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非人称動詞 (impersonal_verb) の methinks については「#4308. 現代に残る非人称動詞 methinks」 ([2021-02-11-1]),「#204. 非人称構文」 ([2009-11-17-1]) などで触れてきた.非人称構文 (impersonal construction) では人称主語が現われないが,文法上その文で用いられている非人称動詞はあたかも3人称単数主語の存在を前提としているかのような屈折語尾をとる.つまり,大多数の用例にみられるように,直説法単数であれば,-s (古くは -eth) をとるということになる.
ところが,用例を眺めていると,-s などの子音語尾を取らないものが散見される.Wischer (362) が,Helsinki Corpus から拾った中英語の興味深い例文をいくつか示しているので,それを少々改変して提示しよう.
(10) þe þincheð þat he ne mihte his sinne forlete.
'It seems to you that he might not relinquish his sin.'
(MX/1 Ir Hom Trin 12, 73)
(11) Thy wombe is waxen grete, thynke me.
'Your womb has grown big. You seem to be pregnant.'
(M4 XX Myst York 119)
(12) My lord me thynketh / my lady here hath saide to you trouthe and gyuen yow good counseyl [...]
(M4 Ni Fict Reynard 54)
(13) I se on the firmament, Me thynk, the seven starnes.
(M4 XX Myst Town 25)
子音語尾を伴っている普通の例が (10) と (12),伴っていない例外的なものが (11) と (13) である.(11) では論理上の主語に相当する与格代名詞 me が後置されており,それと語尾の欠如が関係しているかとも疑われたが,(13) では Me が前置されているので,そういうことでもなさそうだ.OED の methinks, v. からも子音語尾を伴わない用例が少なからず確認され,単純なエラーではないらしい.
では語尾欠如にはどのような背景があるのだろうか.1つには,人称構文の I think (当然ながら文法的 -s 語尾などはつかない)との間で混同が起こった可能性がある.もう1つヒントとなるのは,当該の動詞が,この動詞を含む節の外部にある名詞句に一致していると解釈できる例が現われることだ.OED で引用されている次の例文では,methink'st thou art . . . . というきわめて興味深い事例が確認される.
a1616 Meethink'st thou art a generall offence, and euery man shold beate thee. (W. Shakespeare, All's Well that ends Well (1623) ii. iii. 251)
さらに,動詞の過去形は3単「現」語尾をとるはずがないので,この動詞の形態は事実上 methought に限定されそうだが,実際には現在形からの類推 (analogy) に基づく形態とおぼしき methoughts も,OED によるとやはり Shakespeare などに現われている.
どうも methinks は,動詞としてはきわめて周辺的なところに位置づけられる変わり者のようだ.中途半端な語彙化というべきか,むしろ行き過ぎた語彙化というべきか,分類するのも難しい.
・ Wischer, Ilse. "Grammaticalization versus Lexicalization: 'Methinks' there is some confusion." Pathways of Change: Grammaticalization in English. Ed. Olga Fischer, Anette Rosenbach, and Dieter Stein. Amsterdam: John Benjamins, 2000. 355--70.
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最終更新時間: 2024-11-26 08:29
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