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今年5月に研究社より出版された斎藤浩一(著)『日本の「英文法」ができるまで』を読んだ.古代のギリシア語文法から始まり,ラテン語文法に受け継がれ,西洋諸言語に展開し,幕末・明治期に日本にやってきた,2500年に及ぶ(英)文法研究の流れを一望できる好著である.
本書第1章の最初のページに「日本の「学習英文法」には,じつに2500年余りにも及ぶ長大な言語分析の伝統が盛り込まれている」 (p. 8) とあり,次のような見取り図が示されている.あまりに適切で,核心を突いており,分かりやすくて感動してしまった.
【古代】ギリシア語文法
≪ローマ帝国,カトリック教会の興隆≫
【(古代~)中世】ラテン語文法
≪宗教改革≫
【16~18世紀】英文法
≪19世紀イギリスのアジア進出≫
【19~20世紀】日本の「学習英文法」
≪ ≫に囲まれている語句は,時代を動かした「媒介項」を表わしているという.英文法史のエッセンスを,ここまで端的に(7行で!)大づかみにした図はみたことがない.見事な要約力.
古代ギリシア語文法からラテン語文法を経て,初期近代のヴァナキュラーとしての英文法を模索する時代に至るまでの歴史(日本における「学習英文法」に注目する本書の観点からみると「前史」)については,hellog でも様々に記事を書いてきた.とりわけ古典語との関連では,次のような話題を提供してきたので,関心のある方はぜひ以下をどうぞ.
・ 「#664. littera, figura, potestas」 ([2011-02-20-1])
・ 「#892. 文法の父 Dionysius Thrax の形態論」 ([2011-10-06-1])
・ 「#1256. 西洋の品詞分類の歴史」 ([2012-10-04-1])
・ 「#1257. なぜ「対格」が "accusative case" なのか」 ([2012-10-05-1])
・ 「#1258. なぜ「他動詞」が "transitive verb" なのか」 ([2012-10-06-1])
本書では,英語学史の奥深さを堪能することができる.昨今,近代英語期に関しては英語史と英語学史の研究の融合も起こってきているので,ぜひこのトレンドをつかみたいところ.
・ 斎藤 浩一 『日本の「英文法」ができるまで』 研究社,2022年.
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最終更新時間: 2024-10-26 09:48
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