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昨日の記事[2010-11-27-1]で aisle の綴字と発音について述べたが,その背景には一足先に妙な綴字と発音の関係を確立していた isle や island の存在があった.island は一種の誤解に基づいた etymological respelling の典型例であり,その類例を例説した[2009-11-05-1], [2009-08-21-1]でも詳しく触れていなかったので,遅ればせながら由来を紹介したい.
「島」を表わす語は古英語で īegland あるいは ēaland といった.この複合語の前半部分 īeg- や ēa は「水,川」を表わす語で,これに land が組み合わさって「島」を意味した.「水の土地」が「島」を意味するというのはごく自然の発想であり,ゲルマン諸語にも対応する複合語が広く見られる.ちなみに,īeg- の印欧語の再建形は *akwā で,これはラテン語 aqua 「水」と同根である.
さて,古英語の īegland は中英語では iland や yland として伝わった.一方で,1300年頃に「島」を表わす類義語としてフランス語から ile, yle が入ってきた.ここで iland は ile + land と再分析されることとなった.この分析の仕方ではフランス語形態素と英語形態素の組み合わさった混種語 ( hybrid ) となるが,この組み合わせは[2009-08-01-1]の記事で触れたように必ずしも珍しくはない.
さらにもう一ひねりが加えられる.15世紀にフランス語側で ile が isle と綴られるようになった.これは,ラテン語の語源 insula 「島」を参照した etymological spelling だった.この <s> を含んだ etymological spelling の影響がフランス語から英語へも及び,英語でも15世紀から isle が現われだした.複合語でも16世紀から isle-land が現われ,17世紀中に island の綴字が定着した.こうした綴字の経緯を尻目に,発音のほうは /s/ を挿入するわけでもなく,第1音節の長母音 /iː/ が大母音推移を経て /aɪ/ へと推移した.
ところで,古英語 īeg- 「水」に相当する語は,Frisian や Old Norse では -land を伴わずとも単独で「島」を表わすというからおもしろい.フリジア諸島やアイスランド島の住民が「おれたちゃ水のなかに住んでいるようなもんさ」といっているかのようである.「水」と「島」ではまるで反意語だが,島民にとっては We live on the water と We live on the island とはそれほど異ならないのかもしれない.
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最終更新時間: 2024-11-26 08:10
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