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昨日「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」の第28弾が公開されました.「堀田隆一の新刊で語る,ことばの「標準化」【井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル # 28 】」です.
私も編著者の一人として関わった近刊書『言語の標準化を考える --- 日中英独仏「対照言語史」の試み』について YouTube 上で紹介させていただきました.hellog,および Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」でも,この数日間で紹介していますので,そちらへのリンクも張っておきます.
・ hellog 「#4776. 初の対照言語史の本が出版されました 『言語の標準化を考える --- 日中英独仏「対照言語史」の試み』」 ([2022-05-25-1])
・ heldio 「#361. 『言語の標準化を考える --- 日中英独仏「対照言語史」の試み』の読みどころ」
・ heldio 「#363. 『言語の標準化を考える』より英語標準化の2本の論考を紹介します」
本書の最大の特徴は,共同執筆者の各々が,それぞれの論考に対して脚注を利用してコメントを書き合っていることです.各執筆者が自らの論考を発表して終わりではなく,自らが専門とする言語の歴史の観点から,異なる言語の歴史に対して一言,二言を加えていくという趣旨です.カジュアルにいえば「執筆者間の多方向ツッコミ」ということです.この実験的な試みは,本書で提案している「対照言語史」 (contrastive_language_history) のアプローチを体現する企画といえます.上記 YouTube では「(脚注)でツッコミを入れるスタイル」としてテロップで紹介しています(笑).
具体的にはどのようなツッコミが行なわれているのか,本書から一部引用してみます.まず,田中牧郎氏による日本語標準化に関する論考「第5章 書きことばの変遷と言文一致」より,言文一致の定義ととらえられる「書きことばの文体が,文語体から口語体に交替する出来事」という箇所に対して,私が英語史の立場から次のようなツッコミを入れています (p. 82) .
【英語史・堀田】 17世紀後半のイングランドの事情と比較される.当時,真面目な文章の書かれる媒介が,ラテン語(日本語の文脈での文語体に比せられる)から英語(同じく口語体に比せられる)へと切り替わりつつあった.たとえば,アイザック・ニュートン (1647--1727) は,1687年に Philosophiae Naturalis Principia Mathematica 『プリンキピア』をラテン語で書いたが,1704年には Optiks 『光学』を英語で著した.この状況は当時の知識人に等しく当てはまり,日英語で比較可能な点である.もっとも日本の場合には同一言語の2変種の問題であるのに対して,イングランドの場合にはラテン語と英語という2言語の問題であり,直接比較することはできないように思われるかもしれないが,二つの言語変種が果たす社会的機能という観点からは十分に比較しうる.
一方,私自身の英語標準化に関する論考「第6章 英語史における『標準化サイクル』」における3つの標準化の波という概念に対して,ドイツ語史を専門とする高田博行氏が,次の非常に示唆的なツッコミを入れていてます (p 107) .
【ドイツ語史・高田】 ドイツ語史の場合も,同種の三つの標準化の波を想定することが可能ではある.第1は,騎士・宮廷文学(1170~1250年)を書き表した中高ドイツ語で,これにはある程度の超地域性があった.しかし,この詩人語がその後に受け継がれはせず,14世紀以降に都市生活において公的文書がドイツ語で書き留められ,さらにルターを経て18世紀後半にドイツ語文章語の標準化が完結する.これが第2波といえる.第3波といえる口語での標準化は,Siebs による『ドイツ舞台発音』 (1898) 以降,ラジオとテレビの発達とともに進行していった.
従来,○○語史研究者が△△語について論じている△△語史研究者の発言にもの申すということは,学術の世界では一般的ではありませんでしたし,今でもまだ稀です.しかし,あえてそのような垣根を越えて積極的に発言し,謹んで介入していこうというのが,今回の「対照言語史」の狙いです.いずれのツッコミも,謙虚でありながら専門的かつ啓発的なものです.本書を通じて,新しい形式の「学術的ツッコミ」を提案しています.ぜひこのノリをお楽しみください!
・ 高田 博行・田中 牧郎・堀田 隆一(編著) 『言語の標準化を考える --- 日中英独仏「対照言語史」の試み』 大修館,2022年.
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最終更新時間: 2024-09-24 08:28
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