標題は1年のこの時期の恒例の話題です.昨年4月に「#4728. 2022年度「英語史」講義の初回 --- 慶應義塾大学文学部英米文学専攻の必修科目「英語史」が始まります」 ([2022-04-07-1]) として「英語史」の講義を勢いよく始めましたが,先日その講義の最終回を迎えました.履修者に,1年間を振り返って英語史から何を学び取ったかを聞いてみました.いくつか回答をピックアップしてみます.皆さんの学びの参考になればと思います.
・ 「視点は複数存在する」ということを何度も再認識させられた.
・ 「英語にも多様性があることを理解することで,物事を様々な視点から見られるようにする」ことがあるという考えは非常に印象深かった.
・ 長い間英語を学んできたが,その途中でなぜ母音の前には a ではなく an を付くのか,color と colour どっちが正しいのかなど,浮かび上がった疑問に答えてくれる人は誰もいなかった.しかし,そうした英語の大きな疑問から素朴な疑問に至るまで英語のなぜという問いに,この英語史の授業を通じて答えを得ることができた.
・ 英語史を学び,これまでうやむやにしていた細かな疑問が多く解決されました.例えば,古英語の強変化動詞について学ぶことで現代英語の不規則変化動詞についてその規則を理解できるようになったり,名詞の複数形について単複同形が形成された経緯を歴史的に知ることができたり,様々な理解が深まりました.
・ 今年度一年にわたって英語史を学習してきて学べたことは様々ありますが,そのなかでも最も価値があったのは英語をある種相対化して見ることができるようになったことです.
・ 英語史についてだけではなく,言語そのものに対して興味が深まっていったこと,知見が広がっていったことが最も価値のあるものだったのではないかと感じた.
・ 外面史とともに言語をとらえる重要性を学ぶことができた.言語は人々が生み出してきたものであり,その人々の生活,生み出してきた歴史に密着しているものであり,単語や文法といった言語の特徴も当時の人間が抱いていた価値観や関わりによって生まれたものだと反映することで,つながりが理解できた.
・ 英語史を学ぶまで,今や義務教育にまで取り入れられている英語は,他の言語とは一味違う,何が重要なものであるような印象があった.〔中略〕しかし今年度を通して英語を学ぶことで英語はただの一言語に過ぎないということが理解できた.それまでの私にとって英語は義務教育という形から強制され,学ばなければならない無機質なものであるという価値観があった.しかし英語は借用語で他言語から多くの語彙借用をしていること,ある時期には格好つけの知識人層によって英語が捻じ曲げられてしまったことを知ると,英語が人々の手がきちんと加えられた有機的なものであるという感覚が生まれた.
・ 英語史は,歴史である,と強く感じた.言語の歴史であるので,当たり前なのだが,英語は,アメリカ,イギリス,フランス,はたまたアジア圏の国々・・・ありとあらゆる地域が,各時代ごとに,条件とともに混ざりあって完成した,非常に複雑でいろいろな事柄を経験した言語である,というように思われるようになって,英語学習に厚みが増した気がする.
・ 私が今年度英語史の講義を通して最も価値があると感じたのは,英語の成り立ちを知ることで格段に英語に対する興味関心が増え,学習意欲の向上につながるのではないかと思えたことだ.〔中略〕英語史の講義を通して素朴な疑問が英語史を介することでほとんど解決可能な事項だと知り,とても面白く学んでよかったと思った.
・ この講義で,「イギリス英語は保守,アメリカ英語は革新」というステレオタイプな価値観を打破できたことも嬉しく思う.「語源」を大事にしすぎたゆえ,ラテン語綴りを追いかけすぎて英語本来の響きから遠ざかってしまったイギリス英語や,発音と綴りを合わせたいという合理主義が高じて,イギリス英語由来のしがらみを解くことのできたアメリカ英語など,納得できる歴史と擦り合わせながらステレオタイプを打破していく学習は大変面白かった.
・ 私が英語史を学んできた中で,最も価値があったと感じたことは,「ものごとを一つとってみても,そこに至った経緯や背景があり,探求してみると見えていないことも多く見えてくるかもしれない」ということです.〔中略〕英語史を受講させていただいて,物事を追求してみることの面白さというものを感じることができた1年間でした.
・ 私が今年度の英語史の講義を通じて,広い意味で学んだ事柄のうち最も価値があると思った事柄は,少しでも疑問に思ったことをそのままで終わらせない,ということである.
・ 今学期を通して学べたこととしてはやはり英語史を学ぶことで常に自分たちが流動的なものの流れにいるということであり,今日の当たり前はその先の当たり前ではないということが分かったということです.
・ 中学校で英語を習い始めてから大学受験まで,英語(の問題)には必ず一つの正解があると信じて疑わずに生きてきたが,この講義を通じて,言語とは本来通時的に変化し続けるもので,また,共時的にも変異しているということを学んだ.
・ 今年度の英語史の授業を通して学んだことの中で,私にとって一番価値があると思われるものは,普段から疑問に思ったことを突き詰めて考えるということです.
・ 共時態としての英語,通時態としての英語,これらはともに意識的しておくと視野が拡大する,このことを毎度身を以て体感できる講義だった.
・ 英語史通史を学んだことで,英語に対して抱いていたある種の威厳のようなものが,いい意味でなくなったというのが最大の収穫であった.これまで,漠然と英語は「かっこいい」,「世界を支配している言語だ」と考えていた.しかし,英語史の講義を通して,さまざまな側面から英語という言語を俯瞰したことで,その絶対的な感覚がなくなった.
・ これまで英語史で取り上げられた,何故英語は現在のような形になったのかということに関する様々な問題点や経緯は非常に面白かった.ずっと継続して繋がっているというのも魅力的だ.知らない人に話したくなる内容ばかりだった.
・ 1年間英語史を受講して,私が得たことは英語に絶対的な正解はないということである.この授業の初回で「英語の見方が180度変わる」と聞いてしっくりこなかったが,今となってその通りになってしまったと考えている.
・ 何よりも「何事にも絶対なことはなく,その裏には何らかの理由がある」と強く感じさせただけでなく,必ずしもその因果は「必然的」ではなく,「偶然的」な可能性もあると深く考えたためだ.1年間,英語の壮大な歴史を学んでとても興味深いと感じた.
ぜひ過年度の回答もご覧ください.ということで今年度の大学での「英語史」講義はこれにて終了.お疲れ様でした!
・ 「#2470. 2015年度,英語史の授業を通じて何を学びましたか?」 ([2016-01-31-1])
・ 「#3566. 2018年度,英語史の授業を通じて何を学びましたか?」 ([2019-01-31-1])
・ 「#3922. 2019年度,英語史の授業を通じて何を学びましたか?」 ([2020-01-22-1])
・ 「#4661. 2021年度,英語史の授業を通じて何を学びましたか?」 ([2022-01-30-1])
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