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2015 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2014 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2013 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2012 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2011 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2010 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2009 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12

去る6月18日,あの熱狂の発売からちょうど1周年を迎えることとなりました.『英語語源ハンドブック』(研究社)です.
刊行から1年が経ち,ありがたいことに重版を重ねておりますが,それに伴う正誤表がこちらの研究社公式HPより公開されています.最新版は2026年6月17日に更新されたものとなりますので,お手元の書籍と合わせてご確認いただければ幸いです.
さらに,本書で言及されている実に4083語もの単語・表現を網羅した索引が,追加資料としてダウンロードできるようになっています.それもこちらの研究社公式HPよりEXCELファイルやPDFフィあるとして入手できます,最新版が,同じく2026年6月17日付けで公開されています.この索引を活用することで,本書の利便性は一層高まるはずです.この索引を用いると,いろいろなことが可能となります.ぜひ「#6084. 『英語語源ハンドブック』の索引の歩き方」 ([2025-12-23-1]) の記事をお読みください.
最新のリンクを含め,『英語語源ハンドブック』に関する各種情報は,『英語語源ハンドブック』の特設HPに集約されていますので,ぜひ訪れていただければ.
この1年間,読者の皆さんの手によって,実におもしろく多様な『英語語源ハンドブック』関連コンテンツが制作・公開されてきました.それらの素晴らしい広報活動の足跡も,上記の特設HPに一覧としてまとめられております.皆さんの熱量には本当に脱帽するばかりです.
関連コンテンツの盛り上がりについては,6月20日に Voicy heldio で配信した「#1847. 『英語語源ハンドブック』発売1周年 --- 読者の皆さんによる関連コンテンツがたくさん」でも詳しくお話ししております.1周年の記念に,ぜひ合わせてお聴きください.
なお,1周年記念日となる6月18日の夜には,著者3名がオンラインで一堂に会し「居酒屋KKY」を開催しました.その様子は近々に heldio にてオンエアしますので,ご期待ください.
『英語語源ハンドブック』が,拙著新刊『『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』(NHK出版新書)とともに,多くの人々にとって英語史へのジャンプ台であり続けることを願っています.
・ 唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一(著),福田 一貴・小河 舜(校閲協力) 『英語語源ハンドブック』 研究社,2025年.
「#6250. なぜ古英語文法で名詞屈折の定番が stan なのか? (2)」 ([2026-06-07-1]) で紹介した通り,ヘルメイトの ykagata さんが,「[古英語]名詞屈折表が stān で始まる本,始まらない本」を公開されている.そこで Smith (66) が引用されている.以下に再掲しよう.
OE nouns can be classified into five groups, or declensions. In decreasing order of frequency of occurrence in OE, these declensions are:
(1) General Masculine Declension
(2) General Feminine Declension
(3) General Neuter Declension
(4) the -an Declension
(5) Irregular Declensions
ここで,名詞屈折の型について伝統的・通時的なラベルを採用せず,教育的・共時的なラベルを採用していることを,ykagata さんは賞賛されている.
(1) から (5) は頻度の高い順に並べられているということだが,この「頻度」のソースはどこから来ているのだろうか.おそらくだが,完全にではないが,古英語の伝統的な入門書,Quirk and Wrenn (20) の挙げている頻度比率(あるいはそこから派生した何らかのソース)に依拠しているのではないかと睨んでいる.その数値を表でまとめると以下のようになる(予想される通り,伝統的・通時的なラベルが用いられている点に注意).
| Noun Class | Value |
|---|---|
| masculine a-stems | 0.36 |
| masculine n-stems and minor declension | 0.09 |
| feminine o-stems | 0.25 |
| feminine n-stems and minor declension | 0.05 |
| neuter a-stems | 0.25 |
| neuter n-stems | insignificant |

1週間後の6月27日(土) 15:30--17:00 に,今年度の2回目となる朝日カルチャーセンター新宿教室でのオンライン講座が開かれます.昨年度より継続しているシリーズ「歴史上もっとも不思議な英単語」の通算第15弾ということで,今回は「ghost を探って古英語原文の世界へ」と題して,皆が気になる単語 ghost を深掘りしていきます.
現代英語の ghost の最も普通の語義は「幽霊」ですね.この世ではしばしば恐れられている,あの不思議な存在です.しかし,本来は広く「精霊」 (spirit) を表わし,あらゆるものに生命を吹き込むパワーを表わしていましたが,歴史の過程で意味の縮小が起こったことになります.キリスト教の「聖霊」は the Holy Spirit と言いますが,古くは the Holy Ghost と言われたのも,この経緯と関係しています.
また,発音や綴字の観点からも興味深い事実があります.古英語や中英語では gast のような綴字が普通でした.母音として ā という長母音をもっていたのです.ところが現代では /oʊ/ という2重母音になっていますね.また,後期中英語以降,どこからともなく綴字に <h> の文字が紛れ込み,現代では ghost となっていますね.講座では,<gh> という綴字の様々な謎にも触れていきたいと思っています.その他,動詞としての ghost,「幽霊語」 (ghost_word) の話題,もちろん ghost の語源自体にも触れていきます.
講座の後半には,本シリーズの「古い英語の原文で味わう」趣旨に沿って,市河三喜・松浪有(著)『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』(研究社,2026年)より古英語のなかに実際に現われる "ghost" を覗いてみます.丁寧に解説しますので,古英語初心者の方も心配無用です.また,上掲書をお持ちでなくても講座資料として配付しますのでご安心ください.
講座の詳細とお申込みは,朝カルのこちらの公式ページをご覧ください.
なお,この先の夏期クールのテーマと日程をお伝えしておきます.夏期もシリーズを継続していきます.そちらの詳細・お申し込みはこちらのページよりどうぞ.
・ 夏期第1回(2026年7月25日):歴史上もっとも不思議な英単語 --- "king" を探って古英語原文の世界へ
・ 夏期第2回(2026年8月22日):歴史上もっとも不思議な英単語 --- "riddle" を探って古英語原文の世界へ
・ 夏期第3回(2026年9月26日):歴史上もっとも不思議な英単語 --- "through" を探って中英語原文の世界へ
いずれの講座につきましても,多くの方の受講をお待ちしております.
(以下,後記:2026/06/22(Mon))
今回の講座については Voicy heldio でも案内を放送しています.ぜひ「#1849. 6月27日(土)の朝カル講座は ghost を深掘り」をお聴きください.
・ 市河 三喜,松浪 有 『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』 研究社,2026年.
・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.
昨日に引き続き,英語史の名著,Baugh and Cable のテキスト(第6版)を,helwa の志高き仲間たちと徹底的に腑に落としていく「超精読会」の記録です.この熱気あふれる現場の音声をそのままお届けする Voicy heldio の配信シリーズも,おかげさまで息長く続いています.
今朝配信の heldio 最新回では,新しい節の冒頭を精読する回をお届けしています.「#1846. 英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (64-1) with Taku さん --- helwa 北千住オフ会より」 です.本日のブログ記事はこの最新音源と密接にリンクした誌上実況中継となります.
今回も,helwa/heldio のコミュニティを熱く盛り上げてくださっている重要ヘルメイトであり,コアリスナーの Taku さんことhttps://www.ntu.ac.jp/research/kyoin/kodomo/gakoukyouiku/kaneta_t.html">金田拓さん(帝京科学大学)に,水先案内人として精読をリードしていただきました.
さて,今回からはいよいよ "Influence of The Benedictine Reform on English" と題された新セクションへ突入します.前回まで追ってきた「ベネディクト改革」という歴史的うねりが,実際の英語の語彙にどのような変化をもたらしたのか,具体的な借用語 (loan_word) のリストとともに検証していくことになります.今回の精読のターゲットとなった英文を以下に掲げます(Baugh and Cable, pp. 84--85).第64節の冒頭から,およそ30分弱をかけて計6文の細部を解剖していきました.
The influence of Latin upon the English language rose and fell with the fortunes of the church and the state of learning so intimately connected with it. As a result of the renewed literary activity just described, a new series of Latin importations took place. These differed somewhat from the earlier Christian borrowings in being words of a less popular kind and expressing more often ideas of a scientific and learned character. They are especially frequent in the works of Ælfric and reflect not only the theological and pedagogical nature of his writings but also his classical tastes and attainments. His literary activity and his vocabulary are equally representative of the movement. As in the earlier Christian borrowings, a considerable number of words have to do with religious matters: alb, Antichrist, antiphoner, apostle, canticle, cantor, cell, chrism, cloister, collect, creed, dalmatic, demon, dirge, font, idol, nocturn, prime, prophet, sabbath, synagogue, troper.
