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[2010-07-28-1]の記事でアメリカ英語の方言区分を紹介したときに触れたが,AmE にも方言はあるものの BrE に比べて同質性がずっと高い.その理由は様々だが,いずれも社会的,社会言語学的な要因による.主な理由には以下のようなものがある.
(1) 人々の国内の移動・移住が頻繁であること.これにより,固定化した地域変種が現われにくくなる.社会階層間の mobility も同様に滑らかであり,固定化した社会変種も現われにくい.
(2) 種々の言語的,文化的,歴史的背景をもった人々により構成される国であること.これくらいの「るつぼ」ともなると,コミュニケーションを確保するために媒体たる言語は同質的にならざるをえない.
(3) 人々の間に共通の国家的同一性の意識が強いこと.[2010-01-07-1]の記事で触れたように,現代では Hispanic 系の成長などに関連して国内の言語的多様性の問題も浮上してきているが,歴史的にはおおむね national identity が強い.国内の秩序を保つ英語の役割は非常に大きい.
(4) 合理主義的な言語観.[2009-11-24-1]の記事を始めとして spelling_pronunciation の各記事で spelling pronunciation の話題を扱ったが,これはとりわけ AmE に顕著といわれる.言語の合理性はあくまで相対的な問題ではあるが,しばしば AmE の特徴といわれるのは事実である.
上の4点は互いに関連しており,他にも関連する諸要因を挙げることができるかもしれない.諸要因に通底する理由を抽出すれば,国民が diverse and mobile であることが根源的な理由なのではないか.一見すると diversity and mobility と linguistic homogeneity は矛盾するが,言語がコミュニケーションの道具であるという1点により,矛盾が解消される.むしろ,diverse and mobile だからこそ,言語的統一性が確保されなければならない,という理屈になる.
このことは,ピジン語の原初の形態が奴隷貿易船のなかで発生したという可能性を考えれば理解できる.各人の言語的背景が混合していれば,それだけ互いに歩み寄って平均的な言語を作り出そうと工夫せざるを得ない.多様性と同質性というのは一見矛盾しているようで,実は矛盾していない.
・ Bryson, Bill. Mother Tongue: The Story of the English Language. London: Penguin, 1990. 162.
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最終更新時間: 2024-11-26 08:10
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