinguistics あるいは狭義の sociolinguistics ということになるが,この対立の設定をめぐっては賛否両論がある.
前者の macro-sociolinguistics は sociology of language とも称されるように,言語との関連でみる社会についての学である.言い換えれば,言語を手段として社会の仕組みを明らかにするという趣旨である.一方,後者の micro-linguistics あるいは狭義での sociolinguistics は,社会との関連でみる言語の学である.こちらは,社会を材料として言語の仕組みを明らかにすることを目的としている.Wardhaugh (12--13) に引用されている Coulmas (2) の表現を借りれば,この違いは次のように言い直すことができる.
[M]icro-sociolinguistics investigates how social structure influences the way people talk and how language varieties and patterns of use correlate with social attributes such as class, sex, and age. Macro-linguistics, on the other hand, studies what societies do with their languages, that is, attitudes and attachments that account for the functional distribution of speech forms in society, language shift, maintenance, and replacement, the delimitation and interaction of speech communities.
もう少し具体的にみると,macro-linguistics が扱う主題としては,Labov (30) が述べるように,次のようなものがある(Wardhaugh, p. 13 からの孫引き).
[Macro-linguistics] deals with large-scale social factors, and their mutual interaction with languages and dialects. There are many open questions, and many practical problems associated with the decay and assimilation of minority languages, the development of stable bilingualism, the standardization of languages and the planning of language development in newly emerging nations. The linguistic input for such studies is primarily that a given person or group uses language X in a social context or domain Y.
社会言語学の碩学 Trudgill も micro-linguistics と macro-linguistics を明確に区別しようとする論者だが,Wardhaugh は両者の対立には懐疑的だ.Coulmas (3) に賛意を示しながら,次の一節を引いている (Wardhaugh 13) .
There is no sharp dividing line between the two, but a large area of common concern. Although sociolinguistic research centers about a number of different key issues, any rigid micro-macro compartmentalization seems quite contrived and unnecessary in the present state of knowledge about the complex interrelationships between linguistic and social structures. Contributions to a better understanding of language as a necessary condition and product of social life will continue to come from both quarters.
言語学も社会学も発展途上であり,それが組み合わさった社会言語学はなおさらそうである.しかし,だからといって,社会言語学が両プロパーへ口出ししてはいけないということにはならないし,むしろつなぎ役として盛んに往復すべきではないか.無理に区別しようとして学者間で線引き箇所に相違が出てきているという問題もあり,私も micro-linguistics と macro-linguistics は緩い連続体ととらえておくほうがよいように思われる.
なお,日本語学の分野では「言語生活」 という研究分野が主として戦後に育まれてきた.西洋の言語学の伝統ではあまり言及されない分野であり,macro-linguistics に属する領域としてユニークな存在である(加藤ほか,pp. 259--60).
・ Wardhaugh, Ronald. An Introduction to Sociolinguistics. 6th ed. Malden: Blackwell, 2010.
・ Coulmas, F., ed. The Handbook of Sociolinguistics. Oxford: Blackwell, 1997.
・ Labov, W. "The Study of Language in its Social Context." Studium Generale 23 (1970): 30--87.
・ 加藤 彰彦,佐治 圭三,森田 良行 編 『日本語概説』 おうふう,1989年.
今年度もゼミ生から卒業論文が提出された.今年度は以下の8本である.緩く分野別に並べてみた.2009--2011年の題目リストも合わせてどうぞ (##1379,973,608,266) .
(1) 否定接頭辞 in- と un- の差異について --- 借用接頭辞 in- の勢力の拡大 ---
(2) 近代英語期における clipping による語形成
(3) Semantic Prosody of Synonymous Verbs Meaning "To Keep in Mind"
(4) 助動詞 can における可能,可能性,許可の3用法 --- 共時的混同と通時的変化の観点から ---
(5) 英語語彙における三層構造の批判的考察 --- 形容詞の類義語群の観点から ---
(6) ポリティカル・コレクトネスによる是正語の考察
(7) マオリ語の復興と学校教育 --- オーストラリアとの比較を交えて ---
(8) 「英語帝国主義」は実在する --- 英語検定受検者数から見る「英語帝国主義」の存在 ---
昨年度,コーパスを用いた卒論研究が増えてきたと述べたが,今年度は (1), (3), (4), (5) の4本でコーパス利用がみられた.伝統的な言語学の部門として形態,統語,意味,語彙,語用のテーマがそれぞれある一方で,(6)--(8) は社会言語学の話題だ.特に,(7), (8) は macro-sociolinguistics あるいは sociology of language といわれる分野の話題であり,卒論のテーマとしては,これまでなかった類だ.指導している自分がどこまで話題について行けるかということを試されているともいえるが,たいへん勉強になった.来年度の卒論も,variation の広さと新しい話題に期待したい.
昨日の記事「#1377. Gelderen 版,英語史略年表」 ([2013-02-02-1]) も含め,ここ最近,英語史年表にこだわってきた(##777,1368,1369,1377 ほか,timeline の各記事も参照).