この B&C 超精読シリーズの過去の足跡については,すべてアーカイヴに網羅されており,いつでもバックナンバーにアクセス可能です.各回へのナビゲーションは,「#5291. heldio の「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む」シリーズが順調に進んでいます」 ([2023-10-22-1]) をハブとしてご利用ください.英語史のロマンに知的好奇心をくすぐられた方は,ぜひ本書をお手元にご用意の上,この音声を道しるべに深い読書体験を味わっていただければ幸いです.さらに,「ただ聴くだけでなく,自分も対面やオンラインの現場に飛び込んでリアルタイムに議論の輪に加わりたい!」という熱量をお持ちの方は,ぜひ Voicy のプレミアムリスナー限定配信チャンネルである「英語史の輪 (helwa)」へのご参加をご検討ください.知的なお祭りをともに楽しめる仲間を,いつでもお待ちしております.

・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.
英語史を学ぶ者にとってのバイブルとも言える Baugh and Cable の名著(第6版)を,helwa の志高きメンバーとともに1文ずつ(いな,1語ずつ)じっくりと読み解いていく「超精読会」を,半定期的なペースで重ねています.この濃密な読書会の空気感をそのままお届けする Voicy heldio の音声配信シリーズも,気づけば継続中です.開始から3年近くが経過しましたが,歩みは着実に進んでおり,現在は第63節の後半戦に突入しています.
今朝の heldio にて,その最新の配信回を公開いたしました.「#1845. 英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (63-7) with Taku さん --- helwa 北千住オフ会より」です.本日のブログ記事はこの音声配信とがっちり連動する形でのアップデートとなります.
今回も,heldio/helwa コミュニティを牽引するヘルメイトでありコアリスナーの Taku さんこと金田拓さん(帝京科学大学)に,ナビゲーターとして精読を力強くリードしていただきました.現場に集まった数名のギャラリーとともに,テキストの奥底に潜む歴史的背景を掘り起こすような,いつもながらのディープな読みを堪能する時間となりました.
今回の読書会でターゲットとした英文を以下に提示します(Baugh and Cable, pp. 83--84) .第63節の幕引きに近い箇所から,およそ40分もの時間をかけて計6文を緻密に読み解いていきました.10世紀後半のベネディクト改革の英語史上の意義を堪能してください!
One of the objects of special concern in this work of rehabilitation was the improvement of education---the establishment of schools and the encouragement of learning among the monks and the clergy. The results were distinctly gratifying. By the close of the century the monasteries were once more centers of literary activity. Works in English for the popularizing of knowledge were prepared by men who thus continued the example of King Alfred, and manuscripts both in Latin and the vernacular were copied and preserved. It is significant that the four great codices in which the bulk of Old English poetry is preserved date from this period. We doubtless owe their existence to the reform movement.
この B&C 読書会のこれまでの軌跡については,すべてアーカイヴ化されており,いつでも過去回へアクセスが可能です.各配信回へのナビゲーションリンクは,過去の記事「#5291. heldio の「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む」シリーズが順調に進んでいます」 ([2023-10-22-1]) にまとまっていますので,ぜひそちらをご参照ください.知的好奇心を刺激された方は,ぜひご自身でも本書を入手され,この超精読会の音声をガイドブック代わりにお聴きいただければ幸いです.また「聴くだけでなく,対面やオンラインの現場でリアルタイムに議論に加わりたい!」という熱意をお持ちの方は,ぜひ Voicy のプレミアムリスナー限定配信チャンネルである「英語史の輪 (helwa)」の門を叩いてみてください.皆さんのご参加を心よりお待ちしております.

・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.
去る5月23日(土)に,朝日カルチャーセンター新宿教室にて今年度の第2回となるオンライン講座を開きました.春期クール全体のタイトルは「歴史上もっとも不思議な英単語 語源を探って古英語・中英語原文の世界へ!」です.今回は,「again を探って中英語原文の世界へ」と題して,平凡ながらも豊かな歴史と含蓄をもつ単語 again に迫りました.具体的な中英語原文を抜き出し,文脈を押さえながら読み解くことで,この基本語の理解を深めようという趣旨です.参考としたテキストは前回に続き市河三喜・松浪有(著)『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』(研究社,2026年)です.
今回の講座でまず注目したのは,現代英語の again と前置詞 against の関係です.本来は同一語であり,両方とも副詞・前置詞として用いられていましたが,中英語期に副詞を示す属格語尾 -es が付与され,さらに1300年頃から謎の -t が添加されることで against が誕生しました.この -t の添加には,最上級語尾 -st との類推説(betwixt,amongst,amidst など)や異分析説が指摘されています.近代英語期に入ると,again が副詞,against が前置詞という棲み分けが生じるに至ったドラマも詳しく扱いました.
語源としては,古英語の ongēan (接頭辞 on- + -ȝeȝn)に遡り,原義は「まっすぐに,真正面に」でした.現代の g の綴字と発音は古ノルド語の影響を受けた北部方言に由来するもので,中英語期の南部方言では onyen のように y が優勢でした.かつては gainsay (否定する)などのように接頭辞としても活躍していましたが,現代ではその多くが衰退してしまっている点も興味深いところです.
講座の終盤では,初期中英語の第1級の史料でもある『ピーターバラ年代記』 (pchron) の1137年の記述より,中世イングランドの拷問シーンの原文を味読しました.その直前の部分に "agænes him hēolden" 「王に敵対して(城を)保持した」という表現が見え,今回注目した単語の前置詞用法が現われています.古英語の屈折体系が崩壊しつつある時期の英語の雰囲気がつかめたかと思います.
次回の講座は,6月27日(土)に「ghost を探って古英語原文の世界へ」と題して開かれます.次回も引き続き『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』より古英語のテキストを参照しながら,魅力的な言葉の歴史をひもといていきます.ご関心のある方は,ぜひ朝カルのこちらの公式ページよりお申込みください.
・ 市河 三喜,松浪 有 『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』 研究社,2026年.
・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.
・ 唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一(著),福田 一貴・小河 舜(校閲協力) 『英語語源ハンドブック』 研究社,2025年.

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6月12日,大修館書店より月刊誌『英語教育』より7月号が刊行されました.今年度,同雑誌において,同僚の井上逸兵さん(慶應義塾大学教授)とともに連載企画「いのほた言語学チャンネル PRESENTS 英語を深める社会言語学・英語史の視点」を展開しています.今回の第4回の記事は井上さんによる言語行為の日英差に迫っています.「「あぶない!」はなぜ Watch out! になるのか ―― 日常に転がるスピーチアクトの日英比較」です.
今回の井上さんの論考は,日常の何気ない表現に潜む語用論の話題をおもしろく掘り下げています.たとえば,誰かが転びそうになった際,日本語ではとっさに「あぶない!」という言葉が出ます.これは形式としては危険な状況の描写にすぎません.ところが,英語では同様の場面で Watch out! と表現するのが一般的です.日本語が状況を言うことで相手を動かそうとするのに対し,英語は相手にしてほしい具体的な行為を指示することで相手を動かそうとする傾向が見られます.この対比は「うるさい!」に対する Shut up! や Be quiet!,「じゃまだ!」に対する Move! などの日常表現,さらには山手線のホームの「降車位置」という表示に対する英語の Keep out という指示のあり方にまで通底しています.
なぜこのような言語行為 (speech_act) の違いが生まれるのかについて,井上さんは2つの切り口から整理されています.この最も重要なポイントについては,ぜひ雑誌を手に取って連載記事にてお読みください.
社会言語学 (sociolinguistics) 的に重要なのは,こうした違いを「日本人は察しの文化で,英語圏は直接的だ」といった国民性や民族性の違いに雑に単純化しないという点です.酒場でよく耳にする「日本は島国だからね」という言説への鋭いツッコミを披露されていますが,これには思わずニヤリとしてしまいました.
最後に,私も少しコメントを寄せています.近年,英語史の分野では歴史語用論の研究が非常に盛んです.今回のトピックはその角度から見ても示唆に富んでいます.英語は歴史を通じて直接的な行為の要求ばかりを好んできたわけではありません.たとえば,Will you be quiet? のように相手の意志の確認を通じて間接的に依頼や軽い命令を表わす言語行為の型も,後期中英語期以降のことではありますが,発達してきています.つまり,英語もまた直接命令するのではない「新たな間接性の型」を自ら開拓してきた歴史をもっているのです.共時的な社会言語学の知見と通時的な英語史の視点が交差する speech act は,エキサイティングな話題ですね.
