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ここ数年の間,May the force be with you! のような祈願の may の発達について,主に統語的な立場から関心を寄せてきた.本ブログでも may あるいは optative の各記事で扱ってきた通りだし,1年ほど前の2018年12月15には,東京大学駒場キャンパスで開催された日本歴史言語学会のシンポジウム「認知と歴史言語学 --- 文法化・構文化と認知の関係性 ---」において,「英語における祈願の may の発達」という題目で少しく話しをさせていただいた.
しかし,「祈願」,あるいは平たくいって「祈り」とは何ぞやという最重要の問題には,これまで手をつけずにきた.発話行為 (speech_act) の1種であるという理解でやってきたが,それはいったいどのような行為なのか.本質の理解が大事だとは知りながらも,きちんと整理せずに研究していたきらいがある.
しかし,たいていの発話行為の研究は,もしかしたら似たような状況なのかもしれない.言語の問題をはるかに超えたところにある問題だからだ.いや,まさにこの点にこそ,語用論研究の発展の可能性が開けているといえるのかもしれない.
とまれ「祈り」とは何か.『世界百科事典』第2版より,最も近いと思われる「祈禱」の項を参照してみた.
逾?禱
きとう
祈禱は広義に解すれば,すべての宗教的祈願,祈念,祈りを意味する.この意味の祈禱は普遍的にみられる宗教現象である.この場合,祈禱とは,神や仏といった超自然的存在と信者との交流の一形態であると考えられる.祈禱はまず大別して,会話型と黙禱型の2類型に分けて考えることができよう.会話型とは声を用いて祈り言葉などを誦する祈禱であり,黙禱型とは心のなかで念じて祈る型である.もちろん両者とも付随的に,閉眼,合掌などさまざまな動作が並行的になされることもおおい.さらに祈禱を個人的タイプと集団的タイプに類別することも可能である.信者が聖像や宗教的シンボルの前で,あるいは心中にそれを思い浮かべて個人的に行うものが前者である.ところがそれが定型化され集団的になされるのが後者である.この場合,祈禱が宗教儀礼化されているといえよう.
祈禱はあくまでも祈る対象があって成立する.そのため神や超自然的存在を立てない宗教には祈禱や祈りは存在しないという考え方もある.原始仏教や禅仏教がその例とされる.しかし座禅やヨーガといった修行のなかには,全人格をあげ宇宙の真理の体得をめざすといった広い意味での祈りの要素を見てとることもできる.研究者によっては,このような祈禱を神秘主義的祈禱とし,それに対して神をおき,それとの交流に中心をおく祈禱を預言者宗教的ないし対話的祈禱と名づけている.
祈禱の内容には請願,感謝,懺悔,賛美などがある.この場合,神や仏に対して具体的な効果やなんらかの直接的働きを期待するのは,純粋な意味での祈禱や祈りではないとする立場もある.神学者や宗教家の見解にもよくみられるし,またかつては未開宗教の研究者にも同様の見解が有力だった.そこでは,具体的効果を期待するものは,呪術ないし呪文であるとされる.そして呪文から祈禱および祈りへという進化が論じられた.しかしその後の研究の結果,呪文に満ちているといわれた未開宗教にも,高等宗教にみられるような祈りが存在することが判明した.また高等宗教の祈禱も呪文的性格を持ちうることも指摘されるようになった.キリスト教の主の祈りにせよ仏教の念仏にせよ,それが形式化され機械的に繰り返されることによって呪文的に用いられていることも現実に存在する.それゆえ最近では,呪文から祈禱へという図式はあまり論ぜられない.
日本語の祈禱の語は,とくにそれが〈御祈禱〉とされると,その意味がかなり限定されてくる.これは具体的な目的の成就達成を願って神仏に祈願する宗教行動をさす.家内安全,交通安全,病気平癒,五穀豊穣などいわゆる現世利益(げんぜりやく)を求めるものである.密教系寺院を中心に禅宗系や日蓮系寺院あるいは神社などで行われる.密教における護摩儀礼などがその代表例である.⇒加持祈禱 星野 英紀
うーむ,呪文か.祈願の may に関する統語問題などと呑気に構えてきたが,どうやら抜き差しならない話しになってきた.発話行為の問題は,言語学の領域にとどまってはいられない果てしなく射程の広いテーマのようだ.形式ではなく機能から迫る傾向のある語用論の研究は,容易に cross-disciplinary となり得る.エキサイティングだが,正直にいって扱いにくいトピックではある.
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最終更新時間: 2024-11-26 08:10
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