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2026-02-28 Sat

#6151. The Oxford Guide to Etymology --- 英語語源学に入門したい方へお薦めする1冊 [etymology][hel_education][review][kdee][hee]

 おかげさまで『英語語源ハンドブック』『英語語源辞典』の認知度が高まってきている.語源というものは,何語であっても,人を引きつけるものである.人は言葉を道具として使いこなせるばかりか,その道具について知りたい,語りたい生き物だからだ.
 しかし,辞典やハンドブックにみられる記述は,当然のことながら,最初から知られていたわけでもないし,記されていたわけでもない.語源の専門家が調査して初めて得られた知識が,たいていの場合にコンパクトに提示されているということである.言い方をかえれば,語源的知識は「所与」のものではない.所与のように見えるかもしれないが,そうではない.
 OED の語源欄の編集に関わっている Durkin (ix) が,語源学の入門書 The Oxford Guide to Etymology のイントロで,"About this book" と題する1節を書いている.抜き出して読んでみよう.

Etymologies appeal to people with a very wide variety of interests and intellectual backgrounds. A very few people, such as myself, spend most of their time researching etymologies. A slightly larger number do so very occasionally. Many, many more people look at etymologies, but have never researched any themselves. Some people will never even have thought of etymologies as things which need to be researched. Particularly when etymologies are encountered in the compressed form found in many dictionaries, they can seem to be a given, rather than the (often very tentative) results of extensive research.
   This book is intended for anyone who has taken the important first step of realizing that etymologies are the result of research, and would like to discover something about the nature of that research, and the principles and methodologies which underlie it.


 『英語語源ハンドブック』を通読するなどして英単語の語源に十分に親しんだ方で,かつ語源が所与のものではないことを認識した上で,専門家がどのように語源を探るものなのかを部分的に追体験したい方に,お薦めしたい1冊である.歯ごたえはあるかもしれないが,英語史や歴史言語学についても同時に学べる点でもすぐれた書籍だ.語源学の楽しさと厳しさを知りたい方は,ぜひ!

Durkin-Etymology_front_cover.png



 ・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.
 ・ 唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一(著),福田 一貴・小河 舜(校閲協力) 『英語語源ハンドブック』 研究社,2025年.
 ・ Durkin, Philip. The Oxford Guide to Etymology. Oxford: OUP, 2009.

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2026-02-27 Fri

#6150. 「英語史の塔」が建っています [note][tower_of_hel][kochushoho][hee][kdee][hajimetenoeigoshi][kenkyusha][helkatsu]


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 昨日の記事「#6149. 『古英語・中英語初歩』が新装復刊」 ([2026-02-26-1]) で,伝説的な入門書『古英語・中英語初歩』の新装復刊をご案内しました.復刊に先だつこと9日ほど前の2月18日に,なんと上記の「英語史の塔」 (tower_of_hel) が建ちました.壮観ですね.この「英語史の塔」の建設の経緯については,note 記事「「英語史の塔」が建設されました」にまとめておきましたが,hellog としても概要を記しておきます.
 2026年2月18日(水)の昼下がり,X にて写真とともに「……建ちました。」とだけ投稿しました.実はこの「英語史の塔」が建設された旨のご案内でした.
 発端は,現在滞在中のオーストラリアはメルボルンからの,ほんの軽い冗談でした.ここ数週間『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』(研究社;初版1935年)を「推し」続けている身として,同社から出ている拙著を含めた英語史関連の4冊をまとめて紹介したいという切望が日増しに強まっていました.

 ・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.
 ・ 堀田 隆一 『英語の「なぜ?」に答えるはじめての英語史』 研究社,2016年.
 ・ 唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一(著),福田 一貴・小河 舜(校閲協力) 『英語語源ハンドブック』 研究社,2025年.
 ・ 市河 三喜,松浪 有 『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』 研究社,2026年.

 しかし,これらの本を日本から持参してきたわけはないので,紹介するにもパンチが効きません.そこで,研究社の営業担当のTさんに,4冊をそれらしく積み上げて,「英語史の塔」みたいに撮ってもらえますか? と無茶振りをお願いしてみました.1冊ずつちょこんとバランスよく重ねて,ちょっとしたネタ写真にでもなれば十分,という軽い気持ちでした.
 ところが数日後,Tさんより送られてきた写真を見て,目を見張りました.4冊の積み木遊びのようなレベルではなく,各書籍を数部ずつ巧みに組み合わせた,本気の建築物が屹立していたのです.私の軽い冗談が,プロの本気を引き出してしまったようです.
 感激して写真を眺めながら,感慨に耽りました.考えてみれば,英語史研究とは,まさにこのように「積み上げる」営みだったのではないかと.時代を積み上げ,語彙・音声・文法を積み上げ,横の広がりと縦の深さを積み上げてきた.そして,『古英語・中英語初歩』のオリジナル版が刊行された1935年から,新装復刊の2026年に至るまで,先人の知恵が詰まった本を積み上げてきた.気づいてみれば,それは一朝一夕にはガタつくことのない「塔」になっていた,ということです.
 「英語史の塔」お構成する4冊は,それぞれに役割が異なります.

 ・ 『英語語源辞典』は英単語の歴史を深掘りしていく本
 ・ 『はじめての英語史』は英語史の考え方をつかむ本
 ・ 『英語語源ハンドブック』は英語語源の世界を横断する本
 ・ 『古英語・中英語初歩』は古い英語の原文に触れる本

 一見バラバラの入口に見えて,実は1つの大きな英語史という建築物を構成する重要なパーツです.
 hellog 読者の皆さん,この春はいずれの入口からでも英語史の世界に入ってみませんか? 全4冊へのアクセスは,研究社公式のこちらのページ の下方の「関連書籍」,あるいは「英語史関連・周辺テーマの本」のページからが便利です.

 ・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.
 ・ 堀田 隆一 『英語の「なぜ?」に答えるはじめての英語史』 研究社,2016年.
 ・ 唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一(著),福田 一貴・小河 舜(校閲協力) 『英語語源ハンドブック』 研究社,2025年.
 ・ 市河 三喜,松浪 有 『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』 研究社,2026年.

Referrer (Inside): [2026-03-04-1] [2026-03-02-1]

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2026-02-26 Thu

#6149. 『古英語・中英語初歩』が新装復刊 [notice][kochushoho][kenkyusha][oe][me]


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 昨日2月25日(水),ついに古英語・中英語の伝説的な教科書『古英語・中英語初歩』が新装復刊となりました.1ヶ月前の「#6117. 伝説的入門書『古英語・中英語初歩』が新装復刊されます!」 ([2026-01-25-1]) を皮切りに,この hellog でも,また他のメディアでも,本書の1ファンとして今回の復刊を祝い,待ち望んできましたが,ついに入手できるようになりました.
 本書は初学者が古英語および中英語の「初歩的知識を得ること」を目的として書かれています.本格的な科学的研究への第一歩として,あるいはそこまで行かなくとも,現代英語を歴史的な観点から深く理解するための入り口として,これほど丁寧で優しい作りとなっている教科書は稀です.
 本書の構成は,大きく古英語パートと中英語パートに分かれています.それぞれの部門において,まず綴字・発音,文法,時代背景に関する解説がなされます.とりわけ現代英語から距離のある古英語については,細かく解説されています,その後に実際の原文を読み解く「テキスト編」が続きます,語学書として王道の構成です.特筆すべきは,初学者の便宜のために,各パートの最初のいくつかのテキストには,IPA による発音記号が1単語1単語について丁寧に付されている点です.これは,慣れない古い文字体系に戸惑う読者にとって,きわめて手厚い計らいです.
 すべてのテキストに,現代英語訳が付されている点も見逃せません.英語で書かれた古英語・中英語の教科書では,現代英語訳は省略されるのが通例ですが,本書ではあえてこれを完備することで,現代英語との語順や綴字の対比を促す工夫がなされています.日本の英語学習者のツボを押さえた解説と相まって,独学を可能にするための情報が,この一冊の中に完全に閉じ込められています.
 巻末には,テキストに現われる単語を網羅したグロッサリー(小辞典)も付いています,この一冊を仕上げれば,より専門的な英語史の世界へと羽ばたく準備が整うとともに,歴史的な観点からの現代英語の理解がぐんと深まるでしょう.今回の新装復刊にあたっては,旧版よりもコンパクトで,鞄に入れて持ち運びやすい現代的な装丁に生まれ変わっています.
 定価3,300円(税込)という価格は,この充実した内容からすれば間違いなく「お得」と断言できます.これまで英語史のおもしろさに魅せられながらも,古英語や中英語の原文に踏み込む勇気は出なかったという方々にとって,本書は背中を押してくれる最高の入門書となるはずです.ぜひ、この伝説的入門書を手にとって,英語という言語の懐の深さを体感してください.表紙に扉のデザインが施されており,背景も扉の向こう側もディープでダークな色ですが,これは古英語・中英語の「深遠さ」や「沼」を表わしているものと解釈したいところです.扉を開くには少し怖そうですが,それだけ濃厚な世界が待っているのだと捉えていただければ.
 昨日の heldio にて,本記事と同じ趣旨を「#1732. 本日,伝説的入門書『古英語・中英語初歩』が新装復刊」として熱量をこめてお届けしました.ぜひそちらもお聴きいただければ.



 ・ 市河 三喜,松浪 有 『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』 研究社,2026年.

Referrer (Inside): [2026-02-27-1]

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2026-02-25 Wed

#6148. 印欧祖語の s-mobile [indo-european][morphology][reconstruction][gradation][vowel][consonant][etymology]

 『英語語源辞典』の巻末にある「印欧語根表」を眺めていると,s で始まる語根において,頭の s が括弧に入れられて表記されているものが少なくない.(s)ker-, (s)mer-, (s)pen-, (s)preg-, (s)teg- などだ.このオンとオフを示唆する (s)- は印欧祖語の再建において難しい問題を呈している.*(s)teg- "cover" を例に,Lass (118--19) に解説してもらおう.

