hellog〜英語史ブログ

#1392. 与格の再帰代名詞[reflexive_pronoun][personal_pronoun][dative]

2013-02-17

 現代英語において,再帰代名詞 (reflexive pronoun) という用語から想起されるのは,通常,kill oneselfturn oneself のような動詞句だろう.動詞の目的語の指示対象が主語のものと同じである場合に用いられる,特殊な人称代名詞の形態である.強意用法や by oneself などの成句を別とすれば,これが再帰代名詞のほぼ唯一の用法であると考えられている.しかし,behave oneself, pride oneself on, oversleep oneself のような例も同じように考えてよいだろうか.つまり,behave, pride, oversleep は他動詞であり,その目的語が主語と同じものを指示するがゆえに再帰代名詞が用いられているのだと考えてよいのだろうか.kill oneself とは性質が異なっているように感じられないだろうか.
 実は,歴史的には,behave, pride, oversleep に後続する再帰代名詞は,対格(動詞の直接目的語)ではなく与格だった.つまり,"for oneself" や "to oneself" ほどの意味を表わし,動詞とはあくまで間接的に結びついていたにすぎない.言い換えれば,これらの動詞はあくまで自動詞として用いられていたということだ.中英語やその後の近代英語に至るまで,再帰代名詞は形態として -self を伴うものと,-self を伴わない単純形とが並存していたため,近代英語あたりでも,単純形を用いたこの種の用例は事欠かない.細江はこの与格の再帰代名詞の用法を反照目的 (reflexive object) と呼んでおり,その例文をいくつか示している (137--38) .

 ・ Hie thee hence! Fare thee well! / I fear me that thou hast overreached thyself at last. ---H. R. Haggard.
 ・ I followed me close.---Shakespeare.
 ・ They knelt them down.---Scott.
 ・ Then lies him down the lubber fiend.---Milton.
 ・ I sat me down and stared at the house of shaws.---Stevenson.
 ・ Would it not be better to absent himself from the concert and nurse his dream?---Edith Wharton.
 ・ Behave yourself!---Joyce.
 ・ I to the sport betook myself again.---Wordsworth.
 ・ In this perplexity, he bethought himself of applying for information to one of the warders.---Ainsworth.
 ・ Aunt Winifred prides herself on her coffee.---Galsworthy.
 ・ They entered the vestibule and sat themselves down before the wide hearth.---H. R. Haggard.
 ・ She's not very ill any more. Console yourself, dear Miss Briggs. She has only overlaten herself.---Thackeray.
 ・ He started up in bed, thinking he had overslept himself.---Hardy.


 いずれも,感覚としてはなぜ再帰代名詞が用いられるのか分かりかねる例ばかりである.往来発着の自動詞と再帰代名詞が共起する例が多いが,これについては「#578. go him」 ([2010-11-26-1]) で触れた通りである.

 ・ 細江 逸記 『英文法汎論』3版 泰文堂,1926年.

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