・ 井上 逸兵・堀田 隆一 「いのほた言語学チャンネル PRESENTS 英語を深める社会言語学・英語史の視点 第4回 「あぶない!」はなぜ Watch out! になるのか ―― 日常に転がるスピーチアクトの日英比較」『英語教育』2026年7月号,大修館書店,2026年6月12日.44--45頁.
一昨日6月13日(土),英語教員が集うオンライン・セミナーにて,新刊『なぜさんたんげん』についてトークさせていただく機会をいただきました.参加者が小中高などの英語の先生方ということで,本書で取り上げている数々の「英語に関する素朴な疑問」の代表選手である,「なぜ3単現の s をつけるのか?」をピックアップし,学校の授業などでそのまま使えるレジュメを作成・配布しました.そちらに若干の改変を加えて,以下のようにブログ記事化しました.
なお,改変済みの PDF をこちらに置いておきますので,先生方におかれましては,自由にダウンロードし,配布・引用・改変していただいてけっこうです.授業の導入,学年通信,図書室の掲示用コラムなどに最大限にご活用ください.生徒からの「なぜ丸暗記しなきゃいけないの?」という疑問に,英語の歴史から明快に応える内容となっています。
【 英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか 】
1. 現代英語の「いびつな」現在人称活用
私たちが中学校で最初に習う一般動詞の活用(例:learn「学ぶ」)を改めて見直してみましょう.
| 人称 | 単数形 (Singular) | 複数形 (Plural) |
|---|---|---|
| 1人称 | I learn | we learn |
| 2人称 | you learn | you learn |
| 3人称 | he/she/it learns | they learn |
| 人称 | 単数形 (Old English) | 複数形 (Plural) |
|---|---|---|
| 1人称 | ic leorn-ie | wē leorn-iaþ |
| 2人称 | þū leorn-ast | yē leorn-iaþ |
| 3人称 | hē/hēo/hit leorn-aþ | hīe leorn-iaþ |
上記のオンライン・セミナーでの私のトークについては,参加者のお1人 Rie Miyazaki 先生が note 上で公開されている記事「【開催レポート】Galileo Neo 第3回セミナー:「AI時代の熟練指導者の腕の見せどころと,3単現のSから始まる英語史のロマン」2026.6.14」の後半にて,素晴らしい紹介とまとめをくださっているので,そちらもご覧ください.
・ 堀田 隆一 『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』 NHK出版〈NHK出版新書〉,2026年.

6月10日(水),NHK出版新書『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』(通称『なぜさんたんげん』)が発売されました.大変ありがたいことに,皆さんの熱い応援のおかげで発売前増刷となり,発売後もご好評いただいています.心より御礼申し上げます.
本書の刊行に合わせて,このたび全国のリアル書店での本書の目撃情報を皆さんと共有し,ともに楽しむための新企画「なぜさんたんげん目撃マップ」を立ち上げました.
本企画は,全国のリアル書店を訪れた皆さんから「ここに『なぜさんたんげん』が並んでいた!」「こんな風に平積みされていた!」という目撃情報を寄せていただき,それをもとに著者が Google Map 上にピンを立てて「見える化」していくという試みです.私自身は現在,イギリスのスコットランドに滞在しているところですが,数千キロ離れた地からも,日本地図の上に次々とピンが立っていく様子を不思議な,かつ熱い気持ちで見つめています.
企画がスタートしてまだ間もない状況ですが,本日23:50の段階で,日本全国のあちらこちらの書店に計19本のピンが立っており,素晴らしい走り出しです.これまでにご報告をいただいた皆さん,本当にありがとうございます.地図は,直接 Google Map の URL からアクセスできるほか,こちらの 『なぜさんたんげん』著者公式HPからもジャンプすることができます.
hellog 読者の皆さんにも,地元や学校・職場近くや旅先のリアル書店へ足を運ばれた際には,ぜひ本書を探していただき,目撃情報をテキストや写真でご報告いただけますと幸いです.SNS へは #なぜさんたんげん目撃マップ とハッシュタグを付けて投稿していただけますと,著者が定期的に巡回して受け取ることができます.あるいは,毎朝お届けしている Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」の任意の配信回のコメント欄より,お知らせいただく形でもけっこうです.
ただし,書店での写真撮影に関しましては,ぜひ留意していただきたいマナーがあります.撮影の可否や SNS へのアップロードに関する対応は書店さんによって対応が異なりますので,必ず事前に書店員さんへ「写真を撮ってよいですか」「SNS にあげても良いですか」と一言お声がけをいただき,そのご指示に従っていただきますようお願いいたします.ご報告はテキストのみでも十分ですので,気軽にご参加ください.
皆さんからお寄せいただく1本1本のピンが,本書を,そして英語史を日本全国へと広げていく大きな力となります.ぜひ,この発売後のお祭りをコミュニティの皆さんと一緒に楽しんでいければと願っています.皆様の積極的なご参加を心よりお待ちしています.
一昨日の heldio でも「#1839. 「なぜさんたんげん目撃マップ」企画を立ち上げました」として本企画をご案内していますので,そちらも合わせてお聴きいただければ.
・ 堀田 隆一 『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』 NHK出版〈NHK出版新書〉,2026年.

拙著『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』(NHK出版新書)の版元のNHK出版より,本書に掲載されている古英語・中英語部分を読み上げた音声にアクセスできる特設ページが公開されています.著者による読み上げ音声をお聴きいただけます.
画面上の英文の上をクリック・タップしていただくだけで,簡単に音声を再生することができます.本書の第1章や第3章で登場する Gregorius hine afligde などの古英語文や,Ich was in one sumere dale といった中英語文の「生の響き」を,ぜひ耳から体験してみてください.
古英語や中英語といった古い時代の英語を学ぶ際,誰もが抱く最初の,そして最も素朴な疑問の1つが「どうして大昔の英語の発音がわかるのか」という点ではないでしょうか.録音機器など存在しなかった1000年も前の言語音をいかにして推定するのかという問いは,歴史言語学にとってきわめて本質的な課題です.
この問題については,本ブログでも「#5314. どうして古英語の発音がわかるのですか? --- YouTube で答える素朴な疑問」 ([2023-11-14-1]) や,そこから張られているリンク先の記事でも取り上げていますので,ご参照ください.当時の表音文字としてのローマン・アルファベットの綴字体系を分析すること,あるいは詩の脚韻や頭韻といった韻文の証拠を活用すること,さらには現代の諸方言に残る痕跡から比較言語学的に復元することなど,様々な文献学的・言語学的なアプローチを通じて,かつての発音に迫ることができるのです.
そのような緻密な研究の積み重ねによって明らかになった古音の響きを,今回の特設ページでは実際に再現しています.文字として眺めるだけではなかなか実感が湧きにくい中世の英語ですが,声に出して読まれた音を聴くことで,現代の英語やあるいは他のゲルマン諸語との有機的なつながりが見えて(聞こえて)くるはずです.
新書をお手元に置いていただき,各章の解説と合わせて音声を聴き進めていただけますと,英語の文法が歴史を通じていかにダイナミックに変容してきたか,その立体的な姿をより深く,納得して味わっていただけることと思います.
上記のNHK出版公式の読み上げ音声HPとは別に,本書に関する著者による公式のHPもオープンしており,そちらはすでに1000回を超えるアクセス数となっています.様々な形で本書の魅力を伝えていますので,ぜひどうぞ.
・ 堀田 隆一 『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』 NHK出版〈NHK出版新書〉,2026年.

昨日6月11日(木)の朝日新聞朝刊サンヤツ広告に,新刊の拙著『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』(NHK出版新書)が掲載されました.
発売前から略称・ハッシュタグ「#なぜさんたんげん」として広める活動を行なってきましたが,6月10日に発売日を迎え,本日は発売3日目となります.上掲のサンヤツ広告の効果もあると思いますが,ありがたいことに大変な反響をいただいております.Amazon 売れ筋ランキングの総合で,今朝,これまでの最高位となる第80位をマークしました.また,リアル書店においても,地域の偏りなく全国の書店でよく売れているとの報告が入ってきています.本書を手にとってくださった読者の皆様に,この場を借りて心より御礼申し上げます.
