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昨日の記事「#2399. 象形文字の年表」 ([2015-11-21-1]) で,「絵文字」が言語学的に厳密な意味での文字ではないことに触れた.現代の絵文字といえば「#2244. ピクトグラムの可能性」 ([2015-06-19-1]) で触れたピクトグラムが国際的な注目を集めている.この状況を,文字史の観点から考えてみるとおもしろい.
加藤 (28) は,近年の世界共通ピクトグラムの策定の動きをみていて,そのなかの文字がエジプト象形文字(ヒエログリフ)に似ているので驚いたと述べている.その上で,「このような文字が実は人類の文字の出発点であって到達点ではない」と指摘している点が興味深い.人類は絵文字から脱皮して,数々の機能的な文字を発達させてきたわけであるが,現在になって,いわば先祖返りして,文字史上もっともローテクというべき絵文字に訴えかけているのである.加藤 (29) は,こう続ける.
われわれの目によくふれる絵文字として交通標識がある.ドライバーは子どもの走っている絵を見れば,その先に学校があるのだと知って注意して運転しなければならない.機関車の絵を見れば,踏切があるのだと知って注意しなければならない.四辻に近づくと,衝突事故の大きな絵文字(ポスター)が目に入る.交通が発達するにつれて,人びとは高速度で走っている間に左するか右するか瞬間にきめなければならないことが多くなるので,文明社会にもこの種の絵文字はいよいよ多くもちいられることになるだろう.
人間は,文明を発達させてスピード社会を生み出し,直感的,瞬間的にコミュニケーションを取る必要に迫られ,その目的を果たす手段の1つが最も原始的といえる絵文字であることに気づいた,ということか.
現在,人々がピクトグラムに期待している役割は,上記のような直感的コミュニケーションだけでなく,言語の壁を越えた国際コミュニケーションである.しかし,原初の絵文字についても,その発明の動機づけの1つは,やはり自らの意図を他人に伝えるということだったはずだ.そして,その他人が自分と異なる言語の話者だったという可能性も,特に交易などにおいては,あっただろう.
このように考えると,文字はその歴史を通じて幾多の形式上,機能上の変化を遂げてきたにはちがいないが,その本質的な役割は原初から現在に至るまで変わっていないのではないかとも思われる.近年のピクトグラムの可能性の発見とは,(絵)文字の本質の再認識というべきかもしれない.
・ 加藤 一郎 『象形文字入門』 講談社〈講談社学術文庫〉,2012年.
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最終更新時間: 2024-10-26 09:48
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