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hellog〜英語史ブログ / 2010-12-21

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2010-12-21 Tue

#603. 最初の英英辞書 A Table Alphabeticall (1) [lexicography][dictionary][inkhorn_term][cawdrey]

 [2010-11-24-1], [2010-12-04-1]の記事で,Robert Cawdrey (1537/38--1604) の A Table Alphabeticall (1604) が,英語史上,英英辞書の第1号であることを紹介した.Simpson (18) によれば,"As far as is known, it [A Table Alphabeticall] is the first dictionary published in book form addressed to the general reader which defines 'usual' English words in English." ということである.今回は,Simpson のこの引用を参照して,A Table Alphabeticall が最初の英英辞書であるということは何を意味するのかを考えてみたい.
 まず第1に,英単語を見出しとする初の monolingual 辞書であるという点 ( "English words in English" ) が重要である.少し考えてみればすぐに分かることだが,羅英辞書,仏英辞書,伊英辞書などの2カ国語辞書 ( bilingual dictionary ) の出版のほうが,1言語辞書 ( monolingual dictionary ) の出版よりも早い.辞書の本来の目的は,未知の外国語単語を既知の自国語単語へ翻訳することであるからだ.たとえ辞書という立派な体裁をなしていなくとも,対訳単語リストの形で本の付録などについていたものを合わせると,すでに2カ国語辞書といえるものは出版されていた.しかし,英英辞書は Cawdrey のものが初だったのである.ただし,A Table Alphabeticall が bilingual dictionary と monolingual dictionary の中間的な辞書であったことは確かである.というのは,含まれている見出し語はすべてラテン語を中心とした借用語であり,それをわかりやすい英単語へ翻訳するというのがこの辞書の意図だったからである.ちなみに,大陸の他の言語ではすでに同種の1言語辞書はいくつか出版されており,あくまで「英英」として最初のものであったことを指摘しておきたい.
 第2に,"'usual' English words" を取りあげ,読者層として "the general reader" を想定した点.(1) で1言語辞書としては最初のものであった述べたが,専門語辞書であれば先行する1言語辞書は存在した.しかし,後者は当然専門家向けであり,一般大衆向けの1言語辞書は存在しなかった.16世紀の終わりまでに inkhorn terms ( see inkhorn_term ) を含めた大量の難解な日常語が蓄積されてきたことにより,一般向けに難しい日常語を解説する辞書の需要が増してきた.このタイミングで出版されたのが A Table Alphabeticall だったのである.
 上の2点から,Cawdrey にとって先行するお手本はいくつか存在していたことが分かる.例えば,[2010-07-12-1]の記事で触れた Edmund Coote の出版した The English schoole-maister: teaching all his scholers, the order of distinct reading, and true writing our English tongue (1596) や,Thomas Thomas の Dictionarium Linguae Latinae et Anglicanae (1587) は,見出しや定義に関して頻繁に参照された形跡がある(ある推計によると Cawdrey は見出し語の17--18%を両者に拠っている; see Siemens: Lexicographical Method in Cawdrey. ).こうしてみると,A Table Alphabeticall は Cawdrey の完全なオリジナルとはいえないのかもしれないが,歴史上の「最初の」という形容は,時代の潮流に乗り,人々の要求をつかんで,あるものを形として残した場合に与えられる称号なのだろう.この難語解説辞書の出版は,Cawdrey が Rutland (現在の Leicestershire の一部)の村の聖職者として,日々,人々にわかりやすく説教をする必要を感じていたこととも無関係ではない.時代の流れと人生の志とがかみ合ったときに,この歴史的な著作が世に現われたのである.

 ・ Simpson, John. The First English Dictionary, 1604: Robert Cawdrey's A Table Alphabeticall. Oxford: Bodleian Library, 2007.

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