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過去の記事で,ローマン・アルファベットのいくつかの文字の名称について話題にした(昨日の記事「#1830. Y の名称」 ([2014-05-01-1]) と,その末尾にあるリンク先を参照).個々の文字について語るべきことはあるが,今回は子音字に関する一般論を中心に話を進めたい.以下,田中 (83--85) に依拠する.
現代英語のアルファベット26文字のうち,母音字 <a, e, i, o, u> を除いた21字が子音字である.子音字の名称はいくつかの例外を除き,その子音の音価に [iː] を後続させるグループ (Class I) と,[ɛ] を先行させるグループ (Class II) とに分けられる.
・ Class I: <b, c, d, g, p, t, v, z>
・ Class II:<f, l, m, n, s, x>
この分布を理解するには,歴史的な音価,とりわけ子音についてはラテン語(さらに文字史を遡ってエトルリア語)の音価を意識する必要がある.Class I の最初の6字はラテン語の破裂音 [b, k, d, g, p, t] に対応する.それぞれに後続する長母音 [iː] は,[eː] が大母音推移により,上げを経た結果である.一方,Class II の子音字はラテン語の継続音あるいは複合子音 [f, l, m, n, s, ks] に対応する.Class I の <v> と <z> は破裂音ではなく摩擦音だが,おそらく [ɛv], [ɛz] と呼んでしまうと,対応する無声子音字 <f> [ɛf], <s> [ɛs] と発音上区別がつきにくくなるという理由があったのではないか.
調音音声学的に Class I と II の分布を説明しようとすると,次のようになる(田中,p. 84).
子音文字について,継続宇音には e が先行し,そして破裂音には e が後続した現象は,Isaac Taylor がしたように,生理学的観点から眺めることもできよう.例えば,fe よりも ef という方がやさしく,eb よりも be という方がやさしい.それは継続音を発音する際には発音器官は完全には閉鎖されず,気息が漏れ,従って,子音が聞かれる前に母音が無意識に作られる.これにより,fe に達する前に実際上 ef が得られる.これに反して,破裂音の場合には閉鎖は完全であり,そして開放が行なわれる時,意識的な努力なくして母音が作られる.これにより,b に e を先行させることは明らかに努力を必要とするが,b は,唇が開かれる時,e に後続されることなくして発することはできない.言い換えれば,「最小努力の法則」 ('law of least effort') が,母音が継続音に先行し,そして破裂音に後続することを要求する.そして,この場合,最も容易な母音は中性的な e である.
興味深い説ではある.関連して,「#1141. なぜ mama と papa なのか? (2)」 ([2012-06-11-1]) も参照されたい.
<j> の名称 [ʤeɪ] については「#1828. j の文字と音価の対応について再訪」 ([2014-04-29-1]) で触れた通り,すぐ右どなりの <k> の名称 [keɪ] にならったものとされるが,[keɪ] 自体はなぜこの二重母音を伴っているのだろうか.これは,「#1824. <C> と <G> の分化」 ([2014-04-25-1]) で示唆したように,エトルリア語やラテン語において [k] 音の表記が後続する母音に応じて <c>, <k>, <qu> の間で変異していたことが影響している.[i, e] など前母音が後続するときには <c> が選ばれ,[a] の低母音が後続するときには <k> が選ばれ,[u, o] など後母音が後続するときには <q> が選ばれた.この傾向は英語を含めた後の諸言語にも多かれ少なかれ受け継がれており,英語の各文字の呼称にも間接的に反映されている.すなわち,<c> = [siː] はラテン語の <c> = [keː] から発展し,<k> = [keɪ] はラテン語の <k> = [kaː] から発展し,<q> = [kjuː] はラテン語の <q> = [kuː] から発展した.(前母音の前位置における [k] > [s] の音発達については,ラテン語から古フランス語を経て英語もその影響を被ったが,[kj] > [tj] > [ʧ] > [ʦ] > [s] の経路をたどった.)
最後に <r> の名称 [ɑː] (AmE [ɑr]) について.[r] は継続音として本来 Class II に属しており,ラテン語では少なくとも4世紀以降は [ɛr] のように読まれていた.中英語期に [er] > [ar] の変化が sterre > star, ferre > far など多くの語で生じたのに伴って,この文字の読みも [ar] へと変化した(関連して,「#179. person と parson」 ([2009-10-23-1]) と「#186. clerk と cleric」 ([2009-10-30-1]) を参照).その後,18世紀までに [ar] > [ær] > [æːr] > [ɑː] と規則変化して,現在に至る(田中,pp. 157--58).
・ 田中 美輝夫 『英語アルファベット発達史 ―文字と音価―』 開文社,1970年.
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最終更新時間: 2024-11-26 08:10
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