連日,斎藤浩一著『日本の「英文法」ができるまで』を引用・参照している.
日本の「学習英文法」を完成させ「日本英学界の巨人」とも称される斎藤秀三郎 (1866--1929) の主著の1つに Practical English Grammar (1898--99) がある.斎藤英文法の重要な特徴の1つとして,形態論(品詞論や語形論とも)と統語論の垣根を取り払ったことがある.斎藤浩一 (110) より説明を引用する.
まず全体に関わることとして,伝統的な「品詞(語形)論」と「統語論」の区別が撤廃されたことが注目される.すなわち彼自身の言葉を借りれば,'In learning a language so slightly inflected as English, the study of form should go hand in hand with that of meaning. There is no need of separating English Syntax from English Etymology. The student must know the use and meaning of the different forms' というのである(斎藤秀三郎 Practical English Lessons, No. 2 (Fourth Year) 訂正再版,1901年).
つまり斎藤は,英語の形式的特性に対する考慮から,従来の体系を支配していた「縦割り」の組織を廃し,新たに「形式」 ('form') と「意味」 ('meaning') にもとづく記号の体系として横断的に文法事象を捉えていたのである.
「#4917. 2500年に及ぶ「学習英文法」の水脈 --- 斎藤浩一(著)『日本の「英文法」ができるまで』より」 ([2022-10-13-1]) で確認したように,日本における英文法の伝統は,究極的には西洋のギリシア語やラテン語の文法論に遡る.これらの西洋古典語は屈折語であるから,その文法論は当然ながら形態論に大きく依拠するものであった.一方,近代以降の英語は屈折語としての性質を大幅に失い,主として統語論に依存する文法をもつに至っていたが,それにもかかわらず文法論は形態論に重きを置く伝統にしがみついてきたために,何ともチグハグな英文法論が築かれる始末となった.
この点を鋭く見抜き,なんとなれば形態論と統語論の区別など無用にしてしまおうと言い放ったのが,日本人である斎藤秀三郎だったわけだ.なかなか痛快な話しではないか.
・ 斎藤 浩一 『日本の「英文法」ができるまで』 研究社,2022年.
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