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言語とカオス理論 (chaos_theory) や複雑系 (complex_system) の関わりについては,これまでの記事でも触れることがあった.過去の記事では,主に言語体系の安定性や言語の統計的振る舞いを念頭に,カオスとの関わりに注目してきた.
たまたま『新編 認知言語学キーワード事典』 (p. 34) を開いていて「カオス (chaos)」の項を発見した.そこではカオス理論の基本が解説された後に,会話の成り立ちとカオスの関係について紹介されている.私にとって斬新な視点だった.以下に引用する.
カオス現象は,例えば,木の葉の落下軌道,昆虫の大量発生,煙草の煙やパチンコの玉の動き,伝染病の流行,株式市況,波の砕け方,雲の動きなど,自然界ではごく普通に見られるが,注目すべきは,カオスという不規則で予測不可能な現象が,比較的単純な決定論的 (deterministic) な規則に従う中で生じるということである.決定論とは,最初の状態が決まれば任意の時点での状態が一義的に決まるというものを言う.ニュートン流の古典物理学では,単純な現象は単純な原因で生じ複雑な減収は複雑な原因で生じるものとされていたが,カオス研究は,決定論的規則に従っている場合には,複雑で予測不可能な現象が生じることを示すもので,古典物理学の常識を覆すとともに,ランダムにしか見えない複雑な現象でも単純な規則性を持つ可能性があり,その過程を明らかにする必要性をわれわれに訴えている.
言語との関連で言うと,カオス的な現象は,会話の成り立ちにおいて端的に現れる.実際,会話に際して一定のルールを定め,そのルールを完全に守って自由会話を始めたとしても,時間の進行とともに,会話の展開や内容は予想できないものになる.また,同じルールでも初期条件を少し変えるだけで,その後に展開される会話の内容が大きく変わるという点でも,カオス的な振る舞いを見せる.また,関連語として,秩序(予測可能な構造)から無秩序(カオス)へ転換するところを「カオスの縁」 (edge of chaos) と言い,カオスの縁は有機的な領域で,情報発生能力が高いところである.
一定のルールを守るとしても,フリートークの場合,会話の成り立ちや進み方は確かに先が読めないことも多い.言語体系とは別軸で,言葉に関わるカオス的な現象は,思いのほかいろいろなところに観察されるのかもしれない.
・ 辻 幸夫(編) 『新編 認知言語学キーワード事典』 研究社.2013年.
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最終更新時間: 2024-12-16 08:44
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