「塵肺症」という病気がある.日本語として知っている人は少ないだろうが,英語ではちょっと有名である.ただ,有名というのはその病気自体ではなく,それを表す英単語が,である.英語で最も長い単語と言われている.
pneumonoultramicroscopicsilicovolcanoconiosis
実に45文字からなり,このままでは何が何だか分からないが,分解してみると次のようになる.
pneumono 「肺の」
ultra 「超」
microscopic 「微細な」
silico 「ケイ素の,珪酸の」
volcano 「火山性の」
coniosis 「塵肺病」
「超微小な珪酸の火山塵が肺につまる病気」と考えればよさそうである.coniosis だけでも「塵肺病」を指せるので,まるで寿限無のようだが,確かに長い.膠着的とも抱合的ともいえる,英語としては相当に強引な語形成である.さらに細かく形態素分解すれば,次のようになる.語源は古代ギリシャ語かラテン語のいずれかに遡る.
pneumono 「肺の」 (Greek)
ultra 「超」 (Latin)
micro 「微」 (Greek)
scop 「視野」 (Greek)
ic 「?の」 (Greek)
silico 「ケイ素の,珪酸の」 (Latin)
volcano 「火山(灰)の」 (Latin)
coni 「塵」 (Greek)
osis 「症状」 (Greek)
念のため,発音も記しておこう.
[nju:ˌmɑnoʊʌltrəmaɪkrəˈskɑpɪkˌsɪlkoʊvɑlkeɪnoʊkoʊnɪˈoʊsɪs]
英単語としては,以下の4部門で金賞受賞と言っていいかもしれない.
・45文字
・19音節
・42音素(長母音と二重母音は1音素として数えた)
・9形態素(もっと細分化も可能?)
英語史の観点からは,この単語の初出がいつかに関心がある.OED によると,初出は1936年となっている(ただし綴りが若干異なる).OED の説明は以下の通り.
a factitious word alleged to mean 'lung disease caused by the inhalation of very fine silica dust' but occurring chiefly as an instance of a very long word
この単語は何かと有名な単語なので,Googleでpneumonoultramicroscopicsilicovolcanoconiosisを検索するともっと面白い記事があるかもしれない.
最後に疑問を二点.
(1) 複数形は,やはり -osis を -oses にするのだろうか? (答:多分そうだろう)
(2) 1936年より前には英語で最も長い単語は何だったのだろうか? (答:なぞである)
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