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hellog〜英語史ブログ / 2014-07-15

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2014-07-15 Tue

#1905. 日本語における「女性語」 [gender_difference][gender][japanese]

 「#1887. 言語における性を考える際の4つの視点」 ([2014-06-27-1]) でみたように,性差の言語上への現われには様々なタイプがあり,多くの言語で語彙,文法,語法にみられるほか,最近の記事で取り上げたものとしては「#1900. 男女差の音韻論」 ([2014-07-10-1]) もある.現代英語において明確な性差を指摘することはそれほど簡単ではないが,それでも「#476. That's gorgeous!」 ([2010-08-16-1]) ,「#913. BNC による語彙の男女差の調査」 ([2011-10-27-1]) ,「#915. 会話における言語使用の男女差」 ([2011-10-29-1]) の記事や多くの研究で明らかとされているように,一般に信じられている以上に英語にも性差が反映されている.一方,現代日本語,少なくとも伝統的な変種では,男言葉(男性語)と女言葉(女性語)が明確に区別されるといわれる.日本語のように男女差が比較的明確な言葉は gender-exclusive speech,英語のように区別がそれほど明確ではないが,男女の使い分けの傾向はあるという言葉は gender-preferential speech と呼ばれている(東,p. 84).
 しかし,日本語が gender-exclusive であり女言葉が男言葉から区別されるとはいっても,その現れ方は限定的である.例えば,典型的な女言葉の特徴としては,特有の終助詞・人称詞・間投詞の使用,命令形の不使用,平叙文の文末における終助詞「の」の使用(「わたし,ケーキ大好きなの」),主語・主題を表わす助詞「は」「が」の省略傾向などにおよそ限られている.しかも,近年,これらの伝統的な女言葉の使用は減少しており,伝統的な男言葉が女性話者に用いられる傾向とも相まって,日本語のユニセックス化が進んできているといわれる.近い将来,日本語を gender-exclusive speech と呼び続けるのは不適切な状況になってくるのかもしれない.だが,そもそも日本語の女言葉は歴史上いかにして生まれてきたのだろうか.
 室町時代に,宮中の女官の間で「女房詞」と呼ばれる言葉遣いが現われた.もともとは性による方言というよりは,階級による方言として生じたものだった.この言葉遣いは,宮中の女性から公家の女性へと広がり,「女中ことば」と称されるようになる.さらに江戸時代には武家屋敷や富裕町人の娘へと拡がっていった.一方,江戸末期の遊郭の女性の用いる言葉使い(遊里語)が発達し,これら複数の水脈があいまって,明治の「婦人語」の母体を作った.婦人語は,良妻賢母を是とする明治の女子教育において,丁寧な響きをもつものとして推進された.もともとはエリート階層の女学生の言葉遣いだったが,後に一般に広まり,現代の「女性語」として確立していった.
 日本語が外国語としても学ばれるようになっている現在,「女性語」を推進し,男女差をことさらに際ただせることが果たして必要なのかどうかという議論が持ち上がってきている.一方で,柔らかい婉曲的な「女性語」を積極的に用いることによって自らの品位を示すことができるとして,これを肯定的に評価する向きもあるだろう.「女性語」の価値観は時代によっても変わる.現在の実情に合わせて「女性語」とは何かを解釈していくことが必要だろう.『日本語学研究事典』の「女性語」の項 (532--33) を参照されたい.

 ・ 東 照二 『社会言語学入門 改訂版』,研究社,2009年.
 ・ 『日本語学研究事典』 飛田 良文ほか 編,明治書院,2007年.

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