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社会言語学では様々な調査が行なわれており,すでに古典的とされる著名な調査がいくつもある.本ブログでは,そのうちのほんの少数に過ぎないが,以下の話題に触れてきた.
・ 「#882. Belfast の女性店員」 ([2011-09-26-1])
・ 「#1363. なぜ言語には男女差があるのか --- 女性=保守主義説」 ([2013-01-19-1])
・ 「#1370. Norwich における -in(g) の文体的変異の調査」 ([2013-01-26-1])
・ 「#1371. New York City における non-prevocalic /r/ の文体的変異の調査」 ([2013-01-27-1])
いずれの調査も,階級や性など話者集団の社会的な区別が言語的変異と対応しているということを明らかにしている.このような研究結果をみると,確かに社会と言語とが関係していることはわかるが,なぜ相関しているのか,その相関関係が何を意味するのかという,より深い疑問が生じる.だが,多くの研究では,そこまで踏み込んだ議論には至らないことが多い.そこで,社会言語学は,社会と言語の相関関係を指摘して終わるだけの "correlational sociolinguistics" であるとの批判がなされてきた.言語学と社会学のそれぞれにおいて設定されているパラメータを付け合わせたに過ぎず,社会言語学という分野が独自に明らかにする知見というのは少ないという批判だ.
確かに,この批判は社会言語学者が重く受け止めるべき批判だと思われる.Wardhaugh (11--12) などもこの問題について紙面を割いて議論しているが,この批判への回答としてよくまとまっているのは Trudgill (39--41) だろう.Trudgill は次の5点を挙げて,"correlational sociolinguistics" との批判に答える.
(1) 言語的な証拠を基盤として話者に社会的地位を付与するにあたり,正確にどのような情報を用いているかを明示している.
(2) 対象としている言語共同体の社会構造について何かを教えてくれる.例えば,Norwich の例では,当該社会を Middle Class と Working Class へ大きく二分して捉えることが妥当であることを示唆する.
(3) 個人語 (idiolect) の振る舞いを予想することはできないが,ある社会集団の平均的な振る舞いを予想することが可能となる.
(4) 区別される社会集団の間の言語的差異は,あくまで相対的かつ連続的なものであることを示す.問題となっている差異が,質的な違いではなく量的な違いであることを示す.
(5) 言語変化にかかわる過程について多くの示唆を与えてくれる.
Trudgill は,社会言語学の自立は特に (5) にかかっていると考えている節がある."correlational sociolinguistics" ならぬ "causational sociolinguistics" (?) なる分野の発展が期待されている.
・ Wardhaugh, Ronald. An Introduction to Sociolinguistics. 6th ed. Malden: Blackwell, 2010.
・ Trudgill, Peter. Sociolinguistics: An Introduction to Language and Society. 4th ed. London: Penguin, 2000.
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最終更新時間: 2024-10-26 09:48
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