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標題について,「#852. 船や国名を受ける代名詞 she (1)」 ([2011-08-27-1]),「#853. 船や国名を受ける代名詞 she (2)」 ([2011-08-28-1]),「#854. 船や国名を受ける代名詞 she (3)」 ([2011-08-29-1]),「#1028. なぜ国名が女性とみなされてきたのか」 ([2012-02-19-1]),「#1517. 擬人性」 ([2013-06-22-1]) などで話題にしてきた.特に[2011-08-29-1]の記事では,この100年ほどの国名を受ける she の用法の衰退をみたが,関連して,使用が激減していた20世紀後半の一断面を共時的に調査した研究論文を読んでみた.
Marcoux は,1970年代前半になされたと思われる Texas の大学生(英語母語話者)を被験者とする実験で,国名,船,動物,人間を指示する語を主語として含む文を示し,それに対する付加疑問を即興的に加えさせるという課題を設定した.付加疑問には代名詞が現われるはずなので,その代名詞が he か she かにより,被験者が日常的にいずれの性をその名詞に付与しているかが判明する,というわけだ.例えば,次のような文を与えた.
(1a) America will always defend her overseas interests, ( ) ( ) ?
(1b) America supports the United Nations, ( ) ( ) ?
(2a) The Queen Mary has made her last voyage, ( ) ( ) ?
(2b) The Queen Mary has been scrapped, ( ) ( ) ?
(1a), (1b) は国名,(2a), (2b) は船に対して伝統的な she での照応がどのくらい現われるのかを調査する目的で設定されており,(1a), (2a) は文中の所有格 her の存在が she の選択にどの程度の影響を及ぼしているかを調査する目的で設定されている.
では,調査結果を示そう.まず国名について.(1a) のタイプの課題では約2/3の被験者が付加疑問で she を用いたが,(1b) のタイプで she を用いたのは半分以下だった.she でない場合には,it が最も多く,they, we などが続いた.
次に,船について.(2a) のタイプの課題では約3/4の被験者が付加疑問で she を用いたが,(2b) のタイプで she を用いたのは,被験者の1/3--1/2ほどにすぎなかった.she 以外には,原則として it が用いられた.
調査結果から分かることは,この実験の被験者にとって,国名と船を受ける代名詞の選択は,規範的・伝統的な she と革新的・自然的な it との間で揺れているということだ.だが,とりわけ国名に対して it の用法が優勢となってきているようだ.一方,国名でも船でも,文中に所有代名詞 her などが現われていると付加疑問での she の生起率も高くなることから,形式的な性の一致が,規範的・伝統的な「女性受け」を保持するのに一役買っていることも明らかになった.
Marcoux の論文から40年近く経った現在では,自然性による it の照応がいっそう拡大していると想像されるが,she が完全に過去のものとなったとは言い切れない.いまだに揺れが見られるとすれば,その背景にはどのような要因があるのだろうか.40年前と現在とでは,要因の種類とそれぞれの効き目は変わってきているのだろうか.この用法の she は風前の灯火かもしれないが,消えてゆくにしてもどのように消えて行くのかという問題には,関心を寄せている.
・ Marcoux, Dell. "Deviation in English Gender." American Speech 48 (1973): 98--107.
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最終更新時間: 2024-11-26 08:10
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