「#3801. gan にみる古英語語彙の結合的性格」 ([2019-09-23-1]) では,主として古英語の派生語 (derivative) の広がりをみたが,古英語語彙の結合的性格は,複合語 (compound) によって一層よく示される.複合語とは,自立した2つ以上の単語をつなぎ合わせて新たに1つの単語を作ったもので,現代英語でも girlfriend や convenience store などでお馴染みのタイプの単語である.
したがって,現代英語でも複合 (compounding) という語形成はおおいに活躍しているのだが,古英語ではその活躍の幅が広く,また天真爛漫,天衣無縫ですらある.複合語の各要素の意味を知っていれば,それらをつなぎ合わせた複合語自体の意味もおよそ容易に理解できることから,"self-explaining compounds" と呼ばれることもある.Crystal (22) より,古英語からの「自明の複合語」の例をいくつか挙げてみよう.
・ gōdspel < gōd 'good' + spel 'tidings': gospel
・ sunnandæg < sunnan 'sun's' + dæg 'day': Sunday
・ stæfcræft < stæf 'letters' + cræft 'crat': grammar
・ mynstermann < mynster 'monastery' + mann 'man': monk
・ frumweorc < frum 'beginning' + weorc 'work': creation
・ eorþcræft < eorþ 'earth' + cræft 'craft': geometry
・ rōdfæstnian < rōd 'cross' + fæstnian 'fasten': crucify
・ dægred < dæg 'day' + red 'red': dawn
・ lēohtfæt < lēoht 'light' + fæt 'vessel': lamp
・ tīdymbwlātend < tīd 'time' + ymb 'about' + wlātend 'gaze': astronomer
もちろん「自明の」といっても程度の差はあり,最後の tīdymbwlātend などは本当に自明かどうかは疑わしい.また,形式的な変形により本来の自明度が失われた偽装複合語 (disguised_compound) なるものもあれば,あえて自明さを封じ込めることで文学的効果やナゾナゾ効果を醸し出す隠喩的複合語 (kenning) なるものもある(各々「#260. 偽装合成語」 ([2010-01-12-1]),「#472. kenning」 ([2010-08-12-1]) を参照).ただし,いずれも「自明の複合語」という基礎があった上での応用編ともいうべきものではあろう.「自明の複合語」は,古英語の語形成における際立った特徴の1つといってよい.
・ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of the English Language. 3rd ed. Cambridge: CUP, 2019.
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