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hellog〜英語史ブログ / 2011-07-18

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2011-07-18 Mon

#812. The sooner the better [comparison][article][instrumental][interrogative_pronoun]

 昨日の記事「the + 比較級 + for/because」 ([2011-07-17-1]) の構文と関連して,標題の「the + 比較級, the + 比較級」の構文を取り上げないわけにはいかない.受験英語ではお馴染みの構文である.

 (1) The older we grow, the weaker our memory becomes.
 (2) It becomes (the) colder the higher you climb.
 (3) The more facts you've got at your fingertips, the more easy it is to persuade people.


 注意事項を挙げれば,通常は (1) のように用いられ「従属節, 主節」の順序になるが,(2) のように「主節, 従属節」の順にすることもできる.この場合,主節の the は省略可能である.また,(3) の the more easy のように,通常は more による迂言形をとらない語でも,この構文では more をとることがある.
 昨日の「the + 比較級 + for/because」構文の場合と同様に,本構文の the は両方とも古英語 se の具格形 (instrumental) に遡る.この構文で,前の The は "by how much" 「どれだけ」の意の関係副詞として,後の the は "by so much" 「それだけ」の意の指示副詞として機能しており,両者が呼応して「…すればするほどますます…」の意味を生み出している.OED の初例は,King Alfred の Pastoral Care (ca. 897) より.(中英語からの例は MED entry for "the (adv.)", 1. (c) を参照.)

Ðæt her ðy mara wisdom on londe wære, ðy we ma ȝeðeoda cuðon.


 古英語の具格の一用法に由来する副詞(関係副詞と指示副詞)としての the が現存しているというのはそれだけでも驚きである.現代英語でかつての具格の機能を体現している語は他にはない.いや,1つだけ why がある.why は機能ばかりか形態もかつての具格の痕跡を残しており,まさに化石中の化石である.[2009-06-18-1]の記事「『5W1H』ならぬ『6H』」で古英語の疑問代名詞の屈折表を見たが,whywho に相当する語の中性具格形にすぎない.「何によって,何で」から「なぜ」の意味が生じた.
 今回扱っている「the + 比較級, the + 比較級」構文が生きた化石と考えられるのは,指示詞の具格が生き残っているからばかりではない.接続詞(関係副詞)と指示詞が呼応する構文は,"when . . . (then)", "where . . . (there)", "if . . . (then)", "although . . . (yet)" など現代英語にも数種類あるが,接続詞側と指示詞側に同じ語を用いるのは,the 以外にはない.古英語では þā . . . þā . . . "when . . ., (then)" や þǣr . . . þǣr . . . "where . . ., (there)" など,両方に同じ語の用いられる例が他にあったことを考えれば,「the + 比較級, the + 比較級」構文は改めて珍奇な化石なのである.

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