   As we saw in teg-ō vs. stég-os, etc. . . . , certain roots appear to have 'optional' initial /s/; or perhaps better, to occur in two forms, one with and one without */s/, hence the conventional description of this phenomenon as 'mobile s'. The root 'cover' then might be represented as */(s)teg-/, or */steg-, teg/. . . .
   . . . .
   Awareness of s-mobile suggests an interesting perambulation through the lexicon of a language like English, given its enormous propensity for borrowing. The root */(s)teg-/ (in its various ablaut grades) appears in English in at least nine lexemes, both native and borrowed. Thatch of course we have already seen, and tile < tīgele < L tēg-ula. We also have borrowed L toga, and from this via French togs, a clipping of tog(e)mans 'cloak'. Still on the s-less alternant, there are various derivatives of L teg-ō and its forms, like in-teg-ument, pr-tec-t 'provide shelter for', de-tec-t 'un-cover'. The s-root is not well represented in English, but from (neo-)Greek we have the dinosaur steg-o-saurus 'roofed or covered lizard', and the rare sixteenth-century coinage steg-ano-graphy 'secret or cryptic writing'.


 s-mobile は,印欧祖語の母音交替 (gradation or ablaut) の子音版とみることもできるかもしれないが,母音版ほど体系的でもなく,事例も散発的である.

 ・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.
 ・ Lass, Roger. Old English: A Historical Linguistic Companion. Cambridge: CUP, 1994.

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2026-02-24 Tue

#6147. 言語学用語としての register の初例 [register][terminology][sociolinguistics][oed][youtube][inohota][sociolinguistics]

 昨日の記事「#6146. いのほたで register を紹介しました」 ([2026-02-23-1]) に引き続き,register という用語について.言語学用語としての register の初例を調べるべく,OED に当たってみた.語義 II.9.c がそれに当たり,初出年は1956年とある.この語義の定義と例文をすべて OED から引用する.

II.9.c. Linguistics. In language: a variety or level of usage, esp. as determined by social context and characterized by the range of vocabulary, pronunciation, syntax, etc., used by a speaker or writer in particular circumstances.

   1956 He will on different occasions speak (or write) differently according to what may roughly be described as different social situations: he will use a number of distinct 'registers'. (T. B. W. Reid in Archivum Linguisticum vol. 8 32)
   1962 Interference may..vary according to the social role of the speaker in any given case. This is what the Edinburgh School has called register. (Canadian Journal of Linguistics vol. 7 69)
   1966 Varieties of English distinguished by use in relation to social context are called registers. (G. N. Leech, English in Advertising vii. 68)
   1971 A novel, then, can be seen as an amalgam of registers within a wider register of literary endeavour. (P. Young in J. Spencer, English Language in West Africa 173)
   1972 Chaucer must therefore have used what was, for the London of his time, a more formal, possibly more archaic, register. (Notes & Queries December 446/2)
   1977 They are aware..of the idea of 'varieties' of English, and they probably know the term 'register'---a variety related to a particular use of the language, a particular subject or occupation. (P. Strevens, New Orientations in Teaching of English x. 119)
   1991 An unexpected bonus is a bilingual section on letter-writing in both formal and informal registers. (Times Educational Supplement 15 March 49/2)
   2004 This marker is very often used by Catalan speakers in colloquial register when the speech formality is low. (M. González, Pragmatic Markers in Oral Narr. vi. 224)


 初例の典拠となっている Reid の論文に当たってみると,次のようにあった (32) .

Even if we possessed a separate repertory of utterances for each of the groups of speakers into which the French speech community must be divided, we should still be unable to establish a single linguistic system for any one group. For the linguistic behaviour of a given individual is by no means uniform; placed in what appear to be linguistically identical conditions, he will on different occasions speak (or write) differently according to what may roughly be described as different social situations: he will use a number of distinct "registers"[note 2]


note 2: cf. the levels of diction, indicated in the Report of the Commission set up by the International Council for Philosophy and Humanistic Studies quoted by Professor J. R. Firth in Transactions of the Philological Society. 1951, p.81.


 Reid (1901--81) はオックスフォード大学の教授で,ロマンス語学を専攻していた.引用注にもあるとおり,アイディア自体は Firth の "levels of diction" に遡るが,それを Reid が "register" と名付けなおしたということのようだ.その70年後に「いのほた」でも主題として取り上げられるほどに重要な用語に成長したことになる(cf. 「#404. エンレジスタメント(enregisterment・レジスター化)とレジスターーコンビニ敬語,ファミレス敬語を社会言語学から見ると?」).

 ・ Reid, T. B. W. "Linguistics, Structuralism and Philology." Archivum Linguisticum 8.1 (1956): 28--37.

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2026-02-23 Mon

#6146. いのほたで register を紹介しました [register][enregisterment][terminology][youtube][inohota][sociolinguistics]



 2月17日に配信された「いのほた言語学チャンネル」の回は,「#404. エンレジスタメント(enregisterment・レジスター化)とレジスターーコンビニ敬語,ファミレス敬語を社会言語学から見ると?」と題して,enregisterment という用語・概念を導入しました.
 その基本にあるのが register なのですが,動画でも議論している通り,広く便利な用語・概念である一方,論者によってニュアンスが異なるという点も見逃せません.本ブログでは,Halliday 的な観点からの「#839. register」 ([2011-08-14-1]) を紹介したことがありますが,今回は McArthur の用語辞典からこの用語の定義・解説を改めて読んでみましょう (859) .

REGISTER [1950s in this sense; 14c in origin, through French from Medieval Latin registrum a list or catalogue]. In sociolinguistics and stylistics, a variety of language defined according to social use, such as scientific, formal, religious, and journalistic. The term has, however, been used variously in different theoretical approaches, some giving it a broad definition (moving in the direction of variety in its most general sense), others narrowing it to certain aspects of language in social use (such as occupational varieties only). The term was first given broad currency by the British linguist Michael Halliday, who drew a contrast between varieties of language defined according to the characteristics f the user (dialects) and those defined according to the characteristics of the situation (registers). Registers were then subclassified into three domains: field of discourse, referring to the subject matter of the variety, such as science or advertising; mode of discourse, referring to the choice between speech and writing, and the choice of format; and manner of discourse, referring to the social relations between the participants, as shown by variations in formality. . . .


 基本的には Halliday の流れを汲んだ register の定義となっていますね.以前の記事では「1970年代以降に広まった用語と概念」と紹介しましたが,register のこの語義自体が1950年代からあったというのは初耳でした.

 ・ McArthur, Tom, ed. The Oxford Companion to the English Language. Oxford: OUP, 1992.

Referrer (Inside): [2026-02-24-1]

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2026-02-22 Sun

#6145. 2月28日(土),朝カル講座の冬期クール第2回「that --- 指示詞から多機能語への大出世」が開講されます [asacul][notice][hel_education][helkatsu][deixis][demonstrative][article][relative_pronoun][conjunction]


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 今年度は月1回,朝日カルチャーセンター新宿教室で英語史講座を開いています.シリーズタイトルは「歴史上もっとも不思議な英単語」です.日常的でありながらも深い歴史やいわくありげな背景をもっている英単語を毎回1つ選び,『英語語源辞典』(研究社)や『英語語源ハンドブック』(研究社)等の記述を参照しながら,その単語の魅力に迫り,同時に英語史のダイナミズムをも感じていただきます
 2月28日(土)の講座は冬期クールの第2回となります.今回取り上げるのは,あまりに多義・多機能で正体が何なのかが分からなくなりそうな that という単語に注目します.1音節の小さな語ですが,ある意味で英文法を背負っているかのような八面六臂の活躍.その起源と発展をたどると,この単語の理解が増し,愛着も湧いてくること間違いなしです.
 以下,that をめぐってどんな論点があるのか,ブレスト風に書き出してみます.

 ・ Is that that that that that that refers to? / That that is is that that is not is not is that it it is.
 ・ that と定冠詞 the の関係は?
 ・ 指示詞の th- と疑問詞の wh- の関係は?
 ・ 直示性の単語たち:this, these, that, those
 ・ this 単独では人を指せるけれど,that 単独だと失礼になるのはなぜ?
 ・ those who などと those 人々を指し得るのはなぜ?
 ・ I think that . . . . などの that 節はいかにして生まれたか?
 ・ ゆるい副詞節を導く that
 ・ 関係代名詞の that は,他の関係代名詞と何が異なるのか?
 ・ that の「省略」,あるいは虚辞の that について

 ほかにも論点は挙がってくるものと思われます.that のすべてを90分で語り尽くすことはできませんが,歴史をたどることで,その魅力をあぶり出したいと思います.
 講座への参加方法は,今期もオンライン参加のみとなります.リアルタイムでの受講のほか,2週間の見逃し配信サービスもあります.皆さんのご都合のよい方法でご参加いただければ幸いです.開講時間は 15:30--17:00 となっています.講座と申込みの詳細は朝カルの公式ページよりご確認ください.
 なお,冬期クールの第3回は以下の通りの予定です.春に向けて,英語史の学びを盛り上げていきましょう!

 ・ 第12回:3月28日(土) 15:30?17:00 「be --- 英語の「存在」を支える超不規則動詞」

 ・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.
 ・ 唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一(著),福田 一貴・小河 舜(校閲協力) 『英語語源ハンドブック』 研究社,2025年.

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2026-02-21 Sat

#6144. 「混種語」で大喜利をしました [word_play][hybrid][word_formation][morphology][lexicology][japanese][twitter][loan_word][borrowing][contact][notice][kochushoho][kenkyusha][kochukoneta30][hel_ogiri]

 先日ご紹介した「#6133. 日英語の「語彙の3層構造」で大喜利をしました」 ([2026-02-10-1]) に引き続き,2月8日(日)に私の X アカウント @chariderryu にて,おもしろい混種語 (hybrid) を寄せてくださいという趣旨のお題を立てて,呼びかけました.ちょうど『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』のカウントダウン企画「古中英語30連発」の No. 14 として「英語も日本語もちゃんぽん(雑種語)がお好き?」と投稿した直後のことでした.
 中英語からの例として,英・語幹 + 仏・接尾辞 = goddess (女神),仏・語幹 + 英・接尾辞 = beautiful (美しい),仏・語幹 + 英・語幹 = court house (裁判所庁舎)を挙げつつ,このような混種語で,おもしろい例が,英語にも,そしてとりわけ日本語にもたくさんあるので,皆さんに出していただこうと考えた次第です.集まってきた例は,事実上すべて日本語からの例でしたが,唸らされるようなおもしろい例をたくさん挙げてくださいました.ありがとうございます.以下,独断と偏見で傑作選を掲載します.



