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「#2743. 貨幣と言語」 ([2016-10-30-1]),「#2746. 貨幣と言語 (2)」 ([2016-11-02-1]),「#2755. 貨幣と言語 (3)」 ([2016-11-11-1]) に続き,5年振りに取り上げる話題.立川・山田の『現代言語論』より,フランスの哲学者 Jean-Joseph Goux の「言語と貨幣の生成プロセス」に関する解説 (68--73) を再読した.
貨幣は経済において「交換のシステム」の主役となる.交換が成立するためには何らかの「等価性」「同一性」が必要であり,貨幣がそのための「一般等価物」の役割を果たしていると考えられる.Goux は「一般等価物」創出のメカニズムは,貨幣経済のみならず人間が作り出す象徴秩序を構成するすべての交換システムにみられるものとみなす.これを人間側の能力に引きつけて言い換えれば,人間には「象徴化能力」という特異な能力がある,ということになる.それは「現実に存在するありとあらゆる差異・変化のなかから『不変のもの』,『同一のもの』を取り出す能力」 (71) のことである.経済的にはそれは貨幣として現われるが,性的には男根中心主義として,政治的には君主制として,宗教的には一神教として現われるという.いずれも抑圧的なシステムであるという共通点がある.
ここまでくれば,同じことが言語にも当てはまるだろうと予想することは難しくない.Goux は,言語をもう1つの人間の「交換のシステム」の主役とみなしている.具体的にいえば,ロゴス中心主義のシステムを媒介していると考えている.Goux にとって,言語記号とは現実を代行=再現するためのシステムを構成する抑圧的な要素なのである.
確かに,貨幣も言語も,社会生活において実用的には便利だが,同時に何かしら抑圧をも感じさせる厄介な代物である.本質として,差異と多様性を押しつぶす方向性をもっているからだろう.一方で,差異と多様性だけを追い求めていったら共用具としては役に立たなくなることも,すぐに分かる.貨幣と言語は,この二面性においても類似している.
上の議論は,言語に相矛盾する2つの方向性があることを思い出させてくれる.話者集団間での mutual intelligibility を目指す方向性と,個々の話者の identity marker として機能する方向性である.
・ 立川 健二・山田 広昭 『現代言語論』 新曜社,1990年.
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最終更新時間: 2024-12-16 08:44
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