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hellog〜英語史ブログ / 2012-03-09

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2012-03-09 Fri

#1047. nice の意味変化 [semantic_change][etymology][loan_word]

 英単語の意味変化としてよく知られているものが,いくつかある.[2010-08-13-1]の記事「#473. 意味変化の典型的なパターン」では,古典的な意味変化の類型にしたがって例をいくつか挙げたが,意味の良化 (amelioration) の代表例の1つとして nice を挙げた.評価を伴う形容詞は,「#505. silly の意味変化」 ([2010-09-14-1]) や「#742. amusing, awful, and artificial」 ([2011-05-09-1]) で挙げた語のように,意味を著しく,時には正反対へと変化させることがあるが,この nice も有名な例である.
 現代英語の nice は「よい,すてきな;親切な」の意味で頻用されるが,元をたどると古フランス語 nice "simple, stupid, dull" の1300年頃の借用であり,当初の意味は古フランス語そのままに「愚かな」だった.この古フランス単語は,ラテン語 nescius "ignorant" に遡り,後者は否定接頭辞 ne- と「知っている」を意味する動詞 sciō に基づく形容詞だった.つまり,nice は,英語では「ものを知らない」愚か者を形容する語として出発したのである.
 中英語での「愚かな」の語義での使用例を,Sir Gawain and the Green Knight から見てみよう.以下は,アーサー王が緑の騎士の挑発に怒って述べたことばである(Andrew and Waldron 版より,ll. 322--23).

And sayde: 'Haþel, by heuen þyn askyng is nys,
And as þou foly hatz frayst, fynde þe behoues.


 申し出が「馬鹿げた」ものであるとの解釈は,次行の foly (愚行)からも支持される.中英語では nice は第1義的的に「愚かな」だったことは,MED "nice (adj.)" の語義記述からもわかる.
 14--15世紀には「愚かな」の意味が優勢だったが,15世紀から女性の振る舞いを評価して「臆病な,内気な」の語義を発展させた.同時に「みだらな」も現われており,何をもって愚かな振る舞いとみるか違いが出ているように思われる.16世紀には「気むずかしい,やかましい」が現われ,「細かい」を経由して「繊細な,精密な」とプラス評価への兆しを示した.この最後の語義は,nice distinction (微細な区別)や a nice point of law (法律の微妙な点)などの表現に残っている.18世紀には,プラス評価が確立し,現在の「よい,すてきな」が現われ出した.新旧の語義の入り交じった16--17世紀辺りでは,文脈を精査してもどの語義で用いられているのかが判明しない場合があり,その多義性はきわまりなかった.いくつかの語義は現在までに失われたが,いくつかは現在にまで残っている.
 silly にせよ nice にせよ,評価を伴う形容詞は,捉える人間の価値観一つで,プラス方向にもマイナス方向にもなる.現在でも,silly はプラスの評価(愛情・憐憫)を含めた「馬鹿な」となりうるし,nice はマイナスの評価(皮肉)を込めた「すてきな」となりうる.適切な文脈やイントネーションがなければ,You're a nice fellow. の真意を理解するのは難しい.
 なお,名詞 nicety の意味変化も形容詞と平行して進んだ.当初は「愚かさ」で,現在は「繊細さ;優雅さ」である.英語に nice を供給したフランス語では,形容詞,名詞ともに廃用となっている.

 ・ Andrew, Malcolm and Ronald Waldron, eds. The Poems of the Pearl Manuscript. 3rd ed. Exeter: U of Exeter P, 2002.
 ・ Room, Adrian, ed. NTC's Dictionary of Changes in Meanings. Lincolnwood: NTC, 1991.
 ・ ジョーゼフ T. シップリー 著,梅田 修・眞方 忠道・穴吹 章子 訳 『シップリー英語語源辞典』 大修館,2009年.

Referrer (Inside): [2012-04-06-1]

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