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hellog〜英語史ブログ / 2017-10-26

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2017-10-26 Thu

#3104. なぜ「ninth(ナインス)に e はないんす」かね? [numeral][spelling][spelling_pronunciation_gap][sobokunagimon]

 このしょうもない(?)ダジャレの標題は,こちらのツイートより.これは実に難問.ninth の綴字については,確かに私も昔から不思議に思っていたのだが,そのまま放って置いた問題ではある(このような例は潜在的に無数あるのではないかと思われる).このツイートを見てから少し調べてみたのだが,解決は簡単ではない.それでも,考えてみたことを書き記しておきたい.
 先に当面の結論を述べておくと,

 (1) ninth の形態は中英語以降の比較的新しい語形成の結果であり,
 (2) nine -- ninth の綴字の交替は five -- fifth と平行的と考えられ,
 (3) ninth の <-nth> は seventh, tenth, eleventh などからの類推によるものではないか,

ということだ.以下,それぞれについて述べたい.

 (1) まず考慮すべきは,ninth の語源だ.古英語で基数詞「9」は nigon,問題の序数詞「9番目の」は nigoð である.基数詞の語末の n は,序数詞では接尾辞 -ð の前で脱落しているが,これは seofoða, tēoða などと同様に規則的な音韻過程の結果である.ということは,現代英語の ninth, seventh, tenth などの序数詞の形態は,基数詞の形態をもとに,後から「作り直した」ものであることがわかる.古英語の形態は niȝeþe などとして中英語期にも受け継がれたが,一方で基数詞を範とした niȝonþe, ninthe なども形成され,1300年頃から用いられるようになった.MED によれば,当該語の見出しには次のような異綴りが確認される.

nīnthe (num.) Also nineth(e, neinthe, neinethe, neienthe, ninteth, nineinthe & niethe, nithe, neghed, (early) niȝethe, niȝothe, nigethe, nihethe, nihȝethe, noeȝthe, neiȝd, (infl.) niȝodan & niend, nind(e, neind, nend, neinind, neint, ninte, nent(e, nighend, neghend(e, neighend, neȝende, niȝente, neghent, nihend, neuent, (early) niȝende, niȝhende.


 これらの様々な異形がしばらく並存していたが,近代英語の16世紀になると,現代に連なる ninth が普通となっていく.このように,ninth の形態の発生も定着も,比較的遅咲きである.

 (2) 次に,基数詞 nine との関係を考える.古英語 nigon の形態から分かるとおり,もともと基数詞の語尾に <e> の綴字はなかった.中英語期に,語中の <g> で示される子音が母音化し,結果として長母音を示す nin などとなったが,ここでも <e> はなかった.しかし,これは無屈折の見出し語の形態における話である.数詞は形容詞の仲間であるから,当然,屈折した.複数屈折として nin に -e の語尾が付き nine などとなることは,fif に対する fife (> five) と同様に一般的であり,基数詞としてはこちらの形態がやがて定着した.しかし,序数詞に関しては,(1) で見たとおり,後からの「作り直し」だったわけだが,その範となったのは -e の付かない nin のほうだった.基数詞と序数詞の基体の異なりを説明するのは難しいが,1つには,ninnine が揺れを示していた時期に各々のスペリングが形成され,定着したという事情がありそうだ.
 もう1つの事情としては,「#1080. なぜ five の序数詞は fifth なのか?」 ([2012-04-11-1]) で論じた five -- fifth というペアとの平行性があるのではないか(『はじめての英語史』コンパニオン・サイトのリンク集の2.4節のところに張ったリンク等も参照).five -- fifthnine -- ninth を比べると分かるとおり,基数詞では複数屈折の -e を含む形態が採用されており,序数詞では -e を含まない形態に -th が接続している.もちろん,音韻的に考えれば fifth では(歴史的に短化したので)短母音を示し,ninth では2重母音を示すという重要な違いがあり,完全な平行性を主張することはできないが,綴字において比較されうる関係にあることは指摘できる.

 (3) 最後に,ninth の <-nth> は,seventh, tenth などの <-nth> からの類推によるものではないかとも考えられる.ninth を含めてこれらの <-nth> 序数詞の語末子音は近代英語まで [θ] のほか [ð] も行なわれていた(中尾,p. 383).このような音声的な振る舞いの共通性も,*nineth ではなく ninth を助長したのではないか.

 以上,必ずしも強力な説明とはなっていないようにも思われるが,理屈を立ててみた.参考までに,各種資料から抜き出した断片をメモとして残しておく.

ninth adj. About 1300 nynthe; developed from Old English nigonthe (nigon nine + -tha) (Barnhart)


ninish, ninth. The final -e of nine is not carried over into these two forms. (Burchfield)


ninth nainþ. ME. niȝonþe (XII), a new formation superseding OE. niġoþe. (Hoad)


ME. nyne, nine, Chaucer, C. T. 24. Here the final -e is the usual pl. ending, and nyne stands for an older form niȝene, extended form of niȝen . . . . (Skeat)


 ・ 中尾 俊夫 『英語史 II』 英語学大系第9巻 大修館書店,1972年.21頁.
 ・ Barnhart, Robert K. and Sol Steimetz, eds. The Barnhart Dictionary of Etymology. Bronxville, NY: The H. W. Wilson, 1988.
 ・ Burchfield, Robert, ed. Fowler's Modern English Usage. Rev. 3rd ed. Oxford: OUP, 1998.
 ・ Hoad, Terence Frederick, ed. The Concise Oxford Dictionary of English Etymology. Oxford: Clarendon, 1986.
 ・ Skeat, Walter William, ed. An Etymological Dictionary of the English Language. 4th ed. Oxford: Clarendon, 1910. 1st ed. 1879--82. 2nd ed. 1883.

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