英語における綴字と発音の乖離については spelling_pronunciation_gap の記事を中心に多くの記事で触れてきたが,今まで木を見て森を見ずに論じてきたかもしれない.Jespersen (3) を読んでいて,はっとさせられた.
In the Middle Ages the general tendency was towards representing the same sound in the same way, wherever it was found, while the same word was not always spelt in the same manner. Nowadays greater importance is attached to representing the same word always in the same manner, while the same sound may be differently written in different words.
やや乱暴だが,この引用を一言でまとめれば,「中英語の綴字体系の拠り所と近代英語のそれとの間の本質的な差は,前者がより表音的 (phonographic) であるのに対して,後者はより表語的 (logographic) である」ということになる.現代英語に同音異綴 (homophony) が多い事実を根拠に,現代英語の綴字体系はアルファベットを使用していながらも実は logographic であるという主張はしばしば聞かれるが,文字論の観点と通時的な視点を組み合わせれば,英語の綴字体系の変化は,確かにこのようにまとめられるように思われる.Jespersen も "tendency" と穏やかな言葉遣いをしているとおり,あくまで各時代の英語の綴字体系が向いている方向が指摘されているにすぎないが,言い得て妙だろう.
中英語の綴字体系は,音を表わすのだと主張してうるさいが,実現された語形は多種多様で大雑把である.近代英語の綴字体系は,音は適当に表わせればよいと鷹揚だが,実現される語形は厳格に定まっている.一般に文字の発展の歴史において表意や表語から表音へ向かう流れが認められるが,英語史においてはその逆ともいえる表音から表語への流れが観察されるというのは興味深い.
関連して,「#422. 文字の種類」 ([2010-06-23-1]) も参照.
・ Jespersen, Otto. A Modern English Grammar on Historical Principles. Part 1. Sounds and Spellings. 1954. London: Routledge, 2007.
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