発売後も本書に関連する様々なお知らせや企画は盛りだくさんです.最新情報は,日々更新される『なぜさんたんげん』著者公式HP をご覧ください.最速レビューやご感想,NHK出版公式の公開関連コンテンツへのリンク,「なぜさんたんげん目撃マップ」企画の立ち上げなど,HP自体だけでも十分に楽しめる場となっています.
この本が広く世の中に受け入れられることによって,英語のルールに潜む壮大なドラマ,そして英語史そのものの魅力があまねく伝わればよいなと思っています.
引き続き,応援のほどよろしくお願いいたします!
・ 堀田 隆一 『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』 NHK出版〈NHK出版新書〉,2026年.

昨日2026年6月10日に刊行された新著『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』(NHK出版新書)ですが,たいへんありがたいことに,発売初日から大きな反響をいただいております.手に取ってくださった皆様に,この場を借りて心より御礼申し上げます.
さて,本日はまだ本書を購入しようか迷っている方,あるいは「英語史という分野に興味はあるけれど,新書1冊を読み通せるか不安だ」という方にお届けしたいニュースがあります.昨日付けで,NHK出版公式のデジタルマガジンにて,本書の「序章」の全文が無料公開されました.記事のタイトルは「英語はどのようにして現在の姿になったのか──英語の歴史を遡る旅【英語史で解く英文法の謎】」です.
今回のデジタルマガジンで公開された「序章」は,本書に沿った「英語史概説」であり,本書全体の「地図」でもあります.壮大なる英語史のタイムラインを一望できる構成となっています.英語が独自の歩みを始める前の「印欧祖語」の時代から,5世紀の西ゲルマン諸民族のブリテン島渡来による「古英語」の誕生,1066年のノルマン征服がもたらした「中英語」の激変期,そして大母音推移や規範主義の台頭をくぐり抜けた「近代英語」を経て,21世紀の「現代英語」にいたるまでの1500年以上の旅路が,コンパクトに凝縮されています.
この序章を読んでいただくと,本書の狙いがよく分かると思います.本書を通読すれば,私たちが日頃学校文法で悩まされている「スペリングと発音の乖離」の謎や,なぜ feet や went のような不規則変化が残っているのかという素朴な疑問に対して,歴史的な視点から「なるほど,そういうことだったのか!」と腑に落ちる感覚を味わっていただけるはずです.英語という言語は,ゲルマン語の頑丈な骨格の上に,フランス語やラテン語の要素を幾重にも積み上げ,社会の荒波に揉まれながら増改築を繰り返してきた「巨大な建築物」なのです.
本書の目的は,単に過去の歴史的事実を羅列することではありません.一見すると不合理に思える英文法の「例外」や「謎」を歴史の流れの中に正しく位置づけることで,単語や文法の解解像度を上げ,納得しながら英語を学んでいただくことにあります.
まずはこの無料公開された「序章」をお読みいただければと思います.序章に続く本書の本体の部分,第1章から第4章で取り上げられる「謎解き」については,ぜひ全国の書店やオンライン書店にて,新書の実物を手にお楽しみいただければ幸いです.
1人でも多くの英語学習者、そして英語教育に携わる先生方のもとに本書が届き,英語を学ぶ楽しさがさらに広がっていくことを願ってやみません.SNS などでも、ぜひハッシュタグ「#なぜさんたんげん」をつけて応援していただけますと大変励みになります.どうぞよろしくお願いいたします.
NHK出版デジタルマガジンからは,他にも本書からの2つの部分がすでに公開されています.以下より訪れていただければ.
・ 5月11日公開,「紀元前からのこだわり?なぜ3単現の s をつけるのか【英語史で解く英文法の謎】」(本書の第1章第5節に相当)
・ 5月28日公開,「英語の「なぜ」には,驚くべき歴史と物語が潜んでいる【英語史で解く英文法の謎】」(本書の「はじめに」に相当)
・ 堀田 隆一 『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』 NHK出版〈NHK出版新書〉,2026年.

ついに,この日を迎えることができました.長年本ブログを読み,応援してくださっている読者の皆さんに,まずは何よりも先にこの言葉をお届けしたいと思います.
本日2026年6月10日,拙著『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』(NHK出版新書),通称・略称『なぜさんたんげん』が,公式に全国の書店で発売日を迎えました.月刊誌での2年間にわたる連載期間から数えれば実に長い道のりでした.担当編集者の方とは実に500通を超えるメールのラリーを重ね,時にはニュージーランド,オーストラリア,そしてスコットランドへの移動を跨ぎながら,原稿を書き直し,校正を続けてきました.それらがついに1冊の書籍として結実し,日本の皆さんの手元に届く瞬間を迎えたことになります.著者として実に深い感慨を抱いています.
そして本日,発売当日に当たり,もう1つ爆弾級のご報告を差し上げます.発売日の前日となる昨日6月9日の夕方,NHK出版より公式のアナウンスがありました.なんと「発売前増刷」が決定したというのです.
まだ全国の書店のレジを通っていない段階、つまり発売日前に増刷がかかるというのは,著者にとって名誉です.それはひとえに,SNS や note 等を通じて「hel活」 (helkatsu) を応援してくださっている皆さんが自発的に作り出した圧倒的な熱量と大波ゆえにほかなりません.著者として,これほど嬉しく心強い応援はありません.深く御礼申し上げます.
今日の発売に向けて,1ヶ月前から毎日のように hellog, heldio, SNS, YouTube 等で展開してきた発売前の広報は昨晩をもって無事に全日程を完走いたしました.これは,「著者が自分でできる最大限の広報をやってみたら,一体どこまで行けるか」を確かめる1つの挑戦でもありました.これほどまでにエネルギーを費やし,読者の皆さんと一緒になって駆け抜けた1ヶ月間は,どのような結果になろうとも「完全にやりきった」と言い切れるものです.この爽快なやりきった感があること自体で,私としては大成功だったと考えています.お祭りに付き合ってくださった皆さん,本当にありがとうございました.
さて,本日無事に発売日を迎えたわけですが,もちろん今後も hellog では『なぜさんたんげん』に注目していきます.本書で取り上げた24の英文法の謎について,さらに一歩深掘りした解説や考察を増やしていくつもりです.ここからは本を開きながら,じっくりと英語史の沼を一緒に歩んでいただければと思います.
本日以降,全国のリアル書店の店頭に,本書が並び始めているかと思います.もし書店の棚や新刊コーナーで本書を見かけましたら,写真付きでもテキストのみでも構いませんので,SNS 等で「#なぜさんたんげん」 のハッシュタグを付けつつ,教えてください.皆様からのリアルなご報告を,ドキドキしながらお待ちしております.
『なぜさんたんげん』著者公式HPも,最速レビューのコンテンツを含め,たいへん盛り上がっています.ぜひ訪れていただければ.
・ 堀田 隆一 『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』 NHK出版〈NHK出版新書〉,2026年.
いよいよ明日6月10日,私の最新刊「#なぜさんたんげん」こと『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』が発売となります.これまで本ブログ,Voicy heldio などで大々的に広報活動を展開してまいりましたが,すでに皆さんから温かいご声援やご期待の声を多くいただき,著者としてこれほど嬉しいことはありません.心より御礼申し上げます.
本日の hellog 記事では,発売が明日に迫った発売前最後のタイミングで,あらためて Amazon 予約特典についてご紹介したいと思います.今回の予約購入者に PDF で配布される書き下ろし特別編のタイトルは,「なぜ doubt のスペリングに b があるのか」です.この特典節は一般には出回らない限定コンテンツとなりますので,ぜひこの最後のタイミングで Amazon 予約を検討していただければ幸いです.
今回の書き下ろし特典節は,単なるおまけのコラムではありません.本書の本体とみごとに溶け込むスタイルで書かれており,とりわけ第3章第4節や第3章第5節との連携にご注目いただければと思います.実際に,入手されたら本書を印刷してページの間に折り込んでいただきたいくらいなのです.そのために,なんと配布される PDF は最初から「トンボ」付きの仕様になっているという,編集の田中菜乃香さんの芸の細かさにも要注目です.この仕掛けには私も深く唸らされました.
ここで,特典節 PDF の最初のページの冒頭部分を画像でチラ見せいたします.

