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hellog〜英語史ブログ / 2016-05-29

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2016-05-29 Sun

#2589. 言語変化を駆動するのは形式か機能か (2) [language_change][causation][methodology][functionalism]

 「#2585. 言語変化を駆動するのは形式か機能か」に引き続き,この問題についての Samuels の考え方に迫りたい.Samuels (38) は,音変化の原因論に関して,音韻論上の機能的対立が変化を先導しているのか,あるいは調音上の形式的(機械的)な要因が変化を駆動しているのかと問いながら,次のような見解を示している.

. . . provided the potentiality for contrast exists, it is likely to be realised sooner or later, though the accident may be only one of many that could have given the same result; and the greater the potentiality for contrast, the sooner it is likely to be realised, i.e. the more inevitable and less accidental the phonemicisation actually is.


 ここでは,機能的要因が変化の潜在的受け皿として,形式的要因が変化の実際的な引き金として解されていることがわかる.前者は変化を引き寄せる要因,あるいはもっと弱くいえば,変化を受け入れる準備であり,後者は変化を実現させるきっかけである.後者は偶発的出来事 (accident) にすぎないと言及されているが,だからといって,Samuels は前者と比べて本質的に重要でないとは考えていないだろう.前回の記事で確認したように,Samuels は形式的要因のほうが機能的要因よりも本質的であるとか,重要であるとか,あるいはその逆であるとか,そのようなアプリオリの前提は完全に排しているからだ.言語変化には両側面が想定されるべきであり,受け皿と引き金の両方がなければ変化が生じないということは言うまでもない.いずれの側面が重要かと問うのはナンセンスだろう.
 似たような議論として,言語内的な要因と外的な要因はいずれが重要かという不毛な論争がある.「#1232. 言語変化は雨漏りである」 ([2012-09-10-1]),「#1233. 言語変化は風に倒される木である」 ([2012-09-11-1]) で取り上げた Aitchison からの例を借りて,言語変化を雨漏りや風に倒される木に喩えるならば,強い雨と老朽化した屋根の双方が,あるいは強風と弱った木の双方が,異なるレベルでともに変化の原因だろう.いずれがより本質的で重要な要因かと問うのはナンセンスである.言語変化の原因論では,常に multiple causation of language change を前提とすべきである.この問題については,ほかにも以下の記事を参照されたい.

 ・ 「#442. 言語変化の原因」 ([2010-07-13-1])
 ・ 「#443. 言語内的な要因と言語外的な要因はどちらが重要か?」 ([2010-07-14-1])
 ・ 「#1123. 言語変化の原因と歴史言語学」 ([2012-05-24-1])
 ・ 「#1173. 言語変化の必然と偶然」 ([2012-07-13-1])
 ・ 「#1282. コセリウによる3種類の異なる言語変化の原因」 ([2012-10-30-1])
 ・ 「#1582. 言語内的な要因と言語外的な要因はどちらが重要か? (2)」 ([2013-08-26-1])
 ・ 「#1584. 言語内的な要因と言語外的な要因はどちらが重要か? (3)」 ([2013-08-28-1])
 ・ 「#1977. 言語変化における言語接触の重要性 (1)」 ([2014-09-25-1])
 ・ 「#1978. 言語変化における言語接触の重要性 (2)」 ([2014-09-26-1])
 ・ 「#1986. 言語変化の multiple causation あるいは "synergy"」 ([2014-10-04-1])
 ・ 「#2143. 言語変化に「原因」はない」 ([2015-03-10-1])
 ・ 「#2151. 言語変化の原因の3層」 ([2015-03-18-1])
 ・ 「#1549. Why does language change? or Why do speakers change their language?」 ([2013-07-24-1])
 ・ 「#2123. 言語変化の切り口」 ([2015-02-18-1])
 ・ 「#2012. 言語変化研究で前提とすべき一般原則7点」 ([2014-10-30-1])
 ・ 「#1992. Milroy による言語外的要因への擁護」 ([2014-10-10-1])
 ・ 「#1993. Hickey による言語外的要因への慎重論」 ([2014-10-11-1])

 ・ Samuels, M. L. Linguistic Evolution with Special Reference to English. London: CUP, 1972.

Referrer (Inside): [2017-12-13-1] [2016-07-15-1]

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最終更新時間: 2024-11-26 08:10

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