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一昔前の変形文法などでは,形容詞が限定用法 (attributive use) として用いられている the big table という句は,叙述用法 (predicative use) として用いられている the table that is big という句から統語的に派生したものと考えられていた.後者の関係詞と連結詞 be を削除し,残った形容詞を名詞の前に移動するという規則だ.確かに多くの実例がそのように説明されるようにも思われるが,この統語的派生による説明は必ずしもうまくいかない.Bolinger が,その理由をいくつか挙げている.
1つ目に,限定用法としてしか用いられない形容詞が多数ある.例えば,the main reason とは言えても *The reason is main. とは言えない.fond, runaway, total ほか,同種の形容詞はたくさんある (see 「#643. 独立した音節として発音される -ed 語尾をもつ過去分詞形容詞」 ([2011-01-30-1]),「#712. 独立した音節として発音される -ed 語尾をもつ過去分詞形容詞 (2)」 ([2011-04-09-1]),「#1916. 限定用法と叙述用法で異なる形態をもつ形容詞」 ([2014-07-26-1])) .反対に,The man is asleep. に対して *the asleep man とは言えないように,叙述用法としてしか用いられない形容詞もある.先の派生関係を想定するならば,なぜ *The reason is main. が非文でありながら,the main reason は適格であり得るのかが説明されないし,もう1つの例については,なぜ The man is asleep. から *the asleep man への派生がうまくいかないのかを別途説明しなければならないだろう.
2つ目に,変形文法の長所は統語上の両義性を解消できる点にあるはずだが,先の派生関係を想定することで,むしろ両義性を作り出してしまっているということだ.The jewels are stolen. と the stolen jewels の例を挙げよう.The jewels are stolen. は,「その宝石は盗まれる」という行為の読みと「その宝石は盗品である」という性質の読みがあり,両義的である.しかし,そこから派生したと想定される the stolen jewels は性質の読みしかなく,両義的ではない.ところで,派生の途中段階にあると考えられる the jewels stolen は性質の読みはありえず,行為の読みとなり,両義的ではない.すると,派生の出発点と途中点と到達点の読みは,それぞれ「±性質」「?性質」「+性質」となり,この順番で派生したとなると,非論理的である.
Bolinger は上記2つ以外にも,派生を前提とする説を受け入れられない理由をほかにも挙げているが,これらの議論を通じて主張しているのは,限定用法が "reference modification" であり,叙述用法が "referent modification" であるということだ.The lawyer is criminal. 「その弁護士は犯罪者だ」において,形容詞 criminal は主語の指示対象である「その弁護士」を修飾している.しかし,the criminal lawyer 「刑事専門弁護士」において,criminal はその弁護士がどのような弁護士なのかという種別を示している.換言すれば,What kind of lawyer? の答えとしての criminal (lawyer) ということだ.
標題の2つの句に戻れば,the big table と the table that is big は,互いに統語操作の派生元と派生先という関係にあるというよりは,意味論的に異なる表現ととらえるべきである.前者はそのテーブルの種類を言い表そうとしているのに対して,後者はそのテーブルを描写している.
実際にはこれほど単純な議論ではないのだが,限定用法と叙述用法の差を考える上で重要なポイントである.
・ Bolinger, Dwight. "Adjectives in English: Attribution and Predication." Lingua 19 (1967): 1--34.
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最終更新時間: 2024-11-26 08:10
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