【 食物・料理部門 】

 ・ カレー南蛮そば
 ・ ツナおろしキムチ和風パスタ
 ・ うにいくら濃厚クリームパスタ
 ・ 生バウムケーキショコラクリーム
 ・ 生チョコトリュフ芳醇ミルクティー(ブルボン)
 ・ タンドリーチキンブルゴーニュ風パイ包み焼き

【 場所の名前部門 】

 ・ 横浜アンパンマンこどもミュージアム
 ・ 白浜エネルギーランド海ゲート駐車場

【 その他,商品名等 】

 ・ カラオケ大会
 ・ 京都サンガF.C.
 ・ キッチン収納棚
 ・ ドモホルンリンクル
 ・ サマージャンボ宝くじ
 ・ スーパーエネルギー回収
 ・ 仲良しアベック専用シート
 ・ ルスツリゾートゴンドラリフト券
 ・ 反復学習ソフト付き正規表現書き方ドリル(技術評論社)
 ・ クライネ・ソプラニーノ・リコーダー・奏者

【 英語より特別部門:「希羅希羅ネーム」(ギリシア語とラテン語の混種語) 】

 ・ pseudo-science
 ・ finalize
 ・ television
 ・ sociology

【 大喜利に参加できなかった残念な語 】

 ・ バカ旦那




 思ったよりも日常は混種語にあふれていますね.お寄せくださった皆さん,ありがとうございました.
 本記事と同じ趣旨で,2月17日の heldio にて「#1724. 日英語「混種語大喜利」 --- 皆さんからの傑作選を発表」をお届けしました.ぜひそちらもお聴きいただければ.



 ・ 市河 三喜,松浪 有 『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』 研究社,2026年.

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2026-02-20 Fri

#6143. 『古英語・中英語初歩』新装復刊の裏にはヘルメイトたちのドラマがあった [kochushoho][voicy][helwa][helmate][heldio][kenkyusha][helkatsu]



 2月16日(月)に Voicy heldio にて「#1723. 『古英語・中英語初歩』新装復刊の裏にはヘルメイトたちのドラマがあった」を配信しました.
 来たる2月25日(水)に研究社より刊行予定の『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』を,この3週間ほど私は特に強く推し続けているのですが,それにはある事情があります.Voicy プレミアムリスナー限定配信チャンネル 「英語史の輪 (helwa)」のメンバーの方々(=「ヘルメイト」)とともに,10ヶ月にわたり,ある関心を共有してきたのです.それについては上記 heldio 配信回でお話ししたのですが,この hellog のほうでも,特にタイムラインとして記録を残しておこうと思った次第です.以下,ご参照ください.



【 前史 】

 ・ 1933--34年,市河三喜が雑誌『英語青年』(研究社)にて,後の『古代中世英語初歩』の母体となる連載記事を寄稿する
 ・ 1935年,市河三喜(著)『古代中世英語初歩』が出版される
 ・ 1955年,市河三喜(著)『古代中世英語初歩』改訂新版(研究社)
 ・ 1986年,市河 三喜・松浪 有(著)『古英語・中英語初歩』(研究社)が出版される(松浪による全面改訂)
 ・ 2023年,神山孝夫(著)『市河三喜伝』(研究社)が出版される
 ・ 2023年10月19日,heldio で「#871. khelf 藤原くんによる英語史本の紹介 --- 大阪大学総合図書館の paste+ より」にて『古英語・中英語初歩』が紹介される(←この回を聴いていたしーさんが,後々まで本書のことを覚えていたという経緯あり)

【 2025年4月27日 --- 運命の1日 】

 ・ 12:56,しーさんが note にて「近所の図書館に市河三喜の『古英語・中英語初歩』と大学書林の古英語辞典が揃っているのに気づいてしまった。いま手を出すべきか出さざるべきか…」とつぶやく
 ・ 13:18,ari さんがすかさず反応し,しーさんを激励する
 ・ 14:09,堀田も続けて反応し,しーさんを激励する
 ・ その後,翌日にかけて,Grace さん,みーさん,Galois さん,川上さん,umisio さんも激励に加わる
 ・ 18:48,しーさんが本書を借りたことを認める

【 その後の経緯 】

 ・ 2025年4月28日,heldio で「#1429. 古英語・中英語を学びたくなりますよね? --- 市河三喜・松浪有(著)『古英語・中英語初歩』第2版(研究社,1986年)」を配信
 ・ 2025年5月1日,ari さんが note で「#268 【雑談】市河・松浪(1986)「古英語・中英語初歩」こと,ÞOMEB を買ってみた件!!」を公開する
 ・ 2025年5月3日,ぷりっつさんが note で「Gemini 君と古英語を読む」シリーズを開始する(5月9日まで6回完結のシリーズ)
 ・ 2025年5月5日,hellog で「#5852. 市河三喜・松浪有(著)『古英語・中英語初歩』第2版(研究社,1986年)」 ([2025-05-05-1]) が公開される
 ・ 2025年5月10日,helwa メンバーが本書を(計7冊以上)持ち寄って皐月収録会(於三田キャンパス)に臨み,証拠写真を撮影する.参加者(対面あるいはオンライン)は,ari さん,camin さん,lacolaco さん,Lilimi さん,Galois さん,小河舜さん,taku さん,ykagata さん,しーさん,みーさん,寺澤志帆さん,川上さん,泉類尚貴さん,藤原郁弥さん.
 ・ 2025年5月12日,hellog で「#5859. 「AI古英語家庭教師」の衝撃 --- ぷりっつさんの古英語独学シリーズを読んで」 ([2025-05-12-1]) が公開される
 ・ 2025年5月15日,TakGottberg さんが,上記 heldio #1429 のコメント欄にて,(1986年版の)2011年第16刷の正誤表やその他の話題に言及(本記事の末尾を参照)
 ・ 2025年5月29日,heldio で「#1460. 『古英語・中英語初歩』をめぐる雑談対談 --- 皐月収録回@三田より」が配信される
 ・ 2025年7月5日,しーさんが X のポストで本書の需要の高まりを指摘
 ・ 2025年7月5日,堀田が引用リポストで,皐月収録会にて本書7冊以上が集まった様子を報告する(@Kenkyusha_PR にもメンションしつつ)

 ・ 2025年10月5日,heldio にて「#1589. 声の書評 by khelf 藤原郁弥さん --- 神山孝夫(著)『市河三喜伝』(研究社,2023年)」が配信される
 ・ 2025年10月5日,hellog にて「#6005. khelf の新たなhel活「声の書評」が始まりました --- khelf 藤原郁弥さんが紹介する『市河三喜伝』」 ([2025-10-05-1]) が公開される
 ・ 2026年1月20日,研究社より新装復刊が公式にアナウンスされる
 ・ 2026年2月25日,刊行予定




 直近3週間ほどの本書関連hel活については,一昨日の記事「#6141. 新装復刊まであと1週間 --- 『古英語・中英語初歩』見本の「開封の儀」」 ([2026-02-18-1]) のリンク集をご参照ください.

 ・ 市河 三喜,松浪 有 『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』 研究社,2026年.

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2026-02-19 Thu

#6142. Gambay's First Languages Map --- オーストラリア先住民諸言語 [pama-nyunga][australian_aboriginal_languages][language_family][world_languages][language_death][australian_english][map]

 先日,メルボルン博物館を訪れ,オーストラリア先住民,アボリジニーの文化や言語についての展示を鑑賞してきた.
  Aborigine あるいは Aboriginal という名称はラテン語 aboriginēs などの形に基づき,それ自体は接頭辞 ab- "from" とギリシア語由来の origō "origin" からなっている.「土着の」ほどを意味し,西洋の植民者 (colonists) と区別されるべき「土着民」という位置づけであり,西洋目線の用語である.このような事情から,New South Wales の先住民言語 Awabakal 語で「人」を意味する guri に基づいた koori(e) という呼称が用いられることもある.言語学では,アボリジニーの諸言語を "Australian Aboriginal languages" と呼ぶことが多い.
 オーストラリア先住民言語の数は,博物館の展示資料によれば約500とされていたが,参考図書によっては200--300などともされる.方言と言語の区別に関わる問題や,西洋人と接触した18世紀後半以降,話者人口が激減して死語も多くなっていることなどから,正確に数えるのが難しいようだ.すべての言語を合わせても話者は5万人ほどとされ,一握りの活力のある言語を除けば,ほとんどが消滅の危機に瀕している.
 先住民諸言語を分類すると,Pama-Nyungan 語群と非 Pama-Nyungan 語群に大別される.前者はオーストラリア大陸のほぼ全土に分布しており,それに属する諸言語は,比較言語学的に互いに関係がある.とはいえ,印欧語族の比喩でいえば,英語からみてドイツ語ほどの距離の言語もあれば,ヒンディー語ほどの距離の言語もあるといった状況だ.先住民の祖先は,4--5万年ほど前に東南アジアから南下し,それ以来,独自の文化や言語を発展させてきた.Pama-Nyungan 語群は,オーストラリア大陸以外の既知の言語との関係は見いだせず,比較言語学的に孤立している.
 一方,非 Pama-Nyungan はオーストラリア北部やトレス海峡諸島で行なわれており,パプア諸語と関係があるとされる.なお,タスマニアに関しては,先住民の言語は生き残っておらず,西洋人との接触時の資料が乏しいために,どのような言語が話されていたのかは不詳である.
 オーストラリア先住民言語の分布については,Gambay's First Languages Map がよく参照されるという.近年,関連研究も進んできているようだ.

lib/linguistic_map_of_Australia_by_Gambay_small.png



 昨日,関連する内容を heldio でも話したので,そちらも参照されたい.「#1725. オーストラリア先住民アボリジニーの諸言語」

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2026-02-18 Wed

#6141. 新装復刊まであと1週間 --- 『古英語・中英語初歩』見本の「開封の儀」 [notice][kochushoho][kenkyusha][youtube][heltube][voicy][heldio][kochukoneta30][link][helkatsu]



 2月25日(水)に研究社より『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』が刊行されます.本書の1ファンとして,3週間ほど前より復刊を祝って盛り上げるべく,様々な関連企画を実施しています.ついに刊行1週間前となりました.
 先日2月13日(金),研究社のご厚意により本書のホヤホヤの出来上がり見本を,目下滞在中のメルボルンまでお送りいただきました(ありがとうございます!).興奮のあまり,すぐに「開封の儀」を収録し,翌日には YouTube や Voicy で配信しました.盛り上げコンテンツとして興奮の様子が伝わるかと思いますので,ぜひご視聴ください.

 ・ YouTube heltube 版:「特別配信 『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』開封の儀」
 ・ Voicy heldio 版:「特別配信 『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』開封の儀」
 ・ note でも関連記事を書いています:「メルボルンで「開封の儀」 --- 研究者のちょっと幸せな朝」

 この3週間で折に触れていくつかのメディアで関連コンテンツを公開してきましたが,以下にまとめておきます.とりわけ heldio での「『古英語・中英語初歩』試し読み部分の解説シリーズ」は,古い英語に初めて触れる方にお薦めです.本書を手に取る前に,ぜひお聴きいただければ.

