昨日の Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」にて「#849. 言語における恣意性とアイコン性と題する放送回を配信した.
アイコン性 (iconicity) は,連日本ブログで取り上げている,今井むつみ・秋田喜美(著)『言語の本質』(中公新書,2023年)でも大きく取り上げられており,とりわけ第2章「アイコン性 --- 形式と意味の類似性」で詳しく論じられている.「ドキドキ」「そろりそろり」「グングン」「ブーブー」のような日本語オノマトペ (onomatopoeia) に典型的にみられる語形の重複 (reduplication) に始まり,とりわけ清音/濁音,母音や子音の音質,プロソディなど音象徴 (sound_symbolism) に代表される音のアイコン性が注目されている.
アイコン性とは,現実世界のモノやコトを言語に写し取る際に自然と付随してくる類似性のことである.ヒトは,現実のモノやコトを100%そのままに言語にコピーすることはできない.完全なレプリカはどうしても作り得ないのである.ヒトの能力には限界があるし,そもそも言語という媒体(ここでは話し言葉に限定して考える)にも制限がある.せいぜいできるのは,現実を影のように近似的に写し取ることぐらいである.
しかし,それぐらい緩い写し取りであるから,むしろ上記の制限のなかではなかなかに自由であり,大きな方向付けはなされるものの,その範囲内ではヴァリエーションも豊富である.完全同一ではなく緩い類似性にすぎないからこそ,適度な自然さと適度な遊びがあって利用しやすいということだろう.
言語におけるアイコン性は,語形や発音について言われることが多いが,統語やより大きな単位についても言えることがありそうだ.また,話し言葉に限定せず書き言葉に考察範囲を拡げれば,視覚的な媒体であるからアイコン性の活躍の場は激増するだろう.言語は恣意的であると同時に,多分にアイコン的である.
皆さんも,言語におけるアイコン性について事例を挙げつつ考えてみませんか.上記の heldio 配信回のコメント欄などにお寄せいただければ.
・ 今井 むつみ・秋田 喜美 『言語の本質 --- ことばはどう生まれ,進化したか』 中公新書,2023年.
動物の鳴き声は,言語学の歴史においては重要視されてきた.「#431. 諸説紛々の言語の起源」 ([2010-07-02-1]) でみたように言語の起源 (origin_of_language) とも密接な関係があると取り沙汰されてきたし,記号の恣意性の反例となるオノマトペ (onomatopoeia) の供給源でもある.しかし,やはり言語が異なれば鳴き声も異なる.以下,英語における主要な動物の鳴き声(動詞と名詞)を掲げよう(『英語便利辞典』 (474--76) より).
Animal | cry (動) | cry (名) |
---|---|---|
bear (熊) | growl 警告,敵意を示すためにうなる | grr |
roar 太く大きな声でほえる | rooaar | |
bird (鳥) | chirp チッチッと鳴く | chirp-chirp |
sing 歌うようにさえずる | ||
tweet = chirp | tweet-tweet | |
burro (小型ロバ) | bray いななく | hee-haw |
cat (猫) | hiss 警告を示すためにシューッという声を出す | hisses; sssss |
meow ニャオと鳴く | mew; miao | |
purr 満足げにのどを鳴らす | purrrr | |
spit 怒ってつばを吐くような声を出す | pffft | |
chick (ひよこ) | cheep ピヨピヨと鳴く | cheep-cheep |
peep ピヨピヨと鳴く | peep-peep | |
cock [rooster] (雄鳥) | crow コケコッコーとときをつくる | cock-a-doodle-do |
cow (牛) | bawl かん高い声をのばして鳴く | |
low; moo モウと鳴く | moo | |
cricket (コオロギ) | chirp かん高く短く断続的に鳴く | chirp-chirp; chirr |
crow (カラス) | caw カアカアと鳴く | caw-caw |
dog (犬) | bark ワンワンとほえる | bow-wow |
growl 警告,敵意を示すためにうなる | grrr | |
howl 遠ぼえをする | ow-ow-ow-oooow | |
whine クンクンと鼻を鳴らす | ||
woof 低い声でほえる | woof-woof | |
yap; yip キャンキャンと鳴く | yap-yap; yip-yip | |
donkey (ロバ) | bray いななく | hee-haw |
dove (鳩) | coo クウクウと鳴く | coo-coo |
duck (アヒル) | quack ガアガアと鳴く | quack-quack |
squawk 鋭いしわがれ声で鳴く | ||
elephant (象) | trumpet よく通る大きな声で鳴く | |
fox (キツネ) | bark 短く高い声で鳴く | |
frog (カエル) | croak ゲロゲロと鳴く | croak-croak; reebeep-reebeep |
goat (山羊) | bleat メエメエと鳴く | bah-bah |
goose [wild goose] (ガチョウ) | gabble ガアガアと鳴く | gabble-gabble |
hiss シューッという声を出す | ||
honk ガチョウ独特の声で鳴く | honk-honk | |
hen (雌鳥) | cackle 卵を産んでかん高く継続的に鳴く | buck-buck-buck-budacket |
cluck コッコッとひなを呼ぶ | cluck-cluck | |
horse (馬) | neigh ヒヒーンといななく | wheee |
snort 鼻から空気を強く出す=鼻息をたてる | ||
whicker = neigh | ||
whinny = neigh | ||
hyena (ハイエナ) | laugh 人が笑うような声でほえる | hee-hee-hee |
jay [blue jay] (カケス) | scold けたたましくさえずる | |
lion (ライオン) | growl 警告,敵意を示すためにうなる | grrr |
roar 太く大きな声でほえる | rooaar | |
monkey (猿) | chatter キャッキャッと鳴く | chitter-chatter |
scold けたたましく鳴く | ||
mouse (ネズミ) | squeak チュウチュウと鳴く | eek-eek; squeak-squeak |
mule (ラバ) | bray いななく | hee-haw |
nightingale (ナイチンゲール) | sing さえずる | |
warble = sing | ||
owl [screech owl] (フクロウ) | hoot ホウホウと鳴く | whoo-whoo |
screech 金切り声を出す | ||
parrot | screech 金切り声を出す | |
shriek 金切り声を出す | eek-eek | |
talk 人の口まねをする | "Polly-wanna-cracker?" (オタケサン,こんにちは → オウムに言わせる決り文句) | |
pig (豚) | grunt ブウブウと鳴く | |
oink ブタ特有の声で鳴く | oink-oink | |
squeal 金切り声を出す | ee-ee | |
pigeon (ハト) | coo クウクウと鳴く | coo-coo |
rat (ネズミ) | squeak チュウチュウと鳴く | eek-eek; squeak-squeak |
robin (コマドリ) | chirp チッチッと鳴く | chirp-chirp |
sheep (羊) | bleat メエメエと鳴く | bah-bah |
snake (蛇) | hiss シューッという音を出す | sssss |
sparrow (雀) | chirp チッチッと鳴く | chirp-chirp |
swan (白鳥) | trumpet よく通る大きな声で鳴く | |
tiger (虎) | growl 警告,敵意を示すためにうなる | grr |
roar 太く大きな声でほえる | rooaar | |
turkey (七面鳥) | gobble ゴロゴロと鳴く | gobble-gobble |
wolf (狼) | howl 遠ぼえをする | ow-ow-ow-oooow |
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