hellog〜英語史ブログ

#4304. なぜ foot の複数形は feet なのですか? --- hellog ラジオ版[hellog-radio][sobokunagimon][hellog_entry_set][plural][number][i-mutation]

2021-02-07

 名詞の複数形は通常は -(e)s をつければよいだけですが,なかには不規則複数形といわれるものがあります.不規則複数形にも実は多種類あるのですが,1つのタイプとして foot --feet, goose -- geese, louse -- lice, man -- men, mouse -- mice, tooth -- teeth, woman -- women が挙げられます.語幹の母音が変異するタイプですね.英語史的にいえば,これらの複数形は同一の原理によるものとして説明できます.foot -- feet を例に,音変化の機微をご覧に入れましょう.音声解説をお聴きください.



 /i/ という母音は,音声学的にいえば極端でどぎつい音です.周囲の音を自分自身の近くに引きつけ,しばしば自他ともに変質させてしまう強力なマグネットとして作用します.例えば,この効果による /ai/ → /eː/ はよくある音変化で,「やばい」 /yabai/ も口語ではしばしば「やべー」 /yabeː/ となりますね.英語でも,day はもともとは綴字が示す通りに /dai/ に近い発音でしたが,近代までに /deː/ へと変化しました.
 これと似たようなことが,英語成立に先立つゲルマン語の時代に foot の当時の発音である /foːt/ に起こったのです.複数語尾である -iz が付加された /foːtiz/ は,どぎつい /i/ の音声的影響のもとに,やがて /feːtiz/ となりました.その後,強勢のおかれない語尾に位置する /z/ や,変化を引き起こした元凶である /i/ 自体が弱まって消失していき,最終的に /feːt/ に帰着したのです.この複数形態こそが,古英語の fēt であり,現代英語の feet なのです.
 この話題については##157,2017の記事セットで本格的に扱っていますので,関心のある方は是非そちらもご覧ください.

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