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hellog〜英語史ブログ / 2012-03-28

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2012-03-28 Wed

#1066. 語源は「無法なる臆断」か? [etymology]

 「#466. 語源学は技芸か科学か」 ([2010-08-06-1]) や「#727. 語源学の自律性」 ([2011-04-24-1]) の記事で,語源学という分野の特異な性格,ともすれば学問として疑問符を付されるような微妙な性格を話題にした.語源学の使命は語の起源と歴史を明らかにすることだが,前者を表わす「語源」と,後者を表わす「語史」とは分けて考える必要がある.いうなれば,語源は点であり,語史は線である.ただし,後者は線とは言っても,明らかにされるのは,最初から最後まで切れ目のない実線ではなく,部分部分をつないだ点線にすぎない.それでも,形態・意味の流れのようなものが認められれば,語史として受け入れやすい.
 ところが,語源は語が生まれた最初の一点である.それ以前の状態は一応のところ仮定しないという段階にまで遡った濫觴である.理論上,先行するものがなく,それに支えられようがないので,語の起源の論拠は常に弱い.また,先行するものがないという仮説は,手続き上,採用せざるを得ないが,先行する何かがあったかもしれないという可能性は常につきまとう.
 柳田 (91--92) は,次の引用にみられるように,語の「生まれ」としての語源をむやみに追究することをいさめているが,その裏返しとして,語の「育ち」としての語史の追究こそが重要であると主張しているようにも読み取れる.

国語の事実はこの上もなく複雑なもので,我々はまだその片端をすらも知り得たとは言われない.これに対して文書の採録は,単なる偶然でありまた部分的である.従うて現存最古の書物に筆記せられている言葉が正しく,また最も古く且つ固有のものだときめかかることは,無法なる臆断と言わなければならぬのである./この立場から考えてみると,世の多くの語原論なるものは,誠に心もとない砂上の楼閣であるのみならず,仮にたまたまその本意を言い当てたりとしても,第一にその発見に大変な価値を付することは出来ない.思慮熟慮の結果に成る言葉というものも想像し難い上に,その伝承と採択に際しては,なお往々にしていい加減な妥協もあったからである.それを一々に何とか解釈しなければならぬもののごとく,自ら約束した学者こそは笑止である.


 「無法なる臆断」「砂上の楼閣」はなかなか手厳しいが,自らの限界を知りつつ限界にまで肉薄するのが,語源学の使命と理解したい.

 ・ 柳田 国男 『蝸牛考』 岩波書店,1980年.

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