5月18日,ロシアのウクライナ侵攻を受けて,スウェーデンとフィンランドが NATO への加盟を同時に申請した.本日の読売新聞朝刊7面に「対露最前線の島 強化急ぐ」と題する記事が掲載されていた.その島とは,バルト海に浮かぶスウェーデン領ゴットランド (Gotland) のことである. *
ゴットランドはスウェーデンの首都ストックホルムから約190キロの距離にある.一方,島からロシアの飛び地であるカリーニングラードまでの距離は約300キロである.古来ロシアと西欧をつなぐバルト海の要衝だったが,現在も地政学的な重要性は変わっていない.
ゴットランドの歴史は古い.島は紀元900年頃からスウェーデンの一部を構成していたが,住民は独自の言語と文化を守り続けてきた.島では現在に至るまでゴットランド語 (Gutnish, Gutnic) が用いられている.スウェーデン語の1方言とみなされることが多いが,スウェーデン語やデンマーク語とともに,北ゲルマン語群 (North Germanic) の東ノルド語 (East Norse) の独立したメンバーとみなすこともできる.(ゴットランド語の位置づけについては「#182. ゲルマン語派の特徴」 ([2009-10-26-1]),「#2239. 古ゲルマン諸語の分類」 ([2015-06-14-1]) を参照されたい.現代ゲルマン諸語の言語地図はこちらから.)
12世紀までに,ゴットランドの商人たちはロシアのノヴゴロドに貿易拠点を構えて,バルト海の貿易ルートを掌握していた.島の随一の町 Visby にはドイツ商人が住むようになり,ハンザ同盟に組み込まれるに至って14世紀半ばまでおおいに繁栄した.
しかし,1361年にデンマークのヴァルデマール4世が島を征服すると,バルト海の貿易ルートが変わり,ゴットランドは衰退していった.その後1645年にスウェーデンに譲渡されると,状況は好転していった.19世紀末にかけては,戦略的要衝として島が要塞化された.
そして,21世紀の現在.島の住民は6万人ほどにすぎないが,今回の国際的緊張のなか,北欧における最前線の1つとなっている.
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