【 hellog 】

 ・ 「#6117. 伝説的入門書『古英語・中英語初歩』が新装復刊されます!」 ([2026-01-25-1])
 ・ 「#6120. 『古英語・中英語初歩』新装復刊のカウントダウン企画「古中英語30連発」を始めています」 ([2026-01-28-1])

【 heldio 】

 ・ 「#1706. 伝説の教科書『古英語・中英語初歩』(研究社)が新装復刊
 ・ 「#1708. 『古英語・中英語初歩』新装復刊のカウントダウン企画「古中英語30連発」を始めています」
 ・ 「#1710. 『古英語・中英語初歩』試し読み部分の解説シリーズ (1) --- 古英語の母音」
 ・ 「#1713. 『古英語・中英語初歩』試し読み部分の解説シリーズ (2) --- 古英語の子音(前編)」
 ・ 「#1716. 『古英語・中英語初歩』試し読み部分の解説シリーズ (3) --- 古英語の子音(後編)」
 ・ 「#1722. 『古英語・中英語初歩』試し読み部分の解説シリーズ (4) --- 古英語の強勢」
 ・ 「#1723. 『古英語・中英語初歩』新装復刊の裏にはヘルメイトたちのドラマがあった」

【 X(旧Twitter) 】

 ・ 私の X アカウント @chariderryu より,カウントダウン企画「古中英語30連発」を展開しています.

 あと1週間,待ちきれないですね!

 ・ 市河 三喜,松浪 有 『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』 研究社,2026年.

Referrer (Inside): [2026-02-20-1]

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2026-02-17 Tue

#6140. 唐澤一友(著)『英語のルーツ』(筑摩書房〈ちくま学芸文庫〉) [review][karasawa][hel_education][indo-european][twitter][helkatsu]

Karasawa-Roots_front_cover.png



 英語史研究者の唐澤一友さんによる英語史の名著『英語のルーツ』が文庫となって帰ってきました.私も「#5830. 英語史概説書等の書誌(2025年度版)」 ([2025-04-13-1]) など,英語史関連書籍を推薦する際には,いつも定番の1冊として挙げている書籍です.
 本書は,もともと2011年に春風社より出版されており,後に増刷もされてきましたが,ある段階から在庫が切れて書店で入手することができなくなっていました.図書館で借りる,あるいは古書店で購入する,などの方法に頼らざるを得ず,推薦したくてもしにくい状況にありましたが,今回,筑摩書房の〈ちくま学芸文庫〉より復刊されるという朗報を受け,英語史界にいる者として嬉しく思います.たいへん有意義な復刊で,本ブログを定期的にお読みいただいている皆さんにお勧めしたい1冊です.
 本書は英語史の本なのですが,類書よりも「広い」意味での英語史の本と受け取ってよいかと思います.序章を除いて5章立ての本なのですが,最初の3章までは英語前史というべき「印欧祖語」や「印欧語族」の話題で占められているのです.英語史の本としては希有な構成といってよいでしょう.その点では玄人好みする本ともいえ,他の入門書を数冊読んでからトライするのがよいかとも思われますが,現代英語を意識した筆で書かれているために,おもいのほか読みやすいです.
 章立てを示すと「序章 英語発達史概観」「第1章 インド・ヨーロッパ祖語民族の言語・文化・神話」「第2章 英語の語源と印欧語比較言語学」「第3章 印欧諸語の中の英語」「第4章 古英語から現代英語まで」「第5章 文字と綴りのルーツ」となります.「狭い」意味での英語史は,第4章に凝縮されていることになります.今回刊行された文庫版には,オリジナルにはない節も書き加えられていますので,オリジナル版の既読者にも再読をお薦めします.
 著者の唐澤さんは,昨年6月に刊行された『英語語源ハンドブック』(研究社)制作チームの仲間ということもあり,共著者の小塚良孝さんと私との3人で,文庫化のお祝いを兼ねて,先日オンラインで「居酒屋KKH」を開催し,そこで heldio 対談を収録しました.2月13日に「#1720. 『英語のルーツ』文庫化記念 --- 唐澤一友さんとの対談 from 居酒屋KKH」として配信しましたので,ぜひ著者の生の声をお聴きいただければ.



 著者の唐澤さんご自身も,最近 X アカウント @KazuKarasawa で本書に関連する話題を投稿しているので,ぜひフォローしてみてください.

 ・ 唐澤 一友 『英語のルーツ』 筑摩書房〈ちくま学芸文庫〉,2026年.
 ・ 唐澤 一友 『英語のルーツ』 春風社,2011年.
 ・ 唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一(著),福田 一貴・小河 舜(校閲協力) 『英語語源ハンドブック』 研究社,2025年.

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2026-02-16 Mon

#6139. 2025年度の朝カルシリーズ講座の第10回「very --- 「本物」から大混戦の強意語へ」をマインドマップ化してみました [asacul][mindmap][notice][intensifier][adverb][semantic_change][lexicology][onomasiology][kdee][hee][etymology][french][loan_word][borrowing][hel_education][helkatsu][conversion][synonym]

 1月31日(土)に,今年度の朝日カルチャーセンターのシリーズ講座「歴史上もっとも不思議な英単語」の第10回が,冬期クールの第1回として開講されました.テーマは「very --- 「本物」から大混戦の強意語へ」でした.
 very といえば,最も日常的で無標な強意語 (intensifier) と認識されていると思います,あまりに卑近な単語なので深く考えたこともないかもしれませんが,英語史的にも様々な観点から議論できる,話題の尽きない語彙項目です.講義では,very の起源と発展をたどり,他の類義語と比較し,強意語という語類の特異な性質に迫りました.濃密な90分となったと思います.
 この朝カル講座第10回の内容を markmap によりマインドマップ化して整理しました.復習用にご参照いただければ.


asacul_most_attractive_words_in_hel_10_20260131_mindmap.png



 なお,この朝カル講座のシリーズの第1回から第9回についてもマインドマップを作成してるので,そちらもご参照ください.

 ・ 「#5857. 2025年度の朝カルシリーズ講座の第1回「she --- 語源論争の絶えない代名詞」をマインドマップ化してみました」 ([2025-05-10-1])
 ・ 「#5887. 2025年度の朝カルシリーズ講座の第2回「through --- あまりに多様な綴字をもつ語」をマインドマップ化してみました」 ([2025-06-09-1])
 ・ 「#5915. 2025年度の朝カルシリーズ講座の第3回「autumn --- 類義語に揉み続けられてきた季節語」をマインドマップ化してみました」 ([2025-07-07-1])
 ・ 「#5949. 2025年度の朝カルシリーズ講座の第4回「but --- きわめつきの多義の接続詞」をマインドマップ化してみました」 ([2025-08-10-1])
 ・ 「#5977. 2025年度の朝カルシリーズ講座の第5回「guy --- 人名からカラフルな意味変化を遂げた語」をマインドマップ化してみました」 ([2025-09-07-1])
 ・ 「#6013. 2025年度の朝カルシリーズ講座の第6回「English --- 慣れ親しんだ単語をどこまでも深掘りする」をマインドマップ化してみました」 ([2025-10-01-1])
 ・ 「#6041. 2025年度の朝カルシリーズ講座の第7回「I --- 1人称単数代名詞をめぐる物語」をマインドマップ化してみました」 ([2025-11-10-1])
 ・ 「#6076. 2025年度の朝カルシリーズ講座の第8回「take --- ヴァイキングがもたらした超基本語」をマインドマップ化してみました」 ([2025-12-15-1])
 ・ 「#6076. 2025年度の朝カルシリーズ講座の第8回「take --- ヴァイキングがもたらした超基本語」をマインドマップ化してみました」 ([2025-12-15-1])
 ・ 「#6098. 2025年度の朝カルシリーズ講座の第9回「one --- 単なる数から様々な用法へ広がった語」をマインドマップ化してみました」 ([2026-01-06-1])

 次回の第11回は2月28日(土)で,主題は「that --- 指示詞から多機能語への大出世」となります.開講形式は引き続きオンラインのみで,開講時間は 15:30--17:00 です.ご関心のある方は,ぜひ朝日カルチャーセンター新宿教室の公式HPより詳細をご確認の上,お申し込みいただければ幸いです.

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2026-02-15 Sun

#6138. Rome の母音の歴史的変化 [latin][french][italian][pronunciation][vowel][mond]

 「#6128. 1月の mond で10件の問いに回答しました」 ([2026-02-05-1]) のリストで触れたが,先月,知識共有プラットフォーム mond にて次の質問をいただいた.

英語の Rome の o は二重母音 [ou] を持っていますが,古英語の長母音oは現代語で [u:] になるはずなので,この語は古英語からロームと発音されたのではない,中英語以降の再度の借用語なのでしょうか?

 回答をお読みいただければ分かるとおり,なかなか込み入った事情がある.この回答を作成するために周辺を調べ,メモを残しておいたので,それをこちらに残しておきたい.
 まず,現代の Rome の発音は /rəʊm || roʊm/ だが,LPD3 では "Formerly also /ruːm/" とあった.また,OED によると,次のようにあった.

This pronunciation [= /ruːm/] survived in regional speech into the 20th cent. (compare quots. 1873, 1909 at sense 2a; Sc. National Dict. (at Room) records the pronunciation /rum/ as still in use in Banffshire in 1968). It shows the regular reflex of Middle English long close ō, in turn reflecting Old English ō. By contrast, the modern standard pronunciation was influenced by the pronunciation of the Latin and Italian forms of the place name.


 さて,現代ではほぼ聞かれない /ruːm/ は,いつから用いられていたのだろうか.Walker の辞書の1827年版では,この語の発音を /ruːm/ として示しつつ,次の記述を与えている.

The o in this word is irrevocably fixed in the English sound of that letter in move, prove, &c. Pope, indeed, rhymes it with dome,
"Thus when we view some well-proprition'd dome,
"The word's just wonder, and ev'n thine, O Rome!"
But, as Mr. Nares observes, it is most probable that he pronounced this word as if written doom, as he rhymes Rome with doom afterwards in the same poem.
"From the same foes at last both felt their doom;
"And the same age saw learning fall and Rome."
                              Essay on Criticism, v. 685.
The truth is, nothing certain can be concluded from the rhyming of poets. It may serve to confirm an established usage, but can never direct us where usage is various and uncertain. But the pun which Shakespeare puts into the mouth of Cassius in Julius Cæsar decidedly shows what was the pronunciation of this word in his time:
  "Now it is Rome, indeed, and rom enough,
  "When there is in it but one only man."
And the Grammar in Queen Anne's time, recommended by Steele, says the city Rome is pronounced like Room; and Dr. Jones, in his Spelling Dictionary, 1704, gives it the same sound.


