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新型コロナウィルス (COVID-19) が世界中で大流行しています.一刻も早く事態が終息することを願っています.英語史ブログ運営者としては,この時節に及んで中世ヨーロッパにもたらされた災禍である黒死病 (black_death) に触れないわけにはいきません.あえてこの話題を取り上げる次第です.
とはいえ,新しいことは何もありません.本ブログでは,英語史における黒死病の意義についてすでに多くの記事で検討してきました.以下にリンクを張りましたので,ぜひ関連する記事をご一読ください.とりわけお薦めは「#3058. 「英語史における黒死病の意義」のまとめスライド」 ([2017-09-10-1]) です.これは,2017年9月2日に朝日カルチャーセンター新宿教室で開いた「講座 歴史の動きと英語の変化」の第3回として「黒死病と英語」の題目の下で話した内容にもとづいています.エッセンスのみを記載していますが,ポイントは押さえているはずです.
・ 「#119. 英語を世界語にしたのはクマネズミか!?」 ([2009-08-24-1])
・ 「#139. 黒死病と英語復権の関係について再々考」 ([2009-09-13-1])
・ 「#144. 隔離は40日」 ([2009-09-18-1])
・ 「#1206. 中世イングランドにおける英語による教育の始まり」 ([2012-08-15-1])
・ 「#2990. Black Death」 ([2017-07-04-1])
・ 「#3053. 黒死病により農奴制から自由農民制へ」 ([2017-09-05-1])
・ 「#3054. 黒死病による社会の流動化と諸方言の水平化」 ([2017-09-06-1])
・ 「#3055. 黒死病による聖職者の大量死」 ([2017-09-07-1])
・ 「#3056. 黒死病による人口減少と技術革新」 ([2017-09-08-1])
・ 「#3057. "The Pardoner's Tale" にみる黒死病」 ([2017-09-09-1])
・ 「#3058. 「英語史における黒死病の意義」のまとめスライド」 ([2017-09-10-1])
・ 「#3061. 誤用と正用という観念の発現について」 ([2017-09-13-1])
・ 「#3062. 1665年のペストに関する Samuel Pepys の記録」 ([2017-09-14-1])
・ 「#3065. 都市化,疫病,言語交替」 ([2017-09-17-1])
・ 「#3196. 中英語期の主要な出来事の年表」 ([2018-01-26-1])
・ 「#3212. 黒死病,死の舞踏,memento mori」 ([2018-02-11-1])
・ 「#3780. Foley による「標準英語の発展」の記述」 ([2019-09-02-1])
1348年に初めてイギリスに飛び火した黒死病は,1066年のノルマン征服により下落していた英語の地位を回復するのにあずかって大きかったとするのが英語史の通説です.逆にいえば,もし黒死病が起こらなかったらば,英語は近代の入り口までにイングランドの国語としての地位を回復できなかった,あるいは回復したとしてももっと遅かっただろうという結論になります.さらに想像力をたくましくすれば,後の英語の世界的展開もなかった,あるいは遅れた,あるいは異なる形をとっていた,ということにもなり得ます.そうであれば,読者の皆さんも英語など学んでいなかったかもしれませんし,この英語史ブログも存在しなかったかもしれません.
上記の通説は英語史の一面を正しくとらえた説であると私も考えています.一方で黒死病の流行は世界史上著名な事件としてあまりによく知られているだけに,その効果や意義が過大評価されやすいという側面もあるのではないかと(自戒を込めて)考えています.英語復権 (reestablishment_of_english) の歩みは,ノルマン征服直後より始まっており,その後ゆっくりとではあるものの着実に進んでいたというのが歴史的事実です.黒死病はそのような従来の緩慢な傾向に,14世紀半ばというタイミングで拍車をかけたということでしょう.黒死病は英語の復権に一役買ったとはいえ,あくまで多数の要因の1つだったという解釈が妥当でしょう.
では,その他の多数の要因とは何でしょうか.これについては,英語の復権に関する reestablishment_of_english の記事群を読んでいただければと思います.そのなかでとりわけ重要な記事にのみ,以下にリンクを張っておきます.
・ 「#131. 英語の復権」 ([2009-09-05-1])
・ 「#138. 黒死病と英語復権の関係について再考」 ([2009-09-12-1])
・ 「#139. 黒死病と英語復権の関係について再々考」 ([2009-09-13-1])
・ 「#706. 14世紀,英語の復権は徐ろに」 ([2011-04-03-1])
・ 「#1207. 英語の書き言葉の復権」 ([2012-08-16-1])
・ 「#1821. フランス語の復権と英語の復権」 ([2014-04-22-1])
・ 「#2334. 英語の復権と議会の発展」 ([2015-09-17-1])
・ 「#3058. 「英語史における黒死病の意義」のまとめスライド」 ([2017-09-10-1])
・ 「#3894. 「英語復権にプラス・マイナスに貢献した要因」の議論がおもしろかった」 ([2019-12-25-1])
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最終更新時間: 2024-11-26 08:10
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