01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31
時間をかけて鎌田(著)『地球の歴史』の3巻本を読み終えた.人類史,世界史,日本史などをズームアウトした巨視的な視点でとらえるビッグ・ヒストリーがはやっているが,この地球史からみると,人類の歴史なり言語の歴史なりがいかに小さな話題かがわかる(「#751. 地球46億年のあゆみのなかでの人類と言語」 ([2011-05-18-1]) を参照).ただし時間的に小さな話題ではあるが,その重要性を矮小化するわけではない.大きな視点に立つと見方が変わってくるということだ.
著者は,第3巻の「長めのあとがき」で「地球科学特有のものの考え方,視座がある」 (255) として4点を挙げている.
(1) 科学的ホーリズム (Holism)
(2) 長尺の目
(3) 歴史の不可逆性
(4) 現場主義,または「百聞は一見に如かず」
これらの点は,同じ歴史を扱う学問としての英語史にとっても示唆的である.(1) は,様々な現象が複雑に絡み合う複雑系の地球を理解するためには,その複雑な全体を1つのシステムとして理解する発想が不可欠だということだ.地球とは,生物学,数学はもとより歴史学,経済学などあらゆる学問を動員しなければ理解できない代物である,ということを述べている.
(2) について,著者は「要素還元主義で未来予測を行うと,近視眼的な結論しか出ない事が多い.それに対して何万年,何千万年というスケールで捉えることにより,長期的な予測が可能となる.『過去は未来を解く鍵』というキーフレーズの拠りどころは,こうした長尺の目にある」 (257) とコメントしている.時代を前後に大きく飛び越えた視点が大切なのだ.
(3) について,著者の言を以下に引用しよう (258) .英語史にもほぼそのまま当てはまる.
そもそも不可逆な現象を多数扱うものだから,理論の通りに進行することが少ない.言い換えれば地球科学は「例外にあふれている」という特徴を持つ.地球の歴史には思わぬ事件が多数登場するが,われわれ地球科学者は起きた現象をできるだけ正確に記述しようとする.十九世紀以来の地質学の蓄積によって,記述と体系化はかなりできるようになった.しかし,それがなぜ起きたのかという根源的な質問に答えられる場合は,実に少ない.
このような特徴ゆえに,地球科学は「例外や想定外に出会ってもうろたえない」「知的な強靱さ」 (259) を持ち合わせているという.これは嬉しい言葉だ.
(4) は,五感に近いところで研究を進めるべしという原則である.
歴史科学全般について,この4点から学べることは多い.
・ 鎌田 浩毅 『地球の歴史(上・中・下巻)』 中央公論新社〈中公新書〉,2016年.
2024 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2023 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2022 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2021 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2020 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2019 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2018 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2017 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2016 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2015 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2014 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2013 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2012 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2011 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2010 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2009 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
最終更新時間: 2024-09-24 08:28
Powered by WinChalow1.0rc4 based on chalow