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昨日の記事で「#1785. 言語権」 ([2014-03-17-1]) を扱い,関連する話題として言語の死については language_death の各記事で取り上げてきた.近年,welfare linguistics や ecolinguistics というような考え方が現れてきたことから,このような問題について人々の意識が高まってきていることが確認できるが,意外と気づかれていないのが,対応する方言権と方言の死の問題である.
「#1636. Serbian, Croatian, Bosnian」 ([2013-10-19-1]) その他の記事で,言語学的には言語と方言を厳密に区別することは不可能であることについて触れてきた.そうである以上,言語権と方言権,言語の死と方言の死は,本質的に同じ問題,一つの連続体の上にある問題と解釈しなければならない.しかし,一般には,よりグローバルな観点から言語権や言語の死には関心がある人々でも,ローカルな観点から方言権や方言の死に対して同程度の関心を示すことは少ない.本当は後者のほうが身近な話題であり,必要と思えばそのための活動にも携わりやすいはずであるにもかかわらずだ.Trudgill (195) は,この事実を鋭く指摘している.
Just as in the case of language death, so irrational, unfavourable attitudes towards vernacular, nonstandard varieties can lead to dialect death. This disturbing phenomenon is as much a part of the linguistic homogenization of the world --- especially perhaps in Europe --- as language death is. In many parts of the world, we are seeing less regional variation in language --- less and less dialect variation. / There are specific reasons, particularly in the context of Europe, to feel anxious about the effects of dialect death. This is especially so since there are many people who care a lot about language death but who couldn't care less about dialect death: in certain countries, the intelligentsia seem to be actively in favour of dialect death.
言語の死や方言の死については,致し方のない側面があることは否定できない.社会的に弱い立場に立たされている言語や方言が徐々に消失してゆき,言語的・方言的多様性が失われてゆくという現代世界の潮流そのものを,覆したり押しとどめたりすることは現実的には難しいだろう.淘汰の現実は歴然として存在する.しかし,存続している限りは,弱い立場の言語や方言,そしてその話者(集団)が差別されるようなことがあってはならず,言語選択は尊重されなければならない.逆に,強い立場の言語や方言に関しては,それを学ぶ機会こそ万人に開かれているべきだが,使用が強制されるようなことがあってはならない.上記の引用の後の議論で,Trudgill はここまでのことを主張しているのではないか.
・ Trudgill, Peter. Sociolinguistics: An Introduction to Language and Society. 4th ed. London: Penguin, 2000.
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最終更新時間: 2024-12-28 09:35
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