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hellog〜英語史ブログ / 2013-01-23

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2013-01-23 Wed

#1367. なぜ英語史を学ぶか (4) [hel_education][prescriptive_grammar]

「#24. なぜ英語史を学ぶか」 ([2009-05-22-1]) ,「#1199. なぜ英語史を学ぶか (2)」 ([2012-08-08-1]) ,「#1200. なぜ英語史を学ぶか (3)」 ([2012-08-09-1]) に引き続き,ポーランドの英語史界の重鎮 Jacek Fisiak 先生による「なぜ英語史を学ぶ必要があるのか」を紹介する.訳書 pp. 20--21 をそのまま引用して,学ぶ理由4点を示そう.わかりやすく,かつ力強い主張である.

 将来英語の教師になるために学んでいる学生が英語史を勉強すべき理由をいくつか挙げると.
 まず第1に,現在の英語を理解するためには,英語の過去について何かを学び知っていることは有益である.歴史に目を向けることによって,新しい視点で現代の英語に取り組むことができる.今日の英語では変則的な変化形と見なされるもの,たとえば man -- men,foot -- feet,mouse -- mice,ox -- oxen などに見られる近代英語の名詞の複数形が,かつては規則的な変化形であったという点から,この変則性を説明し理解することができる.同様に,今日ではジャングルのようにこんがらがって見える近代英語の綴りもチョーサーの時代にはかなり規則的であり,言語学的必要性から生じたものであった.その歴史を知れば,/f/ の音が <gh> あるいは <f> で表されていることについてはなんらおかしいところも不規則なところもないことが分かる.
 第2に,ある言語の過去の状態を知ることは,昔の文学作品を原文で読み,鑑賞する機会を与えてくれる.たとえば最高の訳であっても現代語訳を通してでは,中世や,ルネッサンス期の傑作の持つ雰囲気を感じとり,堪能することはできないであろう.
 第3に,言語使用における規範に関するある種の偏見から我々を解放してくれる.言語は変化するものであり,今日の文法規則に反している言語形態が,明日は「正しい」ものとなるかも知れない.言語の歴史に目を向ければ,我々はもっと寛大になれる.現在会話や文章で用いられている言葉はどんなものでも受け入れるべきだというのではない.言語の発展がどういうものかを十分に理解するならば,より理にかなった批判ができるということである.
 最後に,英国の歴史や文学や文化を学ぶに当たって,英語の歴史は学ばなくてもよいという理由はどこにもない.「歴史をいくらかでも知らない者は,その人の人間性の重要な側面の1つを欠く者である.歴史が今日の人間を作りあげたのであるから,人間を理解するためにはその過去をいくらかでも知らねばならない」 (Bloomfield & Newmark 1963: 19) .


 第3の理由として挙げられている段落の後半の議論は,特に重要である.英語のたどってきた歴史を振り返ると,何でもありのような自由奔放さが感じられるのは事実だが,だからといって現在生じているどんな言語変化でも無批判に受け入れるべきだということにはならない.「理にかなった批判」というのが非常に難しいところなのだが,それが何であるかを個人個人が自ら考えてゆく必要があるのではないか.「#1360. 21世紀,多様性の許容は英語をバラバラにするか?」 ([2013-01-16-1]) で見たように,規範主義が緩んできているという兆しが指摘されている昨今,この問題は重要性を増してくるだろう.そのために英語史が貢献しうることは多いと,私は考えている.
 なお,最後に引用されている著の書誌情報は,Bloomfield, M. and Newmark, L. A Linguistic Introduction to the History of English. New York: Knopf, 1963. である.

 ・ ヤツェク・フィシャク著,小林 正成・下内 充・中本 明子 訳 『英語史概説 第1巻外面史』 青山社,2006年.

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最終更新時間: 2024-10-26 09:48

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