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industrial_revolution - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2024-11-12 07:24

2023-06-20 Tue

#5167. なぜ18世紀に規範文法が流行ったのですか? [sobokunagimon][prescriptive_grammar][lmode][industrial_revolution][history][sociolinguistics][youtube][review][prescriptivism][hel_education]

 昨日の記事「#5166. 秋元実治(編)『近代英語における文法的・構文的変化』(開拓社,2023年)」 ([2023-06-19-1]) で,先日発売された本をご紹介しました.同書については,YouTube 「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」の最新回でも取り上げています.「#137. 辞書も規範文法も18世紀の産業革命富豪が背景に---故山本史歩子さん(英語・英語史研究者)に捧ぐ---」です.どうぞご覧ください.



 YouTube では,同書の第4章「18世紀の文法的・構文的変化」(山本史歩子さんが執筆された章)の後半の記述にインスピレーションを得て,なぜ規範文法 (prescriptive_grammar) ,ひいては規範主義 (prescriptivism)が,18世紀というタイミングで盛り上がったのかについてお話しています.実際には様々な要因があるのですが,同章に基づき,とりわけ産業革命 (industrial_revolution) とそれに伴う社会変化に注目しています.詳しくは,ぜひ本書を読んでいただければと思います.



 第4章の執筆者である山本史歩子さん(青山学院大学)は,本書の出版を見る前にご逝去されました.英語史活動(hel活)の実践者にして,強力な理解者かつ応援者でもありました.昨年の春,2022年4月6日には,私の Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」にご出演いただきました.ぜひ「#310. 山本史歩子先生との対談 英語教員を目指す大学生への英語史のすすめ」をお聴きください.山本史歩子さんの英語史研究へのご貢献に深く感謝しつつ,心よりご冥福をお祈りいたします.



 ・ 秋元 実治(編),片見 彰夫・福元 広二・田辺 春美・山本 史歩子・中山 匡美・川端 朋広・秋元 実治(著) 『近代英語における文法的・構文的変化』 開拓社,2023年.

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2018-01-08 Mon

#3178. 産業革命期,伝統方言から都市変種へ [lmode][industrial_revolution][history][sociolinguistics][dialect][dialectology][variety][koine][dialect_levelling][bre]

 18--19世紀の Industrial Revolution (産業革命)は,英国社会の構造を大きく変えた.その社会言語学的な帰結は,端的にいえば伝統方言 (traditional dialects) から都市変種 (urban varieties) への移行といってよい.交通・輸送手段の発達により,人々の行動様式や社会的ネットワークが様変わりし,各地域の内部における伝統的な人間関係が前の時代よりも弱まり,伝統方言の水平化 (dialect_levelling) と共通語化 (koinéization) が進行した.一方で,各地に現われた近代型の都市が地域社会の求心力となり,新しい方言,すなわち都市変種が生まれてきた.都市変種は地域性よりも所属する社会階級をより強く反映する傾向がある点で,伝統方言とは異なる存在である.
 Gramley (181) が,この辺りの事情を以下のように説明している.

[The Industrial Revolution and the transportation revolution] were among the most significant social changes of the eighteenth and nineteenth centuries. Partly as a prerequisite for and partly as an effect of industrialization there were fundamental changes in transportation. First, in the period after 1750 there was the establishment of turnpikes, then canals, and finally railroads. Among their consequences was the development of regional and supra-regional markets and, concomitant with this, greater labor force mobility in a money rather than barter economy with the potential for consumption. It hardly seems necessary to point out that this led to a weakening of the rural traditional dialects and an upsurge of new urban varieties in the process of dialect leveling or koinéization.
   As industrialization continued, new centers in the Northeast (mining) and in the Western Midlands (textiles in Manchester and Birmingham and commerce in Liverpool) began to emerge. Immigration of labor from "abroad" also ensured further language and dialect contact as Irish workers found jobs in the major projects of canal building in the eighteenth and nineteenth centuries and then in the building of the railways. Enclaves of Irish came into being, especially in Liverpool. Despite linguistic leveling the general distinctions were retained between the North (now divided more clearly than ever between the English North and Scotland), the East Midlands and the now industrializing West Midlands, and the South. The emergence of a new, mostly working-class, urban population in the North in the nineteenth century was accompanied by a literature of its own. Pamphlets, broadsides, and almanacs showed local consciousness and pride in vernacular culture and language. As the novels of Elizabeth Gaskel demonstrate, language --- be it traditional dialect or working-class koiné --- was a marker of class solidarity.


 このように,英国の近現代的な社会言語学的変種のあり方は,主として産業革命期の産物といってよい.
 関連する話題として,「#1671. dialect contact, dialect mixture, dialect levelling, koineization」 ([2013-11-23-1]),「#2028. 日本とイングランドにおける方言の将来」 ([2014-11-15-1]),「#2023. England の現代英語方言区分 (3) --- Modern Dialects」 ([2014-11-10-1]) も参照.

 ・ Gramley, Stephan. The History of English: An Introduction. Abingdon: Routledge, 2012.

Referrer (Inside): [2020-03-12-1]

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2017-07-31 Mon

#3017. industry の2つの語義,「産業」と「勤勉」 (1) [semantic_change][polysemy][etymology][latin][french][industrial_revolution]

 多くの辞書で industry という語の第1語義は「産業;工業」である.heavy industry (重工業),the steel industry (鉄鋼業)の如くだ.そして,第2語義として「勤勉」がくる.a man of great industry (非常な勤勉家)という表現や,Poverty is a stranger to industry. 「稼ぐに追い付く貧乏なし」という諺もある.2つの語義は「勤労,労働」という概念で結びつけられそうだということはわかるが,明らかに独立した語義であり,industry は典型的な多義語ということになる.実際,形容詞は分かれており,「産業の」は industrial,「勤勉な」は industrious である.
 語源を遡ると,ラテン語 industria (勤勉)に行き着く.これは indu- (in) + struere (to build) という語形成であり,「内部で造る」こと,すなわち個人的な自己研鑽や知識・技能の修養という意味合いがあった.原義は職人に求められる「器用さ」や「腕の達者」だったのである.この単語がこの原義を携えて,フランス語経由で15世紀後半の英語に入ってきた.そして,すでに15世紀末までには,原義から「勤勉」の語義も発達していた.
 16世紀になると,これまでの個人的な職業と結びつけられていた語義が,より集合的な含意を得て「産業」の新語義が生じる.しかし,この新語義が本格的に用いられるようになったのは18世紀後期のことである.1771年にフランス語 industrie がこの語義で用いられたのに倣って,英語での使用が促進されたという.この年代は,後に Industrial Revolution (産業革命)と命名された社会の一大潮流の開始時期とおよそ符合する.
 対応する形容詞の歴史を追っていくと,原義に近い「達者な,器用な」「勤勉な」の意味で industrious がすでに15世紀後期に現われている.実は「産業の」を意味する industrial も同じ15世紀後期には現われており,その点ではさして時間差はない.しかし,industrial (産業の)が本格的に用いられるようになったのは,18世紀に対応するフランス語 industriel の影響を受けてからであり,主として19世紀以降である.
 名詞形も形容詞形も,18世紀後期が用法の点でのターニングポイントとなっているが,これは上でも触れたとおり Industrial Revolution の社会的・言語的な影響力に負っている.なお,Industrial Revolution という用語は,1840年に初出するが,1848年に John Stuart Mill (1806--73) によって導入されたといってよく,それが歴史学者 Arnold Toynbee (1852--83) によって広められたという経緯をもつ.

Referrer (Inside): [2022-01-01-1]

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