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昨日の記事「#2579. 最初の英文法書 William Bullokar, Pamphlet for Grammar (1586)」 ([2016-05-19-1]) の話題と関連して,渡部 (68--69) が「近世初頭における国語に対する認識段階」を4つに整理している.その内容を要約しよう.
第1段階は国語に対する劣等感の時代であり,1561年まで続く.英語の語彙は貧弱で野蛮であり,英語でものを書くことはいまだ恥ずかしい所業であるとみなされていた.Gouernour (1531) を著わした Sir Thomas Elyot や Toxophilus (1545) の著者である Roger Ascham もこのグループに属する.
第2段階は1561--86年の四半世紀間であり,外来語の導入を含む様々な手段での語彙増強を通じて,英語が面目を一新した時期である.ここにきて英語に対する自信が見られるようになった.その典型は Sir Philip Sidney の An Apology for Poetrie (c. 1583) に見られ,そこでは英語が他の言語と比較してひけを取らないと述べられている.
第3段階は1585年頃から1650年までで,英語が語彙の点では「豊富」を得て,完全に自信を獲得したが,正書法と文法においてはまだ劣っていると考えられていた.Mulcaster や Bullokar がこのグループに属し,彼らは国語運動が一歩進んでいたイタリアやフランスを意識していた.目指していた英文法はラテン語文法に沿うものであり,ラテン語の権威を借りることによって英語をも高く見せようと企図していた.
第4段階は1650年以降で,英文法をラテン文法より独立させようという方向性が表われ出す.Wallis 以降,むしろラテン語離れを意識した独立した英文法書が目指されるようになる.
昨日取り上げた Bullokar による英語史上初の英文法書は,第3段階を代表するものだったといえるだろう.
初期近代英語期は,英語が国語としての自信を獲得し,ラテン語から自由になっていく過程であるが,それは近代の幕開けに繰り広げられた国家と言語の二人三脚の競技と言えるものだったのである.関連して,「#1407. 初期近代英語期の3つの問題」 ([2013-03-04-1]) を参照.
・ 渡部 昇一 『英語学史』 英語学大系第13巻,大修館書店,1975年.
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最終更新時間: 2024-11-26 08:10
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