標題の内容に入る前に,関連する過去の記事へリンクを張っておく.
・ 「#251. IPAのチャート」 ([2010-01-03-1])
・ 「#669. 発音表記と英語史」 ([2011-02-25-1])
・ 「#822. IPA の略史」 ([2011-07-28-1])
・ 「#1376. 音声器官の図」 ([2013-02-01-1])
・ 「#31. 現代英語の子音の音素」 ([2009-05-29-1])
では,本題へ.以下の IPA の2005年度版 (PDF; 58KB) の肺気流(「#1672. 気流機構」 ([2013-11-24-1]) を参照)による子音表で,行と列はそれぞれ何を表わしているだろうか.
まず,列は調音点 (place of articulation) を表わし,左端の唇から右端の声門まで,声道内の各器官に対応する.左を向いた顔の横顔ととらえればよい.
一方,行は調音様式 (manner of articulation) を表わし,上から下へ,およそ呼気に対する妨害の程度の高いものから順に並んでいる.ここで妨害の種類は8つに区分されているが,この配列にも実は一定の論理がある.その論理は,斉藤 (21) による図をみれば一目瞭然だ.分節音の種類に英語訳をつけつつ,その図を再現しよう.
┌─ 破裂[口]音 (plosive)
┌─ 破 裂 ─┤
│ └─ [破裂]鼻音 (nasal)
│
口腔内に閉鎖がつくられるもの ─┼─ ふるえ ─── ふるえ音 (trill)
│
└─ はじき ─── はじき音 (tap or flap)
┌─ [中線的]摩擦音 (fricative)
┌─ 摩 擦 ─┤
│ └─ 側面[的]摩擦音 (lateral fricative)
口腔内に隙間が残されるもの ──┤
│ ┌─ [中線的」接近音 (approximant)
└─ 接 近 ─┤
└─ 側面[的]接近音 (lateral approximant)
大きく2系列に分かれる.口腔内に完全な閉鎖が作られて,気流が一時止められるものと,閉鎖が不完全で隙間が残り,気流がせき止められないものとである.前者は広い意味での破裂を表わし,閉鎖の形成,持続,開放の3段階からなる.しっかりした持続が1回はあるもの,と言い換えてもよい.気流の開放が口のみで生じれば破裂[口]音 (plosive) ,鼻でも生じれば[破裂]鼻音 (nasal) となる.一方,持続の極めて短い閉鎖と破裂が複数回繰り返されると,例えば巻き舌音のような,ふるえ音 (trill) となる.また,極めて短い閉鎖と破裂が一度だけ生じる場合には,日本語のラ行の子音に現れるような,はじき音 (tap or flap) となる.厳密に言えば,tap と flap は異なり,「tap は舌(動的調音器官)がそれ自体の運動の目的として上歯茎など(静的調音器官)に接触してもどるもの,flap は舌がもとの位置にもどる運動の途中で上歯茎などに1回触れるものをさす」(斉藤,p. 40).
もう1つの系列,すなわち口腔内に隙間が残される音には,調音器官のあいだを通る気流の摩擦の強いものと,そのような摩擦がほとんどなく,調音器官間がある程度接近しているにすぎないものとが区別される.また,それぞれについて,気流が口腔内の真ん中を通るか脇を通るかに応じて,中線的と側面的な音が区別される.結果として,[中線的]摩擦音 (fricative) ,側面[的]摩擦音 (lateral fricative) ,[中線的」接近音 (approximant) ,側面[的]接近音 (lateral approximant) の4種類が分けられることになる.
IPA の子音分類は,したがって,調音音声学の観点からきわめて論理的になされていることになる.全体として,肺気流による子音の分類は,以下の5つの観点からなされているといえる(斉藤,p. 25).
(1) 声門の状態(声帯の振動の有無)
(2) 調音の場所(どの部分で空気の流れを妨害するか)
(3) 気流の通路(気流は口腔内の真ん中を通るか脇を通るか)
(4) 接近の度合いなど(気流に対してどのように妨害を作るか)
(5) 口蓋帆の位置(気流は鼻腔に抜けるか抜けないか)
IPA や音声学の学習には,音声を聴くこともできる以下のページをどうぞ.
・ 東京外国語大学による
IPA モジュール
・ Department of Language and Communication Studies, Norges Teknisk-Naturvitenskapelige Universitet による
A Sound Reference to the IPA: active, sound-enabled version of the International Phonetic Alphabet
・ Department of Phonetics and Linguistics, University College London による
IPA: Alphabet
・
The UCLA Phonetics Lab
・ Institute of Phonetic Sciences, University of Amsterdam による
Phonetic Sciences, Amsterdam
・ 東北大学の後藤斉教授による
音声学と
音響音声学のリンク集
・ 斉藤 純男 『日本語音声学入門』改訂版 三省堂,2013年.
[
|
固定リンク
|
印刷用ページ
]