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受け取った電子メールの文章を,返信メールなどで引用する際に,各行頭に不等号記号の「大なり」 ">" ("right angle bracket" or "greater than") を付す慣行が定着している.この慣行は各種のマークアップ言語でも応用されており,ネット時代において新しい句読点の用法が発達してきたことを物語るものである.
しかし,驚くなかれ,テキスト引用のための ">" の用法は,実は中世に起源をもつのである.当時,">" に近い形の "diple" と呼ばれる記号があった.これは引用されるテキストの開始を示す記号として用いられたが,後に現代的な引用符 (quotation mark) へと発達した.diple そのものは廃用となり,忘れ去られたかと思いきや,現代のネット時代に新たな生命を吹き込まれたというわけだ(cf. 関連して「#1097. quotation marks」 ([2012-04-28-1]) も参照).
記号として復活したというだけでも驚きだが,専ら「開き」のみに用い「閉じ」に対応する記号が存在しないというのも,中世の句読法に忠実であり,おもしろい.現代の感覚だと,括弧にせよ引用符にせよ,「開き」があったら必ずペアで「閉じ」も存在していないと気持ちが悪い.しかし,この現代的な慣習が一般化するのは「#2969. 閉じない quotation marks」 ([2017-06-13-1]) でも見たとおり,割と遅く18世紀のことである.中世では「開きっぱなし」だったのである.実用上はどこで「閉じ」るのか分かりにくいという難点はあり得たが,そこはコンピュータ言語ではない.おおらかだったのだ.
現代の電子メールの慣習でも,各行の頭に ">" を付すが,末尾にはわざわざたとえば "<" を付すという面倒なことはしない.その意味では,コンピュータ上の言語行動でありながら,現代でもおおらかといえばおおらかだ.
メールで引用の引用として ">" を2重にしたりするというのは,さすがに現代的な発展用法だと思われるが,それにしても歴史の断続と連続はおもしろい.
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最終更新時間: 2024-10-26 09:48
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