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英語の綴字の標準化の潮流は,その端緒が見られる後期中英語から,初期近代英語を経て,1755年の Johnson の Dictionary 出版に至るまで,長々と続いた.中英語におけるフランス語使用の衰退という現象も同様だが,このように数世紀にわたって緩慢と続く歴史的過程というのは,どうも理解しにくい.15世紀ではどの段階なのか,17世紀ではどの辺りかなど,直感的にとらえることが難しいからだ.
私の理解は次の通りだ.14世紀後半,Chaucer の時代辺りに書き言葉標準の芽生えがみられた.15世紀に標準化の流れが緩やかに進んだが,世紀後半の印刷術の導入は,必ずしも一般に信じられているほど劇的に綴字の標準化を推進したわけではない.続く16世紀にかけても,標準化への潮流は緩やかにみられたが,それほど著しい「もがき」は感じられない.しかし,17世紀に入ると,印刷業者というよりはむしろ正音学者や教師の働きにより,標準的綴字が広範囲に展開することになった.1650年頃には事実上の標準化が達せられていたが,より意識的な「理性化」の段階に進んだのは理性の時代たる18世紀のことである.そして,Johnson の Dictionary (1755) が,これにだめ押しを加えた.それぞれ詳しくは,本記事末尾に付したリンク先や cat:spelling standardisation を参照されたい.
この緩慢とした綴字標準化の潮流を理解すべく,安井・久保田 (73) は幅広く先行研究に目を配った.16世紀以降のつづり字改革,印刷の普及,つづり字指南書の出版の歴史などを概観しながら,「?世紀半ば」というチェックポイントを設けつつ,以下のように分かりやすく要約している.
つづり字安定への地盤はすでに16世紀半ばころから見えはじめ,17世紀半ばごろには,確たる標準はなくとも,何か中心的な,つづり字統一への核ともいうべきものが生じはじめており,これが17世紀の末ごろまでにはしだいに純化され固定されて単一化の傾向をたどり,すでに Johnson's Dictionary におけるのとあまり違わないつづり字習慣が行われていたといえるだろう.
この問題を真に理解したと言うためには,チェックポイントとなる各時代の文献に読み慣れ,共時的感覚として標準化の程度を把握できるようでなければならないのだろう.
・ 「#193. 15世紀 Chancery Standard の through の異綴りは14通り」 ([2009-11-06-1])
・ 「#297. 印刷術の導入は英語の標準化を推進したか否か」 ([2010-02-18-1])
・ 「#871. 印刷術の発明がすぐには綴字の固定化に結びつかなかった理由」 ([2011-09-15-1])
・ 「#1312. 印刷術の発明がすぐには綴字の固定化に結びつかなかった理由 (2)」 ([2012-11-29-1])
・ 「#1384. 綴字の標準化に貢献したのは17世紀の理論言語学者と教師」 ([2013-02-09-1])
・ 「#1385. Caxton が綴字標準化に貢献しなかったと考えられる根拠」 ([2013-02-10-1])
・ 安井 稔・久保田 正人 『知っておきたい英語の歴史』 開拓社,2014年.
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最終更新時間: 2024-11-26 08:10
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