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hellog〜英語史ブログ / 2018-10-20

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2018-10-20 Sat

#3463. 人称とは何か? [person][cateogry][indo-european][agreement][sobokunagimon][fetishism]

 英語を学習していると「人称」 (person) という用語に出会う.代名詞でいえば,1人称は I, we,2人称は you,3人称は he, she, it, they ということになっている.私たちは,人称の区別の原理は何なのかも教わらずに,まず上記のような区別をたたきこまれる.
 「人称」とは何なのか.これは,印欧語が典型的にもっている1つの世界観を名付けたものにすぎない.一種のモノの見方のフェチである.「人称」とは1つの文法カテゴリーであり,文法カテゴリーとはその言語共同体の共有する1つのフェティシズムにすぎない (cf. 「#1449. 言語における「範疇」」 ([2013-04-15-1]),「#2853. 言語における性と人間の分類フェチ」 ([2017-02-17-1])) .人称はすべての言語に関与的なわけではなく,たまたま英語を含む諸言語において重視されるカテゴリーであるにすぎない.
 そもそも「人称」などという仰々しい術語がよくない.英語では単に person といっているだけなのだから,「ひと」としておいてよいのかもしれない.しかし,「人称」とは「ひと」というほどの思わせぶりな概念ですらない.思い切って単純化すれば,単に森羅万象を「オレ」「オマエ」「それ以外」の3者に分けるという世界観にほかならないのだ.つまり,そこに必要以上に深い意味を読み込んではいけない.所詮,言葉を操る人間にとって最も重要なのは,「話しをするジブン」と「話し相手であるアナタ」と「それ以外の一切合切の存在」との3分であるという考え方は,ある意味で納得できる区分である.おそらく,最もプリミティブな区分は「オレ」か「その他の一切合切」かの2区分になるのだろうが,動物とは異なり高度なコミュニケーション能力を発展させた人間社会にとってのプリミティブとは,印欧語風の「オレ」「オマエ」「その他の一切合切」の3区分であるといわれれば,そうなのかもしれないとも思う (cf. 「#1070. Jakobson による言語行動に不可欠な6つの構成要素」 ([2012-04-01-1]),「#2309. 動詞の人称語尾の起源」 ([2015-08-23-1])) .
 日本語では,形容詞の人称制限と呼ばれる現象もあるにはあるが,人称のカテゴリーの存在感は薄いといってよい.しかし,印欧語などにおいていったんこの3区分が確立してしまえば,それが1つの世界観として影響力をもつだろうということは想像できる.「オレ」「オマエ」「その他の一切合切」とは,コミュニケーションの参与者の視点からすればそのまま重要度のランキングとなっており,この区分に基づいて言語体系が成り立っているとすれば,確かに理に適っている.それぞれの人称が主語として立つときに,述語の語尾も連動して変化するというのは,くだんの世界観を再確認する言語的手段なのだと考えれば,なるほどと納得できる.
 このように議論してくると,いかにも「オレ」「オマエ」「その他の一切合切」の3区分が自然にも思えてくるが,これは人間にとって必須の区分ではない.この3区分の重要性は,「人称」カテゴリーを明確にもたない日本語話者にとっても説明されれば分かる類いのものではあるが,なければないで言語として成り立つ程度のものであり,絶対視する理由はない.印欧語族ではそれがたまたま言語上に顕在化するという,ただそれだけのことなのだろう.それぞれの言語は,あるカテゴリーを明示的に表現したり,逆に表現しなかったりするものであり,その点では自由な存在なのである.

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最終更新時間: 2024-11-26 08:10

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