hellog〜英語史ブログ

#742. amusing, awful, and artificial[semantic_change][royal_wedding]

2011-05-09

 4月29日,William 王子と Catherine Middleton さんの結婚式に世界中が見入った.世界の20億人が式の模様を見たというから,英国王室の人気が衰えていないことが確認された.

Prince William and Catherine Middleton

 今回の royal wedding は新しいことずくめだったというが,何よりも花嫁の Middleton さんが貴族でなく平民であるということがユニークである.王位継承の有力候補者が平民出身の女性を妻として迎えたのは,1660年に James II (1633--1701) が姉の侍女 Anne Hyde (1637--71) と結婚して以来,英国史では350年ぶりのことだという.The Telegraph on 29 April 2011 の記事より.

Catherine Middleton was the first untitled woman to marry a prince in close proximity to the throne in more than 350 years, since Anne Hyde wed the Duke of York, later James II, in 1660.


 James は Anne を見初めてからも,彼女が平民であることから結婚をしばらく躊躇していたという.しかし,2人は結果として正式に結婚し,長男 Charles,長女 Mary,次女 Anne をもうけた.Charles は夭折したが,2人の娘は,James の死後,相次いでイングランド王位を継承することとなった.平民 Anne はこのように歴史を作った女性だった.James は後にこの Anne の侍女だった Arabera Churchill なる美脚の女性と再婚したが,故ダイアナ妃にはこの系統の血が混じっている(森, pp. 438--40).
 さて,先日の Westminster Abbey での結婚式は控えめにしたといってもやはり壮観だったが,James II の時代にロンドンの壮観を新たにしていたのは Saint Paul's Cathedral だった.16世紀の宗教改革,17世紀前半の革命,1666年のロンドン大火などによってひどい損傷を被っていた Cathedral は,建築家 Christopher Wrenn (1632--1723) の設計により,1675--1710年の間に大改築が進められていた.James は新生 Cathedral を初めて見たとき,標題の形容詞で感嘆したと伝えられている.(以下の画像は Encyclopaedia Britannica 2008 Ultimate Reference Suite より.)

Saint Paul's Cathedral

 James が amusing, awful, and artificial という形容詞で意図していたのは "pleasing to look at, deserving of awe, and full of skillful artifice" (Simeon Potter による言及として Bryson, p. 71 に記述あり)という高評価だったのだが,現代英語の語感からいうと「笑ってしまう,ひどい,人工的(で無味乾燥)な」となり,むしろ軽蔑的に響いてしまうのがおもしろい.James の念頭にあった意味は,それぞれ語源に忠実な「驚くべき,畏怖を催させる,技巧に富んだ」という語義だったが,3語とも現代までに「悪い」方向へ意味が変化してしまった.[2010-09-14-1], [2010-08-13-1]で見た意味の悪化 (pejoration) のもう1つの例として,とりわけ印象的な例ではないだろうか.
 "royal wedding" の響きは Charles 皇太子の離婚・再婚によってやや pejorative になっていたが,今回の気取らない2人の結婚により ameliorative になるかもしれない.末永くお幸せに・・・.

 ・ 森 護 『英国王室史話』16版 大修館,2000年.
 ・ Bryson, Bill. Mother Tongue: The Story of the English Language. London: Penguin, 1990.

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