いかがでしょうか.ここを入り口として,中身ではルネサンス期の知識人たちの「ラテン語かぶれ」の暴走が描き出されていきます.フランス語から入ってきた doute というシンプルなスペリングに対し,彼らが「由緒正しき語源形」であるラテン語 dubitare の存在とその知識をひけらかしたいがために,わざわざ発音もしない b をねじ込んだという,歴史の人間味あふれるドラマが展開します.
これはいわゆる語源的綴字 (etymological_respelling) の典型例ですが,特典節ではさらに暴走の極めつきである island の勘違いスペリングの謎や,なぜ発音がスペリングについていかなかったのかという深い議論へとつながっていきます.
本書をより深く,立体的に楽しむための強力な橋渡しとなる1節です.発売後にはこの PDF 特典は入手できなくなってしまいますので,まだ迷われている方は,ぜひ今すぐ Amazon の『なぜさんたんげん』のページ よりご予約ください.
それでは,明日の『なぜさんたんげん』の正式な船出を,皆さんと一緒にお祭りとして楽しんでいきましょう!
・ 堀田 隆一 『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』 NHK出版〈NHK出版新書〉,2026年.
先日の記事「#6244. 『なぜさんたんげん』の担当編集者・田中さんと対談しています」 ([2026-06-01-1]) の続編です.
いよいよ発売日まであと2日と迫りました,NHK出版新書『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』(通称『なぜさんたんげん』)に関する heldio 対談の続編をお届けします.今回は直近に配信された2回の対談回(Part 3 および Part 4)のエッセンスをぎゅっとまとめてご紹介したいと思います.
・ 第3回対談(6月4日配信),「#1831. 『なぜさんたんげん』総選挙の結果を編集者・田中菜乃香さんとともにレビュー」
・ 第4回対談(6月7日配信),「#1834. 新書『なぜさんたんげん』はベースとなった連載記事からいかに成長したか --- 編集者・田中菜乃香さんとの対談 Part 4」
まず,6月4日に配信した Part 3 では,5月下旬に実施した「24の疑問総選挙」の確定結果を,著者の私から編集の田中さんへ初めてサプライズシェアする,という企画を行ないました.96名もの方にご投票いただきまして,その節は皆さん本当にありがとうございました.
注目の第1位は,我々の期待と狙い通り,やはり「なぜ3単現の s をつけるのか」が38%の得票率でダントツのトップでした.もしこれが1位でなかったら本書のタイトルはどうなっていたんだという恐怖もありましたが,一安心です.驚いたのは2位以下のランキングで,第2位に「なぜ現在分詞と動名詞は同じ -ing で表されるのか」(21%),第3位に同率で「なぜ時・条件を表す副詞節では未来のことも現在形で表すのか」と「アルファベット最後の文字 z のミステリー」(19%)がランクインしたことです.
田中さんも指摘されていましたが,学校文法の定番である go/went のような理不尽度の高い具体的な疑問よりも,むしろ抽象度や玄人好みの高い問いが上位へ食い込んできたのは意外な結果でした.対談では,お互いの「推し疑問」についても初めて語り合っており,田中さんは自明すぎて普通は疑問にすら思わない数詞の「one, two の綴字と発音の謎」や「eleven, twelve の形」を挙げられ,さすがプロの編集者というべき鋭い視点に唸らされました.私は「I の大文字問題」や,「there is/are 構文」に一票を投じています.
続いて,6月7日に配信した Part 4 では,数年にわたる雑誌連載から新書へと編み直すプロセスにおいて,編集者と著者がどのような共同作業をしてきたのか,その舞台裏を赤裸々にトークしました.
元の雑誌連載は中学生向けに相当優しく書かれていたため,二字熟語を制限するなど日本語の言い回しを徹底的にチューニングしていましたが,新書化にあたっては大人向けの文体へと仕立て直す大がかりな文体調整を行ないました.そのなかで,単行本ならではの魅力として加わったのが,いくつかの「書き下ろし」コンテンツです.
とりわけ大きな柱となったのが,今回の新書で新たに追加された「there is/are 構文」に関する節です.これは田中さんからの「教科書における学習順序を意識したときに,中学2年生で習うテーマが穴になっているので,存在を表す構文について書いてほしい」という具体的なリクエストから生まれた,文字通りの書き下ろしです.後から付け足したピースであるにもかかわらず,英語における SVO の語順や主語の必須性といった収載済みの統語論的テーマとみごとに融合し,味わい深い節として仕上がりました.
さらに,Amazon 事前予約特典として用意した1節分の書き下ろし「なぜ doubt のスペリングに b があるのか」についても言及しています.実は,田中さんが私に最初にくださった連載の打診メールで,私が過去に書いた doubt に関するウェブ記事「圧倒的腹落ち感!英語の発音と綴りが一致しない理由を専門家に聞きに行ったら,犯人は中世から近代にかけての「見栄」と「惰性」だった.」を読まれていたことが触れられており,この思い出深いテーマが巡り巡って発売直前の特典として結実したという,言語史ならぬ「本の歴史」の美しい結末には深い感慨を覚えます.
この2回の対談を通じて改めて強く実感したのは,同じ1冊の本を対象にしていても,著者・研究者の目線と,プロのエディターとしての目線では,見ている角度やポイントが全く異なるということです.お互いの視点が火花を散らし,アドバイスを潤滑剤としながら融合したからこそ,2日後に世に出る新書が,このような形に成長してきたのだと確信しています.
音声配信では,文字通り2人の息づかいやプロフェッショナルとしての裏話が満載ですので,ぜひ heldio の音声を直接お聴きいただき,本を手に取る前のワクワク感を高めていただければ幸いです.どうぞお楽しみに.
・ 堀田 隆一 『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』 NHK出版〈NHK出版新書〉,2026年.
昨日の記事 ([2026-06-06-1]) に続き,標記の話題を取り上げる.というのも,ヘルメイトの ykagata さんが,ご自身の note で昨日の記事に反応くださっているのだ.「[古英語]名詞屈折表が stān で始まる本,始まらない本」を公開され,古英語の文法書や解説書の類いを複数冊調査して,名詞屈折の項目が男性強変化 a-stem 名詞 stān "stone" で始まらないものも散見されることを指摘されている.それらでは何で始めるかといえば,男性弱変化 n-stem 名詞 nama "name" とのことだ.
nama から入門する利点は確かにある.nama - naman - naman - naman; naman - naman - namena - namum と並ぶ屈折表は,stān - stān - stānes - stāne - stānas - stānas - stāna - stānum と同じくらいに,暗唱に際して語呂がよい.また,「弱変化」といわれるだけあって語尾変化の幅が小さいので,入り口としての負担が軽い.stān でつまずく初学者がいたとしても,nama くらいなら踏みとどまるかもしれない.また,nama に代表される男性弱変化屈折表は,女性・中性の弱変化屈折表ともほぼ同じなので,その点で応用が利くし,学習効率も良い.
ただし,(現代英語に比べれば,という但し書き付きで)「屈折的な言語」を標榜する古英語の代表選手として,屈折変化が実は貧弱な弱変化名詞を持ってくるというチグハグ感はある.また,現代英語に残っている弱変化の痕跡もまた,名前の皮肉で,貧弱である.oxen, children, brethren の -en を参照してください,といえるのが関の山である.一方,昨日の記事の論点に付け足せる点だと思われるが,stān 型の屈折は,現代の複数形の -s や所有格の -'s の由来を教えてくれるという利点がある.
いずれの名詞で始めるとよいかに絶対的な答えはない.その古英語文法書の狙い,読者対象,伝統の系列など,様々なパラメータと各々の重み付けの問題だからだ.従来,古英語文法書は入門書の類いであったとしても,印欧語比較言語学や英語文献学というすぐれて学術的な分野の伝統を引き継いで書かれることが多かった.stān でつまずくような初学者を最初から想定していなかった,という言い方をしてもよい.しかし,英語史や古英語への関心が我が国でもジワジワと広がっている(そして私としては広げていきたい)今,むしろ「狙い」や「読者対象」を再考してみるのも大事だと思う.どの名詞で入門書を始めるのかという問いは,図らずも現代的な問いだった!
議論の種と糧をくださった倉林秀男先生と ykagata さんに感謝します.
なお,6月10日に発売予定の『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』では,第1章第1節では「伝統」の stān 屈折表を掲載しています.
昨日,倉林秀男先生(杏林大学)より X 上で「OE の名詞屈折の例ってかなりの割合で男性強変化名詞 stān が出てきますよね」との投稿があった.