 一方,Dobson の示している証拠と,それに基づく解釈は精妙だ (Vol. 2, §154) .

A special case of this variation is Rome, from OE Rōm reinforced by OF Rome. In this word [u:] is normal in the sixteenth and seventeenth centuries, as in Bullokar, Robinson (see further below), Willis, Price (contrast his 'homophone' list; see below), Poole, Lye (following Price), WSC-RS, Brown's 'phonetically spelt' list, and the 'homophone' lists from Butler's onwards, including those of Hodges, Coles's Schoolmaster, and Cooper (which are the best), but with two exceptions (see below). The word has [o:] only in Hart, Price's 'homophone' list (paired with roam; contrast his text, which gives [u:]), and Coles's least selective list, that of the Engl.-Lati. Dict. Cooper in 'editing' the material of earlier 'homophone' lists removes the pairing of Rome with roam to a list of words which are pronounced 'differently' (and not even 'near alike'). Robinson, though he gives [u:] in transcribing Rome in an English text, gives [o:] in Romam in his Latin poem; this important evidence shows that the usual view, that the [o] pronunciation (whence PresE [ou]) in Rome is due to French or Italian influence, is inexact; it is more immediately derived from the English pronunciation of Latin, in which [o] in Roma may show ME substitution of ǭ for ō even in the neighbourhood of a labial, but is more likely to be due to the 'reformed pronunciation', which was based to some extent on foreign models.


 mond の回答でも述べたとおり,Dobson のいう 'reformed pronunciation' (改良発音)が何を指すのかは私には分からないので,この説を適切に評価することができない.ただ,著名な都市名をめぐる発音の問題について,このように熱い議論が交わされていることは知ることができた.

 ・ Wells, J C. ed. Longman Pronunciation Dictionary. 3rd ed. Harlow: Pearson Education, 2008.
 ・ Walker, John. Critical Pronouncing Dictionary and Expositor of the English Language. London: 1827.
 ・ Dobson, E. J. English Pronunciation 1500--1700. 2nd ed. 2 vols. Oxford: OUP, 1968.

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2026-02-14 Sat

#6137. 古英語の sc の口蓋化・歯擦化 (3) [metathesis][oe][palatalisation][sound_change][phonetics][consonant][digraph][dutch][german]

 古英語で sc で表わされる音は典型的には /ʃ/ とされる.前段階の /sk/ が口蓋化 (palatalisation) と歯擦音化を起こしたものと説明されるのが一般的である.しかし,単語によってはこの音変化を経ず,/sk/ にとどまっているものもあれば,両音のあいだで揺れを示すものもある./sk/ にとどまったものは,音位転換 (metathesis) により /ks/ を示すものもあり,単語によっては複雑な異形態を示すことになる.これらの問題について,以下の記事を中心に議論してきた.

 ・ 「#60. 音位転換 ( metathesis )」 ([2009-06-27-1])
 ・ 「#1511. 古英語期の sc の口蓋化・歯擦化」 ([2013-06-16-1])
 ・ 「#5626. 古英語の sc の口蓋化・歯擦化 (2)」 ([2024-09-21-1])

 今回は,この問題について Lass (58--59) の知見を新たに加えてみたい.

   A different sort of palatalization contributes further to the new series: a change of */sk/ > /ʃ/. The mechanics are not clear, but one reasonable suggestion would be something like [sk] > [sc] > [sç], with a later 'compromise' articulation /ʃ/ emerging from the back-to-back alveolar and palatal. Or, the [k] may have weakened first to [x], as in modern Dutch, without palatalizing; in this case we could see at least three of the stages mirrored in modern Germanic, in the verbs meaning 'to write': Swedish skriva /skri:va/ representing the original, Dutch schrijven /sxrɛivə(n)/ a further development, and German schreiben /ʃraebən/ the final stage (cf. English shrive).
   The reason for this palatalization is obscure; it occurs in both front and back environments, and before consonants, so it is not obviously assimilatory like the ones discussed above. The OE spelling <sh> for instance appears to represent /ʃ/ not only in scīnan 'shine' (cf. OIc skína), sc(i)eran 'shear' (OIc skera), but also in scofl 'shovel' (OSw skofl), scanca 'shank' (Dutch skank), scūr 'shower' (Go skūra).
   There is however occasional failure in back environments, as shown by the spelling <x> = /ks/, which is due to metathesis (/sk/ > /ks/), in places where <sc> would be expected. This must have occurred while the cluster was still /sk/. Palatalized and nonpalatalized variants of one lexeme may even occur in the same text: the poem Andreas has for 'fish' (Go fisks) both gen sg fisces and dat pl fixum. Failures of palatalization (or dialectal variants: see below) also lead to doublets in later periods, even including ModE: hence ask (OE āscian, ācsian), now frequently with the nonstandard doublet ax (which was the norm in many pre-modern standard varieties). Another example is tusk (OE tūsc, pl tūscas, tūcas), where the nonpalatalized form has come down in most standard varieties, but there are so many dialects with tush.


 音位転換形という間接的証拠により,口蓋化が起こっていない形態があることを推定できるというのがおもしろい.異形態 (variants) は,多くの文献学的問題について貴重な資料である.

 ・ Lass, Roger. Old English: A Historical Linguistic Companion. Cambridge: CUP, 1994.

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2026-02-13 Fri

#6136. 2022年秋の特別展示「Homo loquens 『しゃべるヒト』ことばの不思議を科学する」のウェブ版が公開 [notice][linguistics][historical_linguistics][world_englishes][variety]

homo_loquens_website.png



 2022年の秋に大阪で開催された「コトバの祭典」というべき大規模な展示を覚えていますでしょうか? 私自身もちらっとだけ展示協力の形で関わらせていただいた国立民族学博物館(民博)の特別展「Homō loquēns 『しゃべるヒト』 --- ことばの不思議を科学する」です.本ブログでも,「#4876. 国立民族学博物館で言葉の特別展が始まっています!」 ([2022-09-02-1]) および 「#4955. 国立民族学博物館の特別展「しゃべるヒト」の開催は11月23日(水)までです」 ([2022-11-20-1]) で取り上げたことがありました.
 当時,民博に訪問できなかった方,あるいは展示の興奮をもう一度味わいたいという方に朗報です.この度,同特別展示のウェブ版が公開されました.以下よりアクセスしてみてください.

 ・ 「Homō loquēns 『しゃべるヒト』 --- ことばの不思議を科学する」ウェブサイト

 ウェブ版では,実際の展示室で紹介されていたコンテンツが,デジタルアーカイブの形で再構成されています.「コトバで伝わるしくみ」「コトバを操る身体のしくみ」「コトバを身につけるしくみ」「コトバの多様性」「コトバとヒトの関係の多様性」「コトバの研究の多様性」といった多岐にわたるテーマが網羅されており,いながらにして言語学の最前線に触れることができます.
 さて,私自身がこのプロジェクトにおいて展示協力として関わらせていただいたのは,「言語の分岐」に関するセクションでした.「英語の300年間」と題する図で,近代における英語の世界的な拡大と,それに伴う多様化(分岐)が示されています.

 ・ 「言語の分岐 英語の300年間」

 ここではイギリス諸島で話されていた英語の諸変種がベースとなって,そこからアメリカ,アジア,アフリカ,オセアニアへ拡散していき,新たな変種が派生していく様子が模式的に描かれています.言語が地理的に離れ,時間の経過とともに独自の進化を遂げていく様子は,言語のダイナミズムを感じさせます.英語史という時間軸の視点と,英語方言学という空間軸の視点が交差する様を味わうことができると思います.
 こちらのウェブサイトは,未完成の部分もありますが,今後順次公開されていくことになるとのことです.特別展での展示パネルのテキストや図表がこのように公開されることで,一過性のイベントで終わることなく,言語学や英語史の学習リソースとして永続的に活用できるようになったことは,とても有意義なことです.
 民博の展示室で圧倒されたあの日から数年が経ちましたが,こうしてウェブ版として再会してみると,改めてコトバという存在の奥深さに気づかされます.ぜひ皆さんも,このデジタル特別展に訪れてみてください.
 なお,当時,特別展を楽しんだ私の感想は,heldio 配信回としても記録されています.ご関心のある方は,「#536. 民博特別展「しゃべるヒト」に訪問中」をお聴きいただければ.

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2026-02-12 Thu

#6135. 「いのほた言語学チャンネル」で「スペリング=漢字」説をお話しました [inohota][inoueippei][notice][youtube][spelling][kanji][grammatology][mond]



 2月9日(月)に「いのほた言語学チャンネル」の最新回が公開されました.「#403. 英語話者は単語を聞いてスペリングがわからないときはどうする?」と題して,「スペリング=漢字」説をご紹介しました.
 この説を紹介することになったきっかけは,昨年末の12月28日に回答した質問・応答サービス mond でのとある問答が X(旧Twitter)で大きな反響を呼び,365万インプレッションという驚異的な注目を集めたことにあります.質問は「日本語では漢字がわからなければ仮名で書けるが,英語では正しい綴りを知らない場合,ネイティブはどうしているのか?」というものでした.文字論の観点からも,きわめておもしろいお題でした.
 私はかねてより,英語のスペリングは,その機能において漢字に近いという「スペリング=漢字」説を唱えています.英語のアルファベット文字は,表音文字であり,とりわけ1文字1音を原則とする単音文字とされますが,それが1文字以上組み合わさったスペリングという単位になると表語文字の機能を帯び始めます.例えば,doubt のスペリングは確かに単音文字の組み合わせでできていますが,b のように何の音にも対応しない文字が含まれています.doubt というスペリング全体で考えると,それは1つの視覚的な「図像」であり,その図像が「疑」を意味する英単語を表わしています.つまり,スペリング全体として表語文字的な機能を帯びているのです.
 日本語で「疑」という漢字をパーツに分解せずパターンの塊として認識するように,英語話者も doubt という5文字の並びを1つの視覚的単位として認識している.つまり,中身を顕微鏡で見ればアルファベットという表音文字の組み合わせですが,スペリングという単位になると,機能的には「漢字モード」として運用されているといってよいのです.
 では,質問にあったように,綴字がわからないときはどうするのか.ここで英語における「仮名モード」が登場します.それがフォニックスや,とりあえず音を写し取る暫定的なスペリングです.英語にも「漢字モード」と「仮名モード」という2つのモードの切り替えが存在するというのが,私の見立てです.
 動画内では,この文字論的なお話に加え,スペリングの間違いが社会的な規範のプレッシャーを強く受けるという点でも,漢字とスペリングが似ているという側面について井上逸兵さんと議論しています.ぜひご視聴ください.
 「スペリング=漢字」説については,heldio でも以下の配信回でお話していますので,ぜひ合わせてお聴きいただければ.

