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hellog〜英語史ブログ / 2016-08-17

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2016-08-17 Wed

#2669. 英語と日本語の文法史の潮流 [japanese][periodisation][inflection][synthesis_to_analysis][syntax]

 言語史における時代区分については,periodisation の各記事で取り上げてきたが,英語史に関していえば,古英語,中英語,近代英語(現代を含む)と3分する方法が長らく行なわれてきた.文法史という観点から英語史のこの3分法を正当化しようとするならば,1つには印欧祖語由来の屈折がどのくらい保持されているか,あるいは消失しているかという尺度がある.それにより,古英語 = full inflection, 中英語 = levelled inflection, 近代英語 = lost inflection の区分が得られる.2つ目に,それと連動するかたちで,形態統語論的には総合性から分析性 (synthesis_to_analysis) への潮流も観察され,その尺度にしたがって,古英語 = synthetic,中英語 = synthetic/analytic,近代英語 = analytic という区分が得られる.いずれの場合も,中英語は過渡期として中間的な位置づけとなる.
 さて,日本語の文法史については,英語の文法史に見られるような大きな潮流や,その内部を区分する何らかの基準はあるのだろうか.森重 (81--83) によれば,日本語文法史には断続から論理への大きな流れが確認され,その尺度にしたがって,断続優勢の古代,断続・論理の不整たる中世,論理優勢の近代と3分されるという.この観点から各々の時代の特徴を概説すると次のようになる.

古代推古天皇の頃から南北朝期末まで文における断続の関係が卓越的に表面に出ており,論理的関係は裏面に退いている.断続の関係は,奈良朝期以前から特に係り結びによって表わされており,平安朝中期までに多様化し,成熟した.
中世室町期初頭から徳川期明和年間まで文における断続の関係と論理的関係がいずれも不整に乱れている.断と続が不明瞭で,論理的にも格のねじれた曲流文が成立した.この特徴の成熟は西鶴や近松に顕著にみられる.
近代徳川期安永年間から現在まで文における論理的関係が卓越的に表面に出ており,断続の関係は裏面に退いている.


 森重 (85) の言葉で日本語文法史の大きな潮流をまとめれば,「古代は断続の関係が卓越して論理的関係が裏面化し,中世は過渡的に両者が相俟って乱れ,近代は古代と逆の関係になった」(原文の旧字体は新字体になおしてある).もっと言えば,係り結びの衰退を軸として描ける文法史ということになろう.
 以上から,英語文法史は屈折の衰退を軸とした総合から分析への潮流を成し,日本語文法史は係り結びの衰退を軸とした断続関係から論理関係への潮流を成す,と大づかみできる.

 ・ 森重 敏 「文法史の時代区分」『国語学』第22巻,1955年,79--87頁.

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