印欧諸語のなかでもアルメニア語 ( Armenian ) は影が薄い.印欧語系統図 ( see [2009-06-17-1], [2010-07-26-1] ) で1つの独立した語派を形成していながら類縁関係のある言語が他にないというのがその理由だろう.(1875年に独立した語派として認められるまでは,イラン語群に区分されていた.)
アルメニア語はコーカサス山脈 ( the Caucasus Mountains ) の南に位置するアルメニア共和国( the Republic of Armenia; 1991年独立)の公用語である.コーカサス山脈地帯,トルコ東部,ロシア南部などで有史以前の前8世紀頃より話されていたとされる.現存する最古の文献は5世紀に古典アルメニア語で訳された聖書である(アルメニアは,紀元300年頃,正式にキリスト教を受け入れた世界最初の国である).現在は東西2方言に分かれており,東方言が主流をなす.話者人口は約670万人で,アルメニア国内にその過半数がいる.
様々な民族に征服されてきたため諸言語からの影響が強く,語彙ではトルコ語,セミ諸語,ギリシア語,そして特にペルシア語からの借用語を多く取り込んでいる.また,非印欧語族であるコーカサス諸語に囲まれているために,これらの言語から文法や音韻への強い影響が認められる.例えば,アルメニア語は現代英語と同様に印欧諸語には珍しく文法性 ( grammatical gender ) を欠いているが ( see [2010-08-27-1] ) ,これは文法性をもたない南コーカサス諸語の影響と考えられている (Baugh and Cable 24--25) (格については7格が残存しているので,文法性の消失を,英語史にみられるような一般的な屈折の衰退の一環として説明するのは難しい).
類縁の言語がないと上述したが,実は,小アジア中部・北西部にわたっていた古代王国フリギア ( Phrygia; 前11世紀頃から) で話されていたフリギア語 ( Phrygian ) との関係が,少ない証拠から示唆されている.
印欧語族の遠い親戚であるという点を除けば,アルメニア語と英語に接点はほとんどない(ただし heathen の語源にアルメニア語が関係しているという説がある).しかし,アルメニア語は,英語史(より正確にはゲルマン語史)上のある大きな変化を解明するのに非常に重要な示唆を与えてくれる.それについては明日の記事で.
アルメニア(語)については,以下の記事を参照.
・ Ethnologue report for Armenian
・ Armenia -- Britannica Online Encyclopedia
・ Armenia -- CIA: The World Factbook
・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 5th ed. London: Routledge, 2002.
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