 ・ 「#606. 英語のスペリングは漢字である」(2023年1月27日)
 ・ 「#1689. 「スペリング=漢字」説を解説します --- 規範主義の観点から」(2026年1月12日配信)
 ・ 「#1688. 「スペリング=漢字」説を解説します --- 機能的観点から」(2026年1月13日配信)

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2026-02-11 Wed

#6134. 朝日新聞紙上での「いのほた」朝カル講座の紹介 --- 「AI 時代と言葉の未来」 [inohota][inohotanaze][asacul][notice][inoueippei][ai][sociolinguistics][historical_linguistics][linguistics]

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 本日2月11日の朝日新聞紙上にて,来たる2月21日(土)に開催される朝日カルチャーセンター新宿教室での特別対談講座「AI 時代にこそ必要な「言語学的思考」とは」が紹介されました.先日の記事 「#6113. 朝カルで井上逸兵さんと「AI時代にこそ必要な「言語学的思考」とは」 --- 「いのほたなぜ」出版記念」 ([2026-01-21-1]) でも告知しましたが,新聞という媒体を通じて改めて多くの方にこの特別対談講座のお知らせが届くことを嬉しく思います.
 新聞では,次のように紹介されています.

「AI時代」こそ言語学必要
 生成AIで言葉の壁が薄れる今,なぜ言語学や語学を学び続ける必要があるのでしょうか?井上逸兵・堀田隆一著「言語学でスッキリ解決! 英語の『なぜ?』」(ナツメ社)=写真=の出版記念講座です.慶應義塾大教授・井上逸兵さん,堀田隆一さんが語り合う「AI時代にこそ必要な『言語学的思考』とは」は21日(土)後6時30分.会員は4235円.教室・オンライン自由講座.(新宿教室)


 今回の講座は,昨年10月に刊行した井上逸兵さんとの共著 『言語学でスッキリ解決!英語の「なぜ?」』の出版記念という位置づけです.しかし,単なる本の解説にとどまるつもりはありません.むしろ,本書の根底にある著者2人の言葉への視点を,現代の喫緊の課題である生成AIとの関わりにおいてアップデートする試みとなります.
 現在,私たちは生成AIの驚異的な進化を目の当たりにしています.翻訳の精度は上がり,もっともらしい文章が瞬時に生成されるようになりました.一見すると,言語の壁は技術によって克服されつつあるかのように思えます.しかし,ここで私たちは立ち止まって考える必要があります.AIがもっともらしい文字列を出力するとき,そこには人間が言葉を紡ぐときに不可欠な意味や文脈,あるいは相手への配慮といった社会的な営みが存在しているのでしょうか.
 井上さんの専門である社会言語学は,言語が社会の中でどのように機能し,人間関係を構築するかを明らかにします.一方,私の専門である英語史や歴史言語学は,言語が時間の流れの中でどのように変容し,現代の姿に至ったのかという通時的な視点を提供します.この2つの視点を交差させながら,AI時代における人間の言葉とは何なのか,という本質的な問いへのヒントが見えてくるはずです.
 今回の対談では,AI が生成するテキストが世界を埋め尽くすなかで,私たちの言語感覚がどのように変容し得るのか,そして言語学を学ぶことがいかにして人間らしさを再発見する手助けとなるのかについて,熱く,かつ楽しく議論を展開したいと思います.
 言語学的思考は,単なる知識の蓄積ではありません.当たり前だと思っている言葉の裏側にある仕組みや歴史を意識し,批判的に,かつ深く理解するための眼差しのことです.この眼差しもつことで,AI に振り回されるのではなく,AI を使いこなしつつ,より豊かなコミュニケーションを営むことが可能になると考えています.
 講座は2月21日(土)の18:30からです.井上さんは新宿の教室で,私はオンラインで登壇いたします.遠方の方も Zoom でご参加いただけますし,2週間の見逃し配信サービスもあります..詳細はこちらの申し込みページをご覧ください.
 AI時代の言葉の未来について,皆さんと一緒に考えていきたいと思っています.

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 ・ 井上 逸兵・堀田 隆一 『言語学でスッキリ解決!英語の「なぜ?」』 ナツメ社,2025年.

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2026-02-10 Tue

#6133. 日英語の「語彙の3層構造」で大喜利をしました [word_play][lexical_stratification][lexicology][japanese][twitter][loan_word][old_english][middle_english][french][latin][synonym][heldio][notice][kochushoho][kenkyusha][kochukoneta30][hel_ogiri]



 先日2月6日(金)の正午より,Voicy heldio にて「【生配信】日英語「語彙の3層構造」大喜利!皆さんからの傑作選を発表」をお届けしました.
 目下,2月25日に研究社より刊行予定の『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』を盛り上げるべく,私の X アカウント @chariderryu より,カウントダウン企画「古中英語30連発」を展開しています.その No. 11 として「英語の語彙は「3階建て」の構造」を紹介したところ,多くの反響をいただきました.
 英語の「英・仏・羅」の3層構造は,日本語の「和語・漢語・外来語」に緩く対応します.そこで,X より呼びかけて,日本語でも英語でも「きれいな3層構造」の例をお寄せくださいと募ったところ,言語センスの光る傑作が続々と寄せられました.その傑作選を声で読み上げたのが,上記の配信回です.私が独断と偏見でおもしろいと思った例(金賞・銀賞・特別賞あり)を取り上げさせていただきましたが,それを hellog にも記録として残しておきたいと思います.日本語の3層構造の事例が中心となりましたが,英語についてもいくつかお寄せいただきました.

【 概念・抽象語部門 】

 ・ ぐちゃぐちゃ・混乱・カオス
 ・ おそれ・恐怖・パニック
 ・ こい(したう)・恋愛/愛情・ラブ

【 日常生活・道具部門 】

 ・ 音入れ・録音機・レコーダー(金賞:TAKAHASHI さん)
 ・ かぎ・錠・キー
 ・ こしかけ・椅子・チェアー
 ・ かなづち・鉄槌・ハンマー
 ・ おたより・郵便・メール
 ・ まなびや・教室・クラスルーム
 ・ つれあい・配偶者・パートナ

【 身体・自然部門 】

 ・ からだ・身体・ボディー
 ・ あたま・頭部・ヘッド
 ・ 天の川・銀河・ギャラクシー
 ・ すばる・昴星・プレアデス
 ・ たから・宝物・トレジャー(銀賞:mozhi gengo さん)

【 動詞部門 】

 ・ 見張る・監視する・モニタリングする(モーラ数の配置が美しい例)
 ・ 車に乗る・運転する・ドライブする
 ・ 繰り返す・復唱する・リピートする
 ・ 打ち込む・入力する・タイプする

【 特異な三層(あるいはそれ以上)部門 】

 ・ パクチー・香菜(こうさい)・シャンツァイ・コリアンダー・コエンドロ(特別賞:川上さん)
 ・ 盲腸・虫垂炎・アッペ(俗称・学術語・ジャーゴンの重なり)

【 英語の3層構造 】

 ・ hurly-burly - confusion - chaos
 ・ fear - terror - panic/phobia
 ・ love - affection - eros/philia
 ・ grasp - seize - capture
 ・ hallow - deify - consecrate
 ・ say - mention - refer
 ・ teacher - tutor - evangelist
 ・ old - ancient - senior
 ・ wonderful - surprising - terrific
 ・ bright - sparkling - splendid
 ・ great - excellent - superb

 いかがでしょうか.「きれいな例」を探すのは意外と難しいものです.単なる言い換えではなく,下層から上層へ向かうにつれて「日常」から「公的」,そして「専門的」あるいは「モダン」へと語感が変わっていくグラデーションが感じられるかどうかがポイントになります.モーラ数・音節数の違いなども意識するとおもしろいですね.
 英語史の観点からいえば,このような語彙の層の厚みは,その言語が歩んできた歴史の厚みそのものでもあります.かつて古英語期には1階建てだった語彙の家が,中英語期にフランス語という2階部分が増築され,さらに近代英語期にかけてはラテン語(やギリシア語)の3階が積み上がってきました.
 拙著『英語の「なぜ?」に答えるはじめての英語史』の第5章でも詳しく解説していますが,中英語期はまさに1階と2階が混ざり合っていくダイナミズムを観察できる時代です.近刊書『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』を通して,ぜひその歴史の現場を追体験してみてください.

 ・ 堀田 隆一 『英語の「なぜ?」に答えるはじめての英語史』 研究社,2016年.
 ・ 市河 三喜,松浪 有 『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』 研究社,2026年.

Referrer (Inside): [2026-02-21-1]

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2026-02-09 Mon

#6132. sorami さんの『英語語源ハンドブック』クイズ第2弾 --- 中高生のための英語史 [note][hee][helkatsu][hel_education][quiz][helwa][doublet][political_correctness]


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 先週の月曜日の「#6125. heldio/helwa リスナー sorami さんによる『英語語源ハンドブック』のクイズ・シリーズが開始 --- 中高生のための英語史」 ([2026-02-02-1]) に引き続き、嬉しいお知らせです.sorami さんが、『英語語源ハンドブック』(研究社)をベースにした note 記事の第2弾を公開されました.「授業で使える!中学生向け英語語源クイズ#2」です.
 今回もラインナップが充実しています.祈願文 God be with ye! から生まれた挨拶表現や,history と対をなす2重語 (doublet) の話題など,英語史の定番であり,かつ学習者の「なぜ?」に直球で応える良質な問題が揃っています.
 「青りんご」問題も,色彩の文化差を考えさせる良問ですね.現代的な話題への目配りも欠かしません.SNS でおなじみの lol や,ポリティカル・コレクトネス (political_correctness) の文脈で語られる職業名の問題など,英語という生きた言語の背後にある歴史的・社会的変化を自然に学べるクイズのラインナップになっています.
 sorami さんは,今回も記事の結びで,「授業の小ネタ,ウォームアップなどに自由に使っていただければ幸いです」と述べられています.全国の英語教員の皆さん,ぜひこの宝の山を活用してみてください.授業の冒頭で例えば God be with ye! の小ネタを添えるだけで,生徒たちの単語に対する眼差しも変わるのではないでしょうか.
 「英語史をお茶の間に」ならぬ「英語史を教室に」.こうした活動を通じて,英語史的な視点が広がっていくことを願っています.sorami さん,第3弾も期待しております!

