spelling pronunciation 「綴り字発音」については本ブログでも何度か触れてきた.
綴り字発音は「綴字に合わせて,歴史的,伝統的,標準的な様式とは異なる様式でなされる発音」として定義される.現代英語で often の発音に起きている変化が代表的な例である.この語は従来 [ˈɔ:fn] と発音されてきたが,近年では [ˈɔ:ftən] と <t> を発音する方向へ変化しつつある.「書かれているのだから読もう」という素直な発想に基づく発音変化である.
他には,accomplish がある.これは従来 [əˈkʌmplɪʃ] と発音されてきたが,近年の米語では [əˈkɑ:mplɪʃ] と発音されるようになってきている.<om, on> という綴字における母音は,some や company にみられるように,歴史的には [ʌ] と発音されてきたが,stop や Tom などの [ɑ:] の発音からの類推で,このように変化してきている.
上記のように,綴り字発音には二つの種類が区別される.種類ごとにいくつかの例を挙げよう.
(1) 黙字 ( mute letter ) が発音されるようになるタイプ.often の新発音の例.
単語 | 従来の発音 | 綴り字発音 |
clothes | [ˈkləʊz] | [ˈkləʊðz] |
forehead | [ˈfɒrɪd] | [ˈfɔ:hɛd] |
often | [ˈɔ:fn] | [ˈɔ:ftən] |
suggest | [səˈdʒɛst] | [səgˈdʒɛst] |
towards | [ˈtɔ:dz] | [təˈwɔ:dz] |
(2) 類似した綴字をもつ他の語からの類推 ( analogy ) によって発音が変化するタイプ.
accomplish の新発音の例.
単語 | 従来の発音 | 綴り字発音 |
assume | [əˈʃu:m] | [əˈsju:m] |
ate | [ˈɛt] | [ˈeɪt] |
clerk | [ˈklɑ:k] | [ˈclə:rk] |
constable | [ˈkʌnstəbl] | [ˈkɑ:nstəbl] |
nephew | [ˈnevju:] | [ˈnefju:] |
上に挙げた表は,従来の発音から綴り字発音へと発音が変化しつつあるという通時的な過程を示唆しているが,一方で地域変種間の差異を示唆しているという側面もある.従来の発音がイギリス発音で,綴り字発音がアメリカ発音であることが多い.Mencken は,綴字と発音の差を縮める方向に作用する綴り字発音の合理性を指摘し,イギリス英語に勝るアメリカ英語の特質として力説している ( 483--88 ).イギリス英語とアメリカ英語のこの対比は,特に地名によく現れている.両国に同じ綴字の地名がある場合,イギリス英語では歴史と伝統によってはぐくまれた不規則な発音が,アメリカ語ではストレートな綴り字発音が行われることが多い.
単語 | イギリス発音 | アメリカ発音 |
Derby | [ˈdɑ:bi] | [ˈdə:rbi] |
Eltham | [ˈɛltəm] | [ˈɛlθəm] |
Greenwich | [ˈgrɪnɪdʒ] | [ˈgri:nwɪtʃ] |
Thames | [ˈtɛmz] | [ˈθeɪmz] |
とはいえ,近年ではイギリス英語もアメリカ英語の影響を受けることが多くなってきており,全体として綴り字発音の傾向は続くことが予想される.
・Mencken, H. L.
The American Language. Abridged ed. New York: Knopf, 1963.
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