Hinduism (ヒンドゥー教)といえば,人口にして世界第3位の宗教である.2001年の国勢調査(井上,p. 165)によると,インド人口の80.5%がヒンドゥー教徒であり,絶対数でいえば数億人以上となるから,地域宗教といえども世界へのインパクトは大きい.実際,2010年のCIAの統計では,キリスト教徒の33.3%,イスラム教徒の21.0%に次いで,ヒンドゥー教徒13.3%は第3位である(井上,p. 11;ちなみに第4位は仏教徒の5.8%).これほどの大宗教でありながら,その呼称が意外と新しいことを最近知った.
OED で Hinduism を引くと,"The polytheistic religion of the Hindus, a development of the ancient Brahmanism with many later accretions." と定義がある.その初例を確認すると,割と最近といってよい1829年のことである.
1829 Bengalee 46 Almost a convert to their goodly habits and observances of Hindooism.
さらに驚くのは,ヒンディー語などのインド諸語にも,ずばりヒンドゥー教を指す表現はないのだという.井上 (169) 曰く,
「ヒンドゥー教」とは,「ヒンドゥーイズム」という英語表現の訳です.実はこれにぴたりと対応するインドの語彙はありません.厳密に言えば,一つのまとまった宗教があるというより,ヴェーダ文献とその文明から発した多様な信仰や伝統を総称して「ヒンドゥーイズム」と呼んでいるのです.〔中略〕
この「ヒンドゥー」に「ism」が付いて宗教を示す英語表現になったのは19世紀のことです.インド支配に乗り出したイギリス人がインドの宗教文化を理解しようとしたとき,これを総称する言葉がなかったため,「ヒンドゥーイズム」という表現を用いるようになり,それが次第に一般化したのでした.
ちなみに,Hindu (ヒンドゥー)自体は,「インダス川」を指す語がペルシア語で Hindū となり,広く「インドの住人」を指し示すようになった言葉である.ペルシア語から英語へは,17世紀半ばに借用された.Hindi (ヒンディー語)も,英語での最初の使用は1801年と遅めである.
さて,ヒンドゥー教をどの理解すべきか.上記 OED の定義にあるように,様々な歴史的発展を内包したインド土着の多神教の総体と捉えるよりほかないだろう.井上 (170) も次のように述べている.
つまり「ヒンドゥー教」とは,インドに自然に成り立って来た多様な宗教文化を総称する幅の広い言葉なのです.その内容は実に多様で,イエスやブッダのような創唱者もいませんし,大きな協会組織もなく,キリスト教やイスラムのような明確な枠組みがありません.しかし,聖典ヴェーダを重んじている点は共通しています.
ヒンドゥー教の源である聖典ヴェーダ (Veda) とその言語については,「#1447. インド語派(印欧語族)」 ([2013-04-13-1]) を参照されたい.
・ 井上 順孝 『90分でわかる!ビジネスマンのための「世界の宗教」超入門』 東洋経済新報社,2013年.
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