 ・ 唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一(著),福田 一貴・小河 舜(校閲協力) 『英語語源ハンドブック』 研究社,2025年.

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2026-02-08 Sun

#6131. kangaroo の語源 --- 酒場語源の裏話 [etymology][loan_word][language_myth][folk_etymology][oed][australian_english]

 kangaroo の語源については「#3048. kangaroo の語源」 ([2017-08-31-1]) で取り上げた.1770年の Captain Cook のオーストラリア到達の際に,原住民から返された "I don't know" に相当する表現に基づくものという説が流布してきた経緯がある.今では,この説は酒場語源(解釈語源,民間語源)と考えられている.
 American Heritage Dictionary の Notes より,kangaroo の項より引用する.

Word History: A widely held belief has it that the word kangaroo comes from an Australian Aboriginal word meaning "I don't know." This is in fact untrue. The word was first recorded in 1770 by Captain James Cook, when he landed to make repairs along the northeast coast of Australia. In 1820, one Captain Phillip K. King recorded a different word for the animal, written "mee-nuah." As a result, it was assumed that Captain Cook had been mistaken, and the myth grew up that what he had heard was a word meaning "I don't know" (presumably as the answer to a question in English that had not been understood). Recent linguistic fieldwork, however, has confirmed the existence of a word gangurru in the northeast Aboriginal language of Guugu Yimidhirr, referring to a species of kangaroo. What Captain King heard may have been their word minha, meaning "edible animal."


 OEDkangaroo (n.) の Notes も読んでみよう.

Cook and Banks believed it to be the name given to the animal by the Aboriginal people at Endeavour River, Queensland, and there is later affirmation of its use elsewhere. On the other hand, there are express statements to the contrary (see quots. below), showing that the word, if ever current in this sense, was merely local, or had become obsolete. The common assertion that it really means 'I don't understand' (the supposed reply of the local to his questioner) seems to be of recent origin and lacks confirmation. (See Morris Austral English at cited word.)

   1770 The animals which I have before mentioned, called by the Natives Kangooroo or Kanguru. (J. Cook, Journal 4 August (1893) 224)
   1770 The largest [quadruped] was calld by the natives Kangooroo. (J. Banks, Journal 26 August (1962) vol. II. 116)
   1777 The Kangooroo which is found farther northward in New Holland as described in Captn Cooks Voyage without doubt also inhabits here. (W. Anderson, Journal 30 January in J. Cook, Journals (1967) vol. III. ii. 792)
   1793 The animal..called the kangaroo (but by the natives patagorong) we found in great numbers. (J. Hunter, Historical Journal 54)
   1793 The large, or grey kanguroo, to which the natives [of Port Jackson] give the name of Pat-ag-a-ran. Note, Kanguroo was a name unknown to them for any animal, until we introduced it.
   . . . .


 OED の上記引用でも要参照とされている Austral English については「#6110. Edward Ellis Morris --- オーストラリア英語辞書の父」 ([2026-01-18-1]) で触れたが,そこでも kangaroo の語源については詳しい考察と解説がなされている.I don't know 説については "This is quite possible, but at least some proof is needed . . . ." と述べられていることのみ触れておこう.

 ・ Morris, Edward Ellis, ed. Austral English: A Dictionary of Australasian Words, Phrases and Usages. London: Macmillan, 1898.

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2026-02-07 Sat

#6130. 古英語 butan の逆接の等位接続詞の用法はあったか? [but][conjunction][coordinator][subordinator][reanalysis]

 「しかし」の意味で逆接の等位接続詞として日常的に用いられる but は,古英語の接続詞 butan に遡る.しかし,古英語の butan は基本的には "except" に相当する従属接続詞として用いられるのが普通だった.A butan B のような文において,文脈によっては "A except B" のみならず "A but B" のようにも解釈できるケースがあったために,再分析 (reanalysis) により現代に連なる逆接の等位接続詞の用法が生じたのだとされる.
 OED によると,古英語での逆接の等位接続詞としての用法は稀だとしつつも,一応は存在を認めている.

III. In a compound sentence, connecting the two coordinate clauses; or introducing an independent sentence connected in sense, though not in form, with the preceding sentence.
   In a compound sentence the second clause may be contracted so as to omit constituents also occurring in the main clause, e.g. Thou hast not lied unto men, but unto God = 'Thou hast not lied unto men, but thou hast lied unto God'; John couldn't come to see me, but Mary could = 'John couldn't come to see me, but Mary could come to see me'.
   Rare in Old English; attestations are often interpreted as transitional from uses in sense C.II.7 (see further B. Mitchell Old Eng. Syntax (1985) §). In Old English coordinate clauses are usually connected by ac ac conj.


 参照されている Mitchell の OES (§3500) を訪れてみると,次のようにある.

§3500. Quirk (pp. 62--3) discusses a number of examples in which butan 'was not autonomously concessive but occasionally concessive-equivalent, combining its exception function with a concessive one'.
They include Bo 40. 8 . . . ne ic ealles forswiðe ne girnde þisses eorðlican rices, buton tola ic wilnode þeah . . . and (after a form of nytan) Bo 70. 26 ic nat humeta, buton we witon ꝥ hit unmennischlic dæd wæs and (Holthausen's 1894 text)

Pha 4 Nat ic hit be whihte, butan ic wene þus,
          þæt þær screoda wære gescyred rime
          siex hundred godra searohæbbendra,

for which J. R. R. Tolkien was wont to offer the translation 'I don't really know, but I rather guess . . .'. On such examples, see further §§3626 and 1773.


 従属接続詞 except と等位接続詞 but のいずれとも解釈し得る例があるために,"transitional" や "concessive-equivalent" という表現が用いられているのだろう.

 ・ Mitchell, Bruce. Old English Syntax. 2 vols. New York: OUP, 1985.

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2026-02-06 Fri

#6129. language の <u> と /w/ [spelling][etymological_spelling][spelling_pronunciation][emode][orthography][mond]


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 昨日の記事「#6128. 1月の mond で10件の問いに回答しました」 ([2026-02-05-1]) で触れた通り,先月の mond ではが綴字と発音の乖離 (spelling_pronunciation_gap) に関する話題が多く取り上げられた.そのなかに「language の gu は [gw] と発音されますが,フランス語は gu は後代のラテン語の借用語を除いて [g] です.これは often オフトンと同じタイプの綴り字発音ということですか?」という問いがあった.
 この質問に対して1月27日に回答を投稿したのだが,回答準備のためにいくつか調べたことがあるので,ここに掲載しておきたい.まず MED の当該語の見出しを確認しておこう.

langāǧe (n.) Also langag, langaige, longage, language, languege, langwache, (errors) lanquage, langegage.


 早くから異綴字として <u> や <w> を含むものもあったようだ.
 次に OED の Notes の記述より.

Both in Anglo-Norman (where they are much more frequent than in continental French) and in English, spellings with insertion of u or w after g are due to the influence of classical Latin lingua, as is the standard pronunciation of the English word. In Middle English the word was usually pronounced without /w/ ; the 16th-cent. orthoepists Hart and Bullokar still record this pronunciation as the usual one, and it survives in Scots and Irish English, as shown e.g. by the spellings langidge, langige. See further E. J. Dobson Eng. Pronunc. 1500--1700 (ed. 2, 1968) vol. II. §421 note 7.


 ここで言及されている Dobson (Vol. 2, §421, n. 7) に当たってみると,次のようにある.

Note 7: Language, being an adoption of OF langage, normally lacks [w] in ME; so Hart and Bullokar (normally). But it is early affected, in spelling and pronunciation, by Latin lingua (cf. the fourteenth-century spelling langwag recorded by OED); hence [gw] in Bullokar (as a rarer variant), Mulcaster, Gil (who actually gives u), Butler, Hodges, The English Schole-master, Strong, Young, Cooper, and Brown. Similarly banquet (OF banc + et) should have [k], as in Levins, Laneham, Hodges, Strong, and Young; but Coles gives the 'phonetic' spelling bang-quet (contrast blang-ket 'blanket'), which shows the beginning of the PresE spelling-pronunciation. Cooper says that the word is spelt either banquet or banket.


 ここでは language の類例として banquet が挙げられている.mond の回答では banquet には触れなかったが,そちらの語も歴史的な振る舞いを調べてみると興味深そうだ.

 ・ Dobson, E. J. English Pronunciation 1500--1700. 2nd ed. 2 vols. Oxford: OUP, 1968.

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2026-02-05 Thu

#6128. 1月の mond で10件の問いに回答しました [mond][sobokunagimon][notice][spelling_pronunciation_gap][ai][corpus_linguistics]


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 先月,2026年1月は,知識共有プラットフォーム mond に寄せられてきた10の問いに回答しました.
 綴字と発音の乖離 (spelling_pronunciation_gap) に関する話題が5問あり,この分野への関心の高さが窺われます.そのほか,構文の意味や歴史の話題,比較言語学的な問いなど,エキサイティングなトピックが並びました.
 とりわけ反響が大きかったのは,7番目のAI時代におけるコーパス言語学の意義に関する問答です.タイムリーな論点でもあり,私としても英語史研究者・歴史言語学者の立場から,この問いに真剣に向き合ってみた次第です.専門内外の方々から多くの反応をいただき,たいへん嬉しく思います.
 鋭い質問をお寄せいただいた皆さん,ありがとうございました.以下に時間順に10の問いと,対応する mond の問答へのリンクを張ります.ぜひ未読の問答がありましたら,お読みいただければ.また,mond で回答した話題について,本ブログで補足したり掘り下げる機会もよくありますので,mond タグより訪れてみてください.

1. would you be kind enough to 不定詞 「あなたは to 不定詞するのに十分なほど親切である可能性が万が一ながらあるでしょうか?」は,相手にお前は親切かと尋ねている時点でかなり不遜な表現だと思うのですが,それは質問者が日本人だからでしょうか?

2. gaol ジェイルの変則的なつづりの由来について教えてください.この ao の o は何ですか?

3. climb や bomb など,語末に黙字を持つ場合,ing, er など(動詞の場合)や er, est など(形容詞の場合)を付してもなお読まないままのはどうしてなのでしょうか.

4. 古風な英語では船を she で受けるそうですが、これは古英語の scip (中性名詞)とは関係ない、比較的最近の慣習であると先生のブログで拝見しました。ところでラテン語では女性名詞 navis,ギリシア語でも女性名詞 ναυς です.このような古典語からの影響の可能性はどれほどあるのでしょうか?