確かにそのとおりだ.古英語の教科書の名詞屈折のセクションでは,ほぼ必ず stān "stone" が最初の屈折表として鎮座していることが多い.なぜ取り立てて stān なのか.なぜ「石」というきわめて地味な単語がトップバッターに選ばれているのか.ここには英語史教育・学習の伝統,そしてとりわけ学習者への教育的配慮に満ちた理由がいくつも隠されているように思われる.以下で議論してみたいが,「なぜ」に対する答えや理由そのものというよりも,私なりの解釈といったほうが適切かもしれない.
第1の背景として,文法書という記述形式そのものがもつ歴史的伝統が挙げられる.これは語学の一般的な傾向だが,古英語文法に限らず,およそ〇〇語文法という世界には,最初に作られた定番の型がそのまま後世の教科書へ受け継がれやすいという性質がある.
これに加えて,印欧語比較言語学の強固なセオリーも関係している.比較言語学の伝統において,ゲルマン諸語の名詞屈折を記述する際には,もっとも勢力の強い男性強変化 a-stem 名詞の屈折から始めるのが鉄則となっている.古英語の stān は,まさにこの a-stem 名詞の1つである.
しかし,a-stem 名詞のなかには,ほかにも多くの単語が存在する.そのなかで,なぜよりによって stān が選ばれるのかといえば,この単語が当該の屈折のなかでもっともクセがないからだろうと考えられる.「クセがない」の意味を,5つの観点から考えてみたい.
(1) 屈折表のなかで語幹の音形の交替がない.古英語の名詞には,単数と複数,あるいは格の違いによって語幹に含まれる母音や子音が交替するものが少なくない.たとえば dæg "day" は単数主格形だが,複数主格形では dagas となり,æ が a へと交替する.また,mūþ "mouth" や þēof "thief" などの語幹末無声摩擦音が,単数主格以外では(綴字には現われないものの)有声化する.これらに対して,stān は,単数主格から複数与格に至るまで,語幹の綴字も発音も stān- と一切揺るがない.
(2) 語幹が1音節である.cyning "king" なども a-stem 名詞の重要語だが,2音節名詞であるため,後ろに屈折語尾がついて3音節となると,暗唱するにも口がもたつく.その点,語幹が単音節の stān は,屈折語尾の付き方がもっともクリアに見えるし,暗唱するにもリズムがよい.
(3) 現代までに意味・指示対象の変化がほとんどない.古英語の stān は現代英語の stone に対応し,千年前も今も基本義は変わらず「石」である.同じようにクセのなさそうな単語として hund も挙げられるが,確かに屈折表としては綺麗で,良い線を行っているようにも思われるが,現代では意味が「(一般的な)犬」 (dog) から「猟犬」 (hound) へと狭まっている.stān にはそのような意味変化のノイズがない.もう1つ思いつく bāt "boat" はなかなかの有力候補であり,実際に stān に代わって採用している教科書があったように思う(具体的な書名は失念した).
(4) 綴字が現代の学習者の目にとって異常ではない.たとえば fisc "fish" という単語も非常に基本的だが,現代の学習者がこれを見ると,語末の <sc> で /ʃ/ の発音を表わす点など,古英語特有の綴字規則の解説を別途挟まなければならなくなる.stān であれば,現代の stone との対応が(母音の長音記号除けば)一目瞭然である.
(5) 意味・指示対象が無生物で当たり障りがない.文法規則を純粋に学ぶ段階においては,単語そのものがもつ意味的な生々しさ(性別や生物としての性質など)は,ときに文法上の性 (gender) と混同されて学習の邪魔となることもあるかもしれない.無生物の「石」であれば,これ以上ないほど当たり障りがない.過去も現在も,特に社会性を帯びている単語でもない.
こうして条件を絞り込んでいくと,stān という単語は,古英語文法に入門する学習者にとって,もっとも安全で,視界がクリアな足場として機能していることがわかる.味も素っ気もない「石」がトップバッターを務めている背後には,上記の点での教育的知恵が凝縮されているように思われる.
ちなみに,今年2月に新装復刊された90年以上の歴史を有する伝説的教科書『古英語・中英語初歩』でも,もちろん stān がトップバッターとして君臨していることを付け加えておく.
・ 市河 三喜,松浪 有 『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』 研究社,2026年.

来週の6月10日(水),いよいよ私の新刊『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』(NHK出版新書)が発売となります.これまでブログや Voicy heldio,各種 SNS 等を通じて広報活動を続けてきましたが,多くの皆様から温かいご声援や期待の声をいただき,著者としてこれほど励みになることはありません.心より御礼申し上げます.
現在,本書の魅力を多角的に伝えるために『なぜさんたんげん』著者公式HPを開設しているのですが,そこへ一足先に本書を手に取ってくださった研究者の方々や各界のインフルエンサーの皆様から,熱烈な応援コメントが続々と寄せられています.今回の記事では,その素晴らしいコメントをいくつかご紹介したいと思います.
まず,研究者の目線から「発売前最速ロングレビュー」を投げてくださったのが,『英文解釈のテオリア』などのご著書で知られる杏林大学の倉林秀男先生(@Kurab_H)です.先生は X のスレッドにて,「専門家が書くからこそ内容にも信頼の持てる1冊」と評してくださいました.英語史を「英語が現在の姿にたどり着いた数々のドラマを垣間見る」分野としてご紹介され,本書で描かれるそのダイナミズムに注目していただきました.ありがとうございます.
また,言語学界隈や各種メディアで絶大な影響力をもつ方々からの推薦も,本書の船出にとって大変に大きな力となっています.人気 YouTube チャンネル「ゆる言語学ラジオ」のスピーカーである水野太貴さん(@yuru_mizuno) からは,「とりあえず there 構文の箇所を読んだのだが、英語史的な話以外に情報構造に関する解説もあった。ありがたい。」という,情報構造に着目したコメントをいただきました.さらに,『ある言語学者の事件簿』の著者である静岡理工科大学の谷口ジョイ先生 (@JoyTaniguchi) からは,「おもしろすぎて一気読み!社会言語学者としては、特に後半の話題を夢中で読んでしまいました」「ゼミでも読みます!」との過分なエールをいただきました.
このようなコメントによって,英語史に馴染みのない多くの「お茶の間」の読者にも,英文法の謎解きのおもしろさが届くことを期待しています.
そして,著者として何よりも嬉しいのは,日頃から英語史を広める活動(hel活)を共に行なっている英語史・中世英語英文学の研究者仲間からの温かいコメントです.上智大学の小河舜さん (@scunogawa) からは,「刊行まで残り1週間。心から楽しみです。」という心強い応援をいただきました.また,立命館大学の岡本広毅さん(@gouernourofgyng) は,「〈3単現のS〉サンタンゲン これはもはや共通言語」とのキラーフレーズで本書の核心を突いてくださいました.さらに,『英文解体新書』などの著者である北村一真先生 (@Kazuma_Kitamura) からも,「非常に明快で、講義を聞いているような感覚で読める」という嬉しい評価をいただいています.
また,応援第1号コメントをくださった翻訳・字幕の専門家である天野優未さん (@unt_yumi) には,「言語学を全然知らなかったり、英語に苦手意識がある方にもお勧めできる一般書」とおっしゃっていただきました.本書の最大の挑戦は,英語史の専門的な知見を活かしつつも,一般の読者や英語に苦手意識のある方々に向けていかにアクセシブルに書くか,という点でしたので,その狙いを多くの方々に汲み取っていただけたことは,無上の喜びです.
本日この場で紹介できたキラーフレーズは,ここ数日の間にSNS上で寄せられたメッセージの一部にすぎません.上記公式HPでは,このような応援者からのコメントをはじめ,NHK 出版デジタルマガジンで読める第1章第5節や「はじめに」の先行公開リンク,さらには投票総数96件を集めた「『なぜさんたんげん』24の疑問・総選挙」の最終結果にいたるまで,本書に関するあらゆる情報をワンストップで取りまとめて公開しています.本書発売前でも楽しんでいただけるHPに仕上がっていますので,ぜひ『なぜさんたんげん』著者公式HPをご訪問いただき,発売日に向けたお祭りの熱気をリアルタイムで体感していただければ幸いです.引き続き,特典付き(書き下ろし1節分)の Amazon からの予約注文のほど,どうぞよろしくお願いいたします.
・ 堀田 隆一 『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』 NHK出版〈NHK出版新書〉,2026年.
