「#2534. 記号 (sign) の種類 --- 目的による分類」 ([2016-04-04-1]) と「#2535. 記号 (sign) の種類 --- 伝える手段による分類」 ([2016-04-05-1]) の記事で引用・参照した村越の著書を読んでいて,絵文字らしい絵文字としてホボサイン (Hobo signs) というものが存在することを知った.村越 (50) によると,「20世紀に入ったヨーロッパでは,移動民族や浮浪者の間で「ホボサイン」といわれる絵文字が符丁のように使われていました.塀や道にチョークで書かれた絵文字で彼らは様々な情報を交換し合ったようです」.
しかし,調べてみると,hobo (渡り労働者)も Hobo signs も,典型的にはヨーロッパではなくアメリカにおける存在である.LAAD2 によると,hobo の項には "someone who travels around and has no home or regular job" とある.19世紀末から第二次世界大戦まで,特に1929年に始まる大恐慌の時期に,家と定職をもたない渡り労働者たちが国中を渡り歩いた.渡り労働者どうしが行く先々で生き抜くための情報を交換し合うのに,この絵文字をある程度慣習的に使い出したもののようだ.機能としては(そしてある程度は形式としても),現在日本で策定中のピクトグラムに近い.ホボサインの例は,以下のウェブページなどで見ることができる.
・ "Hobo signs" by Google Images
・ hobosigns
・ CyberHobo's Signs
・ Hobo Signs
・ Hobo signs (symbols) from Wikipedia
絵文字やピクトグラムの話題については,「#2244. ピクトグラムの可能性」 ([2015-06-19-1]),「#2389. 文字体系の起源と発達 (1)」([2015-11-11-1]),「#2399. 象形文字の年表」 ([2015-11-21-1]),「#2400. ピクトグラムの可能性 (2)」 ([2015-11-22-1]),「#2420. 文字(もどき)における言語性と絵画性」 ([2015-12-12-1]) を参照されたい.
なお,hobo は語源不詳の語として知られている.渡り労働者が互いに ho! beau! という挨拶を交わしたとか,188年代の米国北西部の鉄道郵便取扱係が郵便物を引き渡すときに ho, boy と掛け声をかけたとか,様々な説が唱えられている.OED によると初例は,"1889 Ellensburgh (Washington) Capital 28 Nov. 2/2 The tramp has changed his name, or rather had it changed for him, and now he is a 'Hobo'." とある.
・ 村越 愛策 『絵で表す言葉の世界』 交通新聞社,2014年.
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