手持ちの The Oxford Dictionary of Proverbs (6th ed.) を A から順に眺めている.この年末年始にでも少しずつ読み進めていこうと思っている.英語の諺 (proverb) には古い文法や語法が残っていることが多く,英語史と親和性があるのだ.
早速,1ページ目に absence 「不在」に関する諺が2つ出てきた.absence と聞けば,諺にふさわしいどのような人生の知恵を思い浮かべるだろうか.私には想像できなかったが,たいへん異なる2つの諺が飛び出してきて驚いた.
1つめは Absence makes the heart grow fonder である.ある人が不在だと,その人をますます好きになってしまうという教訓だ.ODP を読んでいておもしろいのは,他言語での関連する表現や,英語史上での変異形とその用例を示してくれる点だ.この諺について関連するラテン語の表現が記されている.
Cf. PROPERTIUS elegies II. xxxiiib. I. 43 semper in absentes felicior aestus amantes, passion [is] always warmer towards absent lovers.
英語史上の用例もいくつか挙げられており,最初の例はc1850年のものである.興味深く感じたのは,1923年の Observer 11 Feb. 9 からの用例である.反意の諺として有名な Out of sight, out of mind が言及されている.
These saws are constantly cutting one another's throats. How can you reconcile the statement that 'Absence makes the heart grow fonder' with 'Out of sight, out of mind'?
2つめの諺は He who is absent is always in the wrong である.いわゆる欠席裁判のことだ.欠席者は悪者にされ,不利な立場に追い込まれるというものだ.1640年の諺辞典に "The absent partie is still faultie" と現われているのが初出だが,関連する表現は15世紀の Lydgate に出ている.フランス語にも対応表現があるようだ.
If a person is not present to defend himself it is easy for others to say he is the person at fault. Cf. Fr. les absents ont toujours tort; c 1440 J. LYDGATE Fall of Princes (EETS) m. l. 3927 For princis ofte . . . Wil cachche a qu[a]rel . . . Ageyn folk absent.
1736年の例も機知に富んでいる.
1736 B. FRANKLIN Poor Richard's Almanack (July) The absent are never without fault, nor the present without excuse.
1つのキーワードから様々な発想を引き出すことができた.諺辞典の新たな用途をみつけた感がある.ちなみに今朝の Voicy の「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」でも「#575. 英語諺辞典を A から読み始めています!」と題して連動するおしゃべりをしています.ぜひお聴きください.
・ Speake, Jennifer, ed. The Oxford Dictionary of Proverbs. 6th ed. Oxford: OUP, 2015.
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