取り上げてきたのは,年代と文字だけの伝統的で散文的な年表ばかりだが,絵入りの年表のようなものがあるとおもしろい.ウェブ上で探してみたところ,Infographic Showing the History of the English Language なるページを見つけた.画像による英語史の概説だ.画像は縦長で1.5MBと重いので,以下のようにクリックによるズームと移動を可能にした(あるいはこちらのページへ).
このインフォグラフィック作成に当たっては,画像の下部にあるように以下のサイトを情報源として利用したという.ウェブ上には,あちらこちらに年表のページが転がっているようだ.
・ BBC British History in Depth: The Ages of English: 「#18. 英語史をオンラインで学習できるサイト」 ([2009-05-16-1]) で紹介したのと同じサイト内
・ Key Events in the History of the English Language: これ自身も英語史略年表.割りに詳しい説明がついている
・ Chronology of Events in the History of English: コメント付きの英語史略年表
・ Language Timeline: 数十年単位での説明つきの英語史略年表
[2011-06-13-1]の Crystal 版,[2013-01-24-1]の Fennel 版,[2013-01-25-1]のフィシャク版に引き続き,英語史年表シリーズ.今回は,Gelderen の英語史概説書 (313--17) より抜き書き.概説書にしてもそうだが,年表も,何度も同じもの,違うものを眺めていると,発見があるものである.
8000 BC | Hunter-gatherers move across Europe also into what is now the British Isles | |
6500 BC | Formation of English Channel | |
6000 BC | Shift to farming | |
3000 BC | Stonehenge culture | |
2500 BC | Bronze Age in Britain | |
1000 BC | Migrations of Celtic people to Britain begins | |
600 BC | Iron Age | |
55 BC--54 BC | Expeditions by Caesar | |
43 | Invasion by Claudius | |
43--47 | South and East England brought under Roman control | |
50 | London founded | |
70--84 | Wales, Northern England, and Scotland under Roman control | |
100--200 | Uprisings in Scotland | |
122 | Hadrian Walls begun | |
150 | Small groups of settlers from the continent | |
410 | Romans withdraw | |
450 | Hengest and Horsa come to Kent ('invited' to hold back the Picts) | |
455 | Hengest rebels against Vortigern | |
477 | Saxons in Sussex | |
495 | Saxons in Wessex | |
527 | Saxon kingdoms in Essex and Middlesex | |
550 | Anglian kingdoms in Mercia, Northumbria, and East Anglia | |
560 | Æthelberht becomes King of Kent | |
597 | Augustine missionaries land in Kent and conversion to Christianity starts | |
794 | Scandinavian attacks on Lindisfarne, Jarrow, Iona and subsequent conquest of Northumbria | |
865 | Scandinavian conquest of East Anglia | |
871--899 | Rule of King Alfred and establishment of the Danelaw | |
1016--1042 | Rule of King Cnut and his heirs | |
1042--1066 | Rule of King Edward (January 1066) | |
1066 | Death of King Edward (January 1066) | |
1066 | King Harold's defeat at Hastings and William of Normandy takes over (December 1066) | |
1066 | William (of Normandy) becomes king (December 1066) | |
1095 | First Crusade | |
1162 | Becket is murdered | |
1169--1172 | Conquest of Ireland | |
1204 | King John loses Normandy to the French | |
1282--1283 | Conquest of Wales | |
1290 | Expulsion of Jews from England | |
1315--1316 | Great Famine | |
1337--1453 | The 100-year War | |
1349--1351 | The Black Death, i.e. plague, kills one-third of the population | |
1362 | Statute of Pleadings (legal proceedings in English) | |
1381 | The Peasants' revolt | |
1382 | Condemnation of Wycliff | |
1476 | Introduction of the printing press by Caxton | |
1492 | Columbus reaches the 'New World' | |
1497 | Cabot reaches Newfoundland, Canada | |
1504 | St John's, Newfoundland, established as the first British colony in North America | |
1509--1547 | Reign of Henry VIII | |
1534 | Act of Supremacy, English monarch becomes head of the Church of England | |
1536 | Monasteries dissembled | |
1539 | English bible in every church | |
1550 | Population of England reaches 3 million | |
1558--1603 | Queen Elizabeth I | |
1600 | The East India Company is granted a charter | |
1607 | Settlement at Jamestown | |
1611 | The King James Bible (KJV) | |
1612 | English presence in Bermuda and in India | |
1620 | Pilgrim fathers establish colony in Plymouth | |
1624--1630 | War between England and Spain | |
1626--1629 | War between England and France | |
1627--1647 | Settlements on Barbados and the Bahamas | |
1629 | Charles I dissolves parliament | |
1642--1648 | First and Second Civil War | |
1649 | Charles I beheaded | |
1649 | Charles II becomes king | |
1649 | Jews officially admitted | |
1649--1655 | Cromwell conquers Ireland | |
1655 | English presence in Jamaica | |
1653--1660 | Cromwell is 'Lord Protector' | |
1660 | Charles II 'restored'' | |
1660 | Royal Society founded, to promote science | |
1670 | Hudson Bay Company active | |
1670--1679 | Colonization of West Africa | |
1688 | The Glorious Revolution | |
1689--1702 | Rule of William and Mary | |
1700 | Population of England is 5 million | |
1707 | Act of Union, uniting England and Scotland as the UK | |
1746 | Battle of Culloden; subsequent repression of Scottish Gaelic | |
1755 | Johnson's Dictionary | |
1759 | Wolfe takes Quebec for England | |