5. salmon はつづりに l があるのに l を発音しないことからして,16--17世紀あたりのつづりと発音の混乱が影響している臭いがします.salmon の発音と表記の歴史について教えてください。

6. 英語の Rome の o は二重母音 [ou] を持っていますが,古英語の長母音oは現代語で [u:] になるはずなので,この語は古英語からロームと発音されたのではない,中英語以降の再度の借用語なのでしょうか?

7. 今後特定のジャンルごとにその様式にそった文を出力するAIが発達し,多くの人がそれを利用するようになり,文を人間が作るのでなくAIの作った文を追認するようになった時代において,言語学の一分野であるコーパス言語学というものは学問としての意味をなしうるでしょうか?

8. language の gu は [gw] と発音されますが,フランス語は gu は後代のラテン語の借用語を除いて [g] です.これは often オフトンと同じタイプの綴り字発音ということですか?

9. as ... as 構文の歴史について教えてください.

10. 英語とドイツ語は同じゲルマン系統の言葉なのに,英語には単語別の性別が無いのはどうしてですか?

 mond での質問受付についてお知らせがあります.先日の hellog 記事「#6105. mond での質問受付方式を変更します --- スーパーレター(優先パス)の導入」 ([2026-01-13-1]) でお伝えした通り,mond の「スーパーレター」(有料質問)機能を「回答の優先パス」として位置づけることにしています.数ある質問の中から,スーパーレターとしていただいたものを優先的に検討させていただきます(確約ではありませんが,回答の可能性は格段に高まります).もちろん,従来の無料での質問も引き続き歓迎いたしますので,ぜひ鋭い質問をお寄せください.

Referrer (Inside): [2026-02-15-1] [2026-02-06-1]

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2026-02-04 Wed

#6127. God buy you --- goodbye の語源に関する異説 [sobokunagimon][interjection][subjunctive][optative][etymology][abbreviation][folk_etymology]

 昨日の記事「#6126. goodbye の最後の e は何?」 ([2026-02-03-1]) に引き続き,goodbye に関する話題.goodbye の起源は,God be with you という祈願文が挨拶表現として高頻度で使われるうちに短縮してしまったものとされる.OED によると,語源欄に次のように記述がある.

Probably shortened partly < God be with you, and partly < God be with ye (see god n. & int. Phrases P.1c.i.ii, and the note below), with substitution of good adj. for god n. as the first element, probably by association with other greeting formulae, e.g. good day n., good day int., goodnight n., goodnight int.


 記述を読み進めていくと,16世紀後半からは2人称代名詞が you ではなく ye のケースもあり得たこと,またさらに古くは前置詞が with ではなく mid の例もあったことが触れられている.
 さらに,OED としては採用していないものの,もう1つの異説についても議論がなされている.

It has been suggested (W. Franz, 'Good-bye', in Engl. Studien (1898) vol. 24 344-6) that the phrase may have originated as a shortening of God buy you 'God redeem you' (compare buy v. I.3b, and also God save you! at save v. Phrases P.2b), and that association with God be with you is of later date. Although this suggestion would more readily explain the diphthong in the second syllable, it is not supported by the earliest forms (compare the α forms). Some of the β forms with buy do, however, appear to result from later secondary association with buy v.; this association may also have influenced the pronunciation.


 OED としては,初出年代の観点から God buy you 説を民間語源や解釈語源とみなしており,積極的には受け入れていないことになる.ただし,現在の goodbye の第2音節の2重母音を間接的に説明するものとして,部分的な関与の可能性は示唆している.

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2026-02-03 Tue

#6126. goodbye の最後の e は何? [sobokunagimon][notice][three-letter_rule][orthography][spelling][final_e]

 「#4384. goodbye と「さようなら」」 ([2021-04-28-1]) で,挨拶表現 goodbye の語源周りの話題を取り上げた.いくつかの点で問題含みの表現であることをみたが,綴字の観点からは,なぜ語末に e が付いているのかが気になる.
 Carney (153) では,e それ自体の問題というよりも ye という組み合わせに注目しつつ,次のような解説があった.

Final <-ye> occurs irregularly in a few §Basic words. Dye, lye ('soda'), rye, compared with sky, dry, wry, etc. are bulked up with <e> to three letters (the 'short word rule', p. 131). Similarly lexical bye is differentiated from the function word by. Dye and lye are differentiated from the much more common die and lie in present-day spelling, but in earlier centuries there was some free variation between the <ie> and <ye> spellings.


 Carney の見解によると,bye の語末の e 付加は,英語正書法における「#2235. 3文字規則」 ([2015-06-10-1]) で説明されるという.内容語は最低3文字で綴られなければならないというルールだ.この表現における bye は単独での語源や意味が何であろうとも,good という形容詞の後に来ている点でいかにも名詞らしい,すなわち内容語らしい.一方,同音異義語の by は前置詞であり,機能語である.この差を出すためにも,そして前者について3文字規則に抵触しないためにも,前者にダミーの e を付すのが適切な解決策となる.
 あるいは,この挨拶表現の原型とされる God be with you/ye.ye の亡霊が bye に隠れていると想像を膨らませてみたいですか? 想像するのは自由で楽しいですね!

 ・ Carney, Edward. A Survey of English Spelling. Abingdon: Routledge, 1994.

Referrer (Inside): [2026-02-04-1]

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2026-02-02 Mon

#6125. heldio/helwa リスナー sorami さんによる『英語語源ハンドブック』のクイズ・シリーズが開始 --- 中高生のための英語史 [note][hee][helkatsu][hel_education][quiz][helwa]


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 1月28日,heldio/helwa リスナーの sorami さんが note 上で「授業で使える!中学生向け英語語源クイズ」と題するシリーズを開始されました.昨年6月に出版された『英語語源ハンドブック』(研究社)に基づいた英単語の語源に関するクイズです.「授業で使える!中学生向け英語語源クイズ#1~『英語語源ハンドブック』より~」をご覧ください.
 訪れてみればお分かりになると思いますが,すばらしい教材です.まず,出題のラインナップが絶妙です.animal から○○○への展開,business のなかに隠れている別の単語を探させるという発想,さらには percent, centimeter, century に共通する cent という部品への注目など,中学生が日々接している英単語が,実は深い歴史的な根っこでつながっていることを発見させる構成になっています.
 ほかに cultivate(耕す)と culture(文化)のつながりは,英語語源の定番の話題ではありますが,それを「土を耕す」から「人の心を耕す」への意味変化として提示することで,中学生の知的好奇心がおおいに刺激されることと思います.解答では日本語の「培う」の語源にも触れている点など,比較語源学的な視点も盛り込まれており,言語への感度を高める工夫が随所に凝らされています.
 私は常々,英語史という分野は英語教育との相性が抜群であると感じています.文法規則の丸暗記に疲れ果てた学習者にとって,語源的な背景を知ることは,単なる暗記の負担を軽減するだけでなく,言語そのものに対する愛着を育むきっかけとなるからです.sorami さんのこの試みは,まさにその理念を具現化した「授業で使える小ネタ」の宝庫です.
 全国の小中高のお英語教員の皆さんにも,ぜひこの記事を訪れていただければと思います.そして,記事の最後に「授業の小ネタやウォームアップなど自由に使っていただければ幸いです」とある通りですので,ぜひご活用ください.また,sorami さんのように,『英語語源ハンドブック』をもとに自らクイズを作成したり,あるいはハンドブックを片手に授業の導入を工夫したりといった,独自の試みを始めてみてはいかがでしょうか.「英単語って,実はこんなに繋がっているんだ!」という生徒の驚きは,教える側にとっても大きな喜びとなるはずです.
 sorami さんの note シリーズの今後の展開を楽しみにするとともに,読者の皆さんもぜひこの「語源で学ぶ,語源で教える」の輪に加わっていただければ.

 ・ 唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一(著),福田 一貴・小河 舜(校閲協力) 『英語語源ハンドブック』 研究社,2025年.

Referrer (Inside): [2026-02-09-1]

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2026-02-01 Sun

#6124. 「すべての文字は黙字である」 --- silent letter という用語を使うべきか [silent_letter][terminology][spelling][orthography][metaphor][conceptual_metaphor][medium][writing]

 本ブログでは doubt の <b> や sign の <g> などを話題にするときに黙字 (silent_letter) という用語を当たり前のように使ってきた.分かりやすく便利な用語である.しかし,これは不適格かつ不正確な用語であるとして,使用しない綴字論者もいる.
 この用語のどこに問題があるのかを探っていきたいと思うのだが,まずは Carney の "2.6.5 Auxiliary, inert and empty letters" と題する節の冒頭を引くところから始めたい (40) .

All letters are 'silent', but some are more silent than others

Opinions are sharply divided on whether to allow the use of 'silent letters' in a description of English orthography so as to cater for spellings such as the <b> in debt, doubt. If we are to find our way in this controversy, we clearly need to clarify our terminology. The term 'silent letters' is an extension of a metaphor commonly used in the teaching of reading, where letters are often supposed to 'speak' to the reader. When a simple vowel letter, as the <a> in latent has its long value /eɪ/, 'the vowel says its name'. A commonly-used classroom rule for reading vowel digraphs, such as <oa>, <ea>, is: 'when two vowels go walking, it's the first that does the talking' --- a comment on the greater phonetic transparency of the first element in a complex graphic unit. But, as Albrow (1972: 11) pints out, all letters are silent: 'the sounds are not written and the symbols are not sounded; the two media are presented as parallel to each other'. He suggests the term 'dummy letters' for letters with no direct phonetic counterpart but, as far as possible, tries to do without them in his analysis.


 Albrow の言い分は「文字は発声しない,ゆえにすべての文字は定義上黙字だ」ということだろう.これはある種のジョークのようにも聞こえるが,この「文字は発声する」という概念メタファーが,表音文字であるアルファベットという文字種を使う者の心に深く刻み込まれていることを理解しておくことは,実は極めて重要である.というのは,文字や綴字の議論をするに当たっては,発音と文字,話し言葉と書き言葉が,原則として異なるメディアであることを強く認識しておく必要があるからだ.両メディアは,言語使用者が様々な方法で互いに連絡させ合おうとしているのは事実だ.しかし,それは本質的に異なる2つのメディアを関わらせようという営みなのであり,常にうまく行くわけではない.むしろ,対応関係がうまく行かないのが当然だという立場からスタートしてみるほうが有益かもしれないのだ.
 silent letter という用語については,今後も考え続けていく.

 ・ Carney, Edward. A Survey of English Spelling. Abingdon: Routledge, 1994.
 ・ Albrow, K.H. The English Writing System: Notes toward a Description. London: Longman, 1972.

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最終更新時間: 2026-03-04 07:52

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