昨日の記事「#6236.heldio 5周年 --- データで振り返る heldio の進化」 ([2026-06-03-1]) に続いて,5月28日時点での Voicy のアナリティクスに基づく記事をお届けします.一昨日2026年6月2日は,heldio 5周年記念日であると同時に,実は helwa 3周年記念日でもありました.Voicy heldio 開始からちょうど2年目に当たる日に,プレミアムリスナー限定配信チャンネル「英語史の輪 (helwa)」を開始したのでした.
helwa は週2回ベースで配信を始めましたが,途中から週3回ペースとなり今に至ります.3年間で積み上げてきた helwa の配信数は,449本に達しました.冷静に考えると,これはなかなか異常なペースです.普通の有料コミュニティであれば,数十本の限定雑談や月1回のイベント程度で終わることも多いかと思いますが,helwa は heldio とは異なるもう1つの英語史コミュニティへと成長してきました.
当初は,これほどニッチな学術分野で有料チャンネルを始めて本当に人が集まるのか,どのような雰囲気の場になるのか,大きな不安があったのも事実です.しかし,蓋を開けてみればそこは heldio 通常回の特典音源の置き場ではなく,日常的な英語史雑談,Discord 上での交流,オフ会ルポ,書籍の共同企画,学会の裏話など,多岐にわたる談義が繰り広げられる「英語史サロン」へと発展していきました.そして,helwa リスナーを増やすことを主目的とするのではなく,英語史を一緒に楽しむ仲間を作ることが最重要視される,そのような空間に育ってきたのです.
この3年間における最大の成果の1つは,音声配信チャンネルというオンラインの枠を飛び出し,オフ会や「英語史ライヴ」など,現実のコミュニティが実現したことでしょう.泊まりがけのオフ会も複数回開催され,その熱気はこのコミュニティから生まれた月刊ウェブマガジン Helvillian などで熱くレポートされています.英語史という実利の外側にある学問が,学生,社会人,教員といった幅広い層の垣根を越えて,純粋な大人の「居場所」となったことは,きわめて感慨深いことです.
しかし,helwa がもたらした最大の変革は,「英語史が雑談になった」という点に尽きるかもしれません.本来,英語史は大学の講義室や専門論文のなかに閉じ込められた世界でした.それがこのコミュニティでは,「その語源おもしろい」「その発音変化わかる」「それ英語史的な発想だよね」といった言葉が日常的に交わされています.オフ会での乾杯の挨拶もすっかり古英語の Wes hal! に定着しています.英語史が一部の専門家だけのものではなく,コミュニティの皆さんの間で一種の「生活言語」として根付いているといったらよいでしょうか.
常連文化,内輪ネタ,定番フレーズが自然発生するその空気感は,深夜ラジオ共同体にかなり近いものがあるように思っています.「英語史」という硬派なテーマなのに,やっていることは深夜ラジオというギャップが,何ともおもしろいところです.また,リスナーの皆さんが単なる受信者にとどまらず,コメントや note や SNS を利用した発信者となってhel活を推進し,英語史エコシステムを想像している点も,helwa の本質といえます.
英語史研究者としては「英語史って,本来こんなふうにワイワイ雑談する分野じゃなかったんですよ(笑)」と,嬉しい悲鳴を上げたいです.この helwa という舞台裏の熱量とエネルギー源があるからこそ,表舞台である heldio の5年間にわたる毎日更新も維持されてきたと思っています.3年間で醸成されたこの愛すべきニッチ共同体の文化を,今後もさらにディープに,そして楽しく発展させていきたいと考えています.
新たな月となりました.heldio リスナーの皆さんにおかれましては,heldio 5周年かつ helwa 3周年の機会に,ぜひ「英語史の輪 (helwa)」へご入会ください.helwa は毎週火木土の午後6時に配信しています.月額800円のサブスクで,初月無料サービスがありますので,まず試しにお入りいただければ.今月は helwa では『なぜさんたんげん』の裏話が多くなるはずです.
一昨日の helwa 「【英語史の輪 #0453】helwa 3周年 --- 英語史エコシステムが完成した」を,ぜひお聴きください.
昨日2026年6月2日,Voicy チャンネル「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」は,おかげさまで5周年を迎えることになりました.丸5年間,毎日マイクやレコーダーに向かって英語史を語り続けてきたことになりますが,この機会に Voicy のアナリティクスから抽出されたデータを皆さんと共有しつつ,この5年間の heldio の進化を振り返ってみたいと思います.アナリティクスは5月28日時点のデータを用いています.
まず配信回数ですが,5年間で2,340本を配信してきました.これは毎朝6時の heldio 通常配信のほか,生配信や特別配信,そしてプレミアムリスナー限定配信チャンネル「英語史の輪 (helwa)」の配信を加えた総数です.我ながら,英語史という単一テーマで,よく持ったと思います.単なる毎日更新にとどまらず,英語史というニッチな学術分野において,これだけの高頻度で5年間メディアが回り続けたというのは,リスナーの皆さんにとっても「え,そんな本数だったの!?」と驚かれるのではないでしょうか.
では,リスナーの皆さんにとって,heldio への「入口」となったのはどのような回だったのでしょうか.歴代の総再生回数および新規リスナー獲得数のランキングを見てみると,きわめて一貫した heldio の原点が見えてくるように思われます.
不動の歴代1位に君臨しているのは,記念すべき初回配信である「#1. なぜ A pen なのに AN apple なの?」(合計リスナー3,104人,新規獲得1,757人)です.これは完全に他を圧倒する入口回となっています.ここで重要なのは,この回が扱っているテーマが a/an の使い分けという,中学1年生で習う初歩的で素朴な疑問である点です.ここから分かるのは,heldio の原点がハードルの高い専門知識の講義ではなく,誰もが抱く学校英語への違和感や日常の小さな謎に寄り添う姿勢だったということです.
もう1つの興味深いデータとして,2022年の「#408. 自己紹介:英語史研究者の堀田隆一です」(新規995人)と,2024年の「#1171. 自己紹介 --- 英語史研究者の堀田隆一です」(新規989人)という,2回の自己紹介回がどちらもヒットしている現象が挙げられます.リスナーさんの関心が,英語史そのものだけでなく,それを語っているパーソナリティにも向いているものと理解してよいのでしょうか.その辺りが謎ではあります.
また,外部コミュニティとの接続という点では,人気 YouTube チャンネル「ゆる言語学ラジオ」さんにお招きいただいた際の 「#705. ゆる言語学ラジオにお招きいただき初めて出演することに!」(新規609人)が爆発的な流入を生みました.「英語史をお茶の間に」というモットーが,専門界隈の外へと届いた象徴的な瞬間でした.さらに,純粋な歴史の話題だけでなく,「#729. なぜ英語を学ばなければならないの?」(新規558人)のように,英語教育や現代人の英語観を照らす類いの話題も,強い新規流入を呼び込んでいます.トップに近い配信回を眺めまわしてみると,結局のところ違和感を共有する「英語に関する素朴な疑問」(sobokunagimon)が核であったことが示されています.
一方で,年別の平均リスナー数の推移を見ると,数字の上では減少傾向にあるように見えます.これには様々な原因があると思いますが,Voicy と同一のコンテンツを,他の音声配信プラットフォームでも配信し始めたので,Voicy 単独でのリスナー数が減ったということが大きいように思われます.もう1つは,リスナー集団の中心がライト層からコア層へシフトしてきたようにも感じます.リスナー数が減少した分,チャンネルが成熟していったのではないかと私は分析しています.
実際に現在のアナリティクスによれば,「とても熱心なリスナー」が72.7%,「熱心なリスナー」が7.9%を占めており,全体の約8割が濃いリスナーを占める,そのようなチャンネルへと進化しています.そして,この超コア化・定着化を支える巨大な「地下アーカイブ」となっているのが,3年間で449本を積み上げてきた「英語史の輪 (helwa)」の存在です.ここでは,日常的な英語史談義,Discord 上での交流,オフ会報告,コアな研究雑談などが蓄積され,単なる有料配信メンバーの集団という以上の濃いコミュニティが形成されています.
リスナーさんたちの属性分析からも,heldio の独特な受容スタイルが浮かび上がってきます.まず,男女比が男性45.9%,女性43.8%(無回答10.2%)と,ほぼ五分五分で均衡しています.一般に,語学学習系番組は女性に偏りやすく,IT・学術雑談系は男性に偏りやすい傾向がありますが,heldio はその中間に位置しています.大人の知的雑談メディアとしてバランスよく受け入れられているものと考えています.