1760--1850 | Highland Clearances in Scotland, with resulting emigration and loss of Celtic | |
1763 | Trading in Basra, Iraq | |
1765--1947 | British rule over India | |
1773 | Boston Tea Party | |
1775--1783 | American War of Independence | |
1776 | American Declaration of Independence | |
1780--1789 | Colonies (of convicts) in Australia | |
1789 | French Revolution | |
1789 | George Washington first American president | |
1791 | British colonies in Upper and Lower Canada | |
1803 | Louisiana Purchase | |
1806 | British take over the Cape Colony in South Africa | |
1806 | Webster's Dictionary | |
1819--1824 | Malacca and Singapore occupied by the British | |
1820--1829 | Railroads in the US | |
1821--1823 | Irish famine | |
1830--1839 | Settlement of New Zealand | |
1834 | Slavery abolished in the British Empire | |
1842 | China cedes Hong Kong | |
1844 | First telegraph | |
1837--1901 | Reign of Queen Victoria | |
1853 | Gadsden Purchase | |
1853 | Japan opened to Western trade | |
1858 | Decision to start the OED | |
1861--1865 | American Civil War | |
1861 | British colony in Nigeria | |
1862 | British colony in Honduras | |
1865 | Abolition of slavery in the United States of America | |
1869 | Suez Canal opened | |
1876 | Telephone invented | |
1884 | Berlin Conference determines colonial power in Africa | |
1886 | Annexation of Burma | |
1890--1899 | Rhodesia and Uganda colonized in an attempt to control the Cape-to-Cairo corridor | |
1880--1902 | Boer Wars and British conquest of South Africa | |
1898 | American control over Hawaii, Philippines, and Puerto Rico | |
1898 | Hong Kong and Territories leased to Britain for 99 years | |
1901 | Death of Queen Victoria | |
1907 | Hollywood becomes a filmmaking center | |
1914--1918 | First World War | |
1916 | Easter Uprising, leading to Irish independence in 1921 | |
1918 | Women (over 30) get the vote in Britain | |
1920 | Kenya as British colony | |
1922 | BBC starts | |
1928 | OED appears (with supplement in 1933) | |
1931 | Statute of Westminster (former British Dominions de fact independent); British Commonwealth | |
1939 | photocopying invented | |
1939--1945 | Second World war | |
1942 | First computers | |
1945 | United Nations founded | |
1946 | Philippines independent | |
1947 | The independence of India and Pakistan; and New Zealand | |
1948 | Burma and Ceylon (Sri Lanka) independent | |
1949 | NATO founded | |
1950--1953 | Korean War | |
1951 | First computers | |
1960 | Nigeria becomes independent | |
1960 | World population reaches 3 billion | |
1961--1975 | Vietnam War | |
1963 | Kenya becomes independent | |
1973 | Britain joins European Union (confirmed in a 1975 referendum) | |
1980 | CNN starts | |
1984 | Apple PC | |
1990 | Native American Languages Act | |
1990--1991 | Gulf War | |
1990--1999 | Internet becomes major communication tool | |
1999 | World population reaches 6 billion | |
2000 | OED online | |
2003 | Iraq War | |
2003 | In Wales, 20% speak Welsh, up 2.4% in 10 years |
授業などでの参照用に,音声器官 (speech organs) と調音点 (places of articulation) の図を掲載.言語学や音声学のどの教科書にも掲載されているが,以下のモノクロ版は O'Grady et al. の p. 19 と p. 23 より,カラー版は Britannica の "articulation: physical points of articulation" より.ほかには,Google 画像検索で "vocal tract" 辺りより無数の図をどうぞ.
以下に主な音声器官の術語を整理しておく.
common name | scientific name | adjective |
---|---|---|
lips | labia | labial |
teeth | dental | |
alveolar ridge | alveolar | |
(hard) palate | palatal | |
soft palate | velum | velar |
uvula | uvular | |
upper throat | pharynx | pharyngeal |
voicebox | larynx | laryngeal |
tongue tip | apex | apical |
tongue blade | lamina | laminal |
tongue body | dorsum (back) | dorsal |
tongue root | radical |
2024 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2023 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2022 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2021 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2020 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2019 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2018 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2017 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2016 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2015 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2014 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2013 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2012 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2011 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2010 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2009 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
最終更新時間: 2024-10-26 09:48
Powered by WinChalow1.0rc4 based on chalow