年齢層を見ると,30代が24.3%,40代が25.5%,50代が23.1%となっており,実に大人の30--50代で全体の約73%を占めています.まさに「学び直し」や通勤・家事の合間の知的時間を求める成熟したリスナー層です.さらに職業分布では,会社員が46.3%,自営業が12.5%を占め,英語教員や学生といった層だけでなく,実務の外側にある純粋な知的好奇心として英語史を楽しんでいる一般のビジネスパーソンが圧倒的多数派のようです.
さらに国内での地域的な広がりを見ると,東京が38.9%と最大ですが,大阪6.7%,神奈川6.0%,千葉3.9%,北海道3.6%と続き,全国(さらには海外)に薄く広く分散しています.大学の講義室であれば物理的な制約がありますが,インターネットの音声配信という特性を活かし,英語史の地方分散化が数字として実現しているのは,興味深いファクトです.
これらすべてのデータを総括するならば,この5年間は,「マスメディア的なリスナー数の拡大」ではなく「英語史に関心を寄せるリスナーの着実な増加」を示す時間だった,ということです.実利的な英語スキルのためではなく,「英語っておもしろい」「言葉って不思議だな」という感覚を共有し,英語について雑談する文化圏・公共圏がここに誕生したのです.
大学の研究者が専門分野を掲げてこのようなコミュニティを形成できたことは,稀な事例ではないかと思っています.これまで heldio を支え,一緒に知的な遊び場を作ってくださったリスナーの皆さんに,改めて心より感謝申し上げます.
これからも heldio は様々な進化を遂げていくものと思われます.直近では,今月6月10日発売予定の近刊 『英語史で解く英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』(NHK出版新書)をめぐるお祭り企画やイベントも目白押しです.
新たな月となりましたし,heldio 5周年のこの機会に,Voicy プレミアムリスナー限定配信チャンネル「英語史の輪 (helwa)」への入会もぜひご検討ください.helwa は毎週火木土の午後6時に配信しています.月額800円のサブスクで,初月無料サービスがありますので,まず試しに覗いてみていただければ.今月は helwa でも『なぜさんたんげん』の話題が多くなるだろうと思います.
昨日の heldio 「#1829. heldio 5周年 --- データで振り返る heldio の進化」もお聴きいただければ.それでは,明日もいつも通り,朝6時に heldio でお会いしましょう.

近刊『なぜさんたんげん』について,様々なメディア,プラットフォームよりコンテンツを発信しており,関連情報が散在してしまっているので,それらをまとめるべく『なぜさんたんげん』著者公式HPを作成し,公開しました.
さて,件の近刊ですが,正式な書名は『英語語源で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』(NHK出版新書)となります.発売日は今月の10日(水)で,あと8日となっています.発売前の Amazon 予約では,書き下ろし1節分の特典が付きますので,ぜひお早めにご予約ください.https://amzn.to/4tf4K5k
このたび公開しました『なぜさんたんげん』著者公式HPは,これまでの本書に関連するコンテンツをすべて1箇所に集約した「総合案内所」のような役割を目指して作りました.見どころとしては,NHK出版デジタルマガジンで無料公開が始まった「はじめに」などへの直接リンクのほか,これまで hellog, heldio, helnote (note),heltube (YouTube) などで発信してきた関連コンテンツを一覧できるように整理してあります.今後,読者による感想やレビューなどの情報も随時こちらへ追加・集約していく予定ですので,どうぞお楽しみに.
ここで1つ,昨日胸が熱くなる嬉しかった出来事を報告させてください.倉林秀男先生(杏林大学)へ出来たての見本本を謹呈したところ,早速 X(旧 Twitter)でのポストにて,温かいコメントをいただいたのです.先生からは,There 構文や時・条件の副詞節の現在形,そして3単現の s など,英語史の「美味しいところ」が盛りだくさんだと評していただいたばかりか「専門用語を殆ど用いずに説明されているのは,流石」との力強いお言葉までいただきました.ヒット書籍の著者であられる倉林先生から,本書の狙いを評価していただけたことは,著者として深い感謝と感動の念に堪えません.
発売10日前となる一昨日より,私は滞在先のスコットランド・アバディーンの地から,日々の美しい風景や現地レポートを交えた「1~2分のカウントダウン動画」を YouTube および X にて毎日配信しています.ノー編集,一発撮りならではの,著者の生々しいリアルな熱量をお届けできればと思っています.
すでに「よし,この本を読むぞ」と決意が固まっている読者の方におかれましては,迷わず今すぐ Amazon の予約注文ページ] より1クリックでご予約(特典付き)いただけますと大変に心強いです.
「もっと本書について知りたい」「これまでの情報を一気に確認したい」という方は,まずは本日公開した『なぜさんたんげん』著者公式HPをじっくりとご覧いただき,一読に値する書籍かどうかをご検討ください.
発売前にも後にも,関連コンテンツやリンクを著者公式HPに積極的に追加していきますので,ぜひこのたび公開した新HPをお気に入りにご登録ください.
・ 堀田 隆一 『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』 NHK出版〈NHK出版新書〉,2026年.
連日,6月10日に発売予定の新書『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』(NHK出版)に関連する記事を書いています.
今回は,NHK出版の本書担当編集者と著者が heldio で対談した様子をお伝えしたいと思います.発売前に,二人三脚で本を作ってきた編集者と著者が語り合う様子が公開されるというのも珍しいかと思います.これまで2回にわたって対談してきました.
・ 第1回対談(5月13日配信),「#1809. 一昨日の『なぜさんたんげん』予約爆撃アワー生配信をアーカイヴでお届け」(対談自体は終わりの30分ほどをお聴きください)
・ 第2回対談(5月30日配信),「#1826. 『なぜさんたんげん』の裏側をお話しします --- NHK出版編集者・田中菜乃香さんとの対談 Part 2」
今回は,直近に配信された第2回対談の主旨をご紹介します.
対談の大きな柱となったのは,本書のタイトル決定に至るまでの長い舞台裏です.5月11日の「予約爆撃アワー企画」の初速や Amazon での好調な動き,またNHK出版デジタルマガジンでの第1章第5節(まさに「なぜ3単現の s をつけるのか」の目玉の節)の先行無料公開が3万ページビューを突破したことなど,発売前の大きな反響を喜びつつ,その魅力の根源がタイトル周りの議論にあったことを振り返りました.
実は,タイトルが最終的に決まったのは3月末から4月初めという,かなりギリギリのタイミングであり,そこに至るまでには数百通りもの組み合わせを検討するプロセスがありました.編集の田中さんは,手探りだった本文の調整以上にタイトル周りで「自分を信じられるか」という疑心暗鬼に陥った瞬間があったと明かしてくれました.とりわけ,一時はタイトルから「3単現の s」という文言そのものを消去しようとした段階すらあった旨,触れられています.それは「サブタイトルに説明を付け足すのは長さに甘えているのではないか」という葛藤から生じた迷いでしたが,編集者と著者の間では盛り上がっていた意見に対して,社内の経験豊富な先輩たちのノウハウや蓄積に基づく異なる案が潤滑剤として加わったことで,最終的に現在の形に落ち着きました.このプロセスを通じて,この本を本当に必要としている層の読者は,自分に必要なのが「英語史」であるとは気づいていない,という原点に立ち返ることができたのは,編集者および著者にとって非常に大きな成果でした.
また,本書のもう1つの魅力として,文体調整と用語解説へのこだわりが挙げられます.中高生向けの連載をベースとしつつも,新書という大人向けのジャンルに仕立て直すにあたり,ある程度の専門用語もあえて交えるという挑戦を試みました.ただし,専門知識がない読者でも自然と読み進められるよう,丁寧な言い換え表現や解説は加えてあります.読者の代表としての編集者目線と,伝えたい熱意が先走りがちな著者・研究者目線という,2つのプロフェッショナルな視点が火花を散らしつつも,最終的に融合したからこそ,今回の形にこぎつけることができたのだと,改めて実感させられる対談となりました.
以上が第2回対談の概要となりますが,第1回・第2回ともに,ぜひ上記の音声配信を直接お聴きいただければと思います.編集者と著者の息づかいが伝わるかと思います.
近日中に対談の続編をお届けする予定ですので,どうぞお楽しみに.
・ 堀田 隆一 『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』 NHK出版〈NHK出版新書〉,2026年.
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最終更新時間: 2